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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第5章:鋼の川船と富の略奪反乱

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第66話:狂熱の合同結婚式と、光に潜む影

建国3年の秋。


新嘗祭(収穫祭)と位置付けられたその日、帝都はかつてないほどの熱狂と喧騒に包まれていた。


かつて800人の難民が肩を寄せ合っていた木組みの村は、今や赤レンガと石造りの建築物が立ち並ぶ計画都市へと変貌を遂げている。

支配領域の拡大は著しい。歩いて回れる範囲の畑しかなかった建国1年時とは異なり、現在の帝国は、地平線まで続く広大な小麦畑を擁し、川沿いには水力工場群が並び、さらにはオハイオ川水系を遡った油田や採掘拠点までも物流の「動脈」として完全に掌握していた。


周辺部族の吸収合併と、噂を聞きつけて集まる難民たちによって、現在の定住人口は『1,400人』を突破している。現代人の感覚からすれば小さな田舎町だが、この時代における北米大陸において、数千人が一つの場所に定住し、レンガの家に住むなど、間違いなく最大規模のメガロポリスであった。


その民衆が今、帝都の中央広場を埋め尽くし、熱狂的な歓声を上げている。


「おぉぉぉっ!!」

「見ろ! 新たな族長(建国メンバー)たちだ!!」


広場を見下ろす大宮殿のバルコニーに、九条をはじめとする建国メンバーたちが姿を現した。 彼らは普段の油まみれの作業着や軍服ではなく、鮮やかな絹で仕立てられた豪奢な礼服を身に纏っている。


そして彼らの隣には、純白のドレスに身を包んだ花嫁たちが並んでいた。

郷田の隣には、普段の泥だらけの姿からは想像もつかないほど美しく着飾ったカシャが、少し照れくさそうに笑っている。その後ろには、同じく誇らしげな笑みを浮かべるティオたち6人の妻が並び、広場へ手を振っていた。

他のメンバーの隣にも、彼らのパートナーとなった女性たちが、緊張と歓喜の入り混じった表情で立っていた。


「……すごい人ね、郷田さん。これ、全員が私たちのお祝いのために集まってくれたの?」


カシャが広場を見下ろしながら圧倒されたように呟く。

郷田は豪快に笑い、カシャの肩を抱き寄せた。


「ガハハ! 当たり前だ! 俺たち建国メンバーの結婚式ってのは、ただの宴会じゃねえ。この国の豊かさを示す、一番のエンターテインメントなんだよ!」


その言葉通り、広場のあちこちには無数の屋台が並び、黄金色に輝くエール(ビール)や、香辛料をたっぷりと使った肉料理が『無料』で振る舞われていた。


「皆の者、喜べ! 我々は今日、お前たち現地の血を引く者たちと、真の『家族』となった!!」


九条がバルコニーの前に進み出ると、広場の歓声が一段と大きくなった。

冷徹な九条の顔には、この時ばかりは完璧に計算された「慈悲深き為政者」の笑みが張り付いている。


『……見事なものだな』


一歩引いた場所でその光景を見ていた東が、静かに息を吐いた。


『有力部族の娘を身内として取り込むことで、急激に増えた新参の民衆に「自分たちも帝国という巨大な家族の一員なのだ」という強烈な帰属意識を植え付ける。……圧倒的なパンとサーカス。これ以上の政治的パフォーマンスはねえ』


「それでは、祝杯の前に……我らが帝国の永遠の繁栄を祝し、雷神の咆哮を聞くが良い!」


九条が右手を高く振り上げる。

それを合図に、宮殿の屋上に陣取っていた鬼頭が、獰猛な笑みを浮かべて軍刀を振り下ろした。


「――祝砲、撃てェッ!!」


ズドォォォォォンッ!!!


帝都の空を切り裂くような、青銅砲の凄まじい轟音が連続して鳴り響いた。

腹の底を揺るがす衝撃と、立ち上る巨大な白煙。


「うおおおおおっ!!!」

「神の雷だ!! これが我らの帝国の力だ!!」


初めて青銅砲の音を聞いた新参の民衆は震え上がり、古参の民衆は自国の強大さに熱狂した。

圧倒的な富(食料と酒)と、圧倒的な暴力(青銅砲)。

その二つを同時に見せつけることで、民衆の心から「帝国に逆らう」という選択肢を完全に奪い去る。それが、この巨大な祝祭の真の目的だった。


***


夜になっても、街の狂騒は収まる気配がなかった。

広場では巨大な篝火が焚かれ、数千人の人々が楽器を鳴らし、踊り狂っている。


バルコニーから退室し、ようやく一息ついた建国メンバーたちは、控え室でネクタイを緩めていた。


「いやー、疲れたわ! 鉄を一日中叩いとる方がなんぼかマシやで」

「違いねえ。だが、これで政治的なタスクは一つクリアだ。明日からはまた、油田プラントの建設とアンモニア合成のテストに全振りできるぜ」


真野と東がジョッキのエールで乾杯を交わす。

だが、窓際で夜の街を見下ろしていた九条の表情は、どこまでも冷ややかだった。


「……約1,500人か。随分と膨れ上がったものだ」


九条の視線の先には、明るく照らされた中央広場だけでなく、その周囲に広がる広大な「暗がり」があった。


「ええ。人口150人の壁(ダンバー数)なんてとうに超えてる。誰もが顔見知りだった村社会のルールは、もう通用しねえよ」

東が横に並び、冷静な分析を口にする。


「古参の800人は、第一村ベースの『帝国標準語(ローマ字)』を完全に読み書きできる。だが、ここ1年で併合した連中の習得率はまだ4割といったところだ。……言葉や文字が通じないってのは、致命的な分断を呼ぶ」


急激な都市開発と人口増加は、当然のように歪みを生む。

言語の壁によって古参と新参の間に生じる摩擦。狩猟生活から工場労働への強制的なシフトに馴染めない者。無料の酒が尽きた後の貧富の差に不満を抱く者。そして、かつての部族の誇りを捨てきれず、帝国の同化政策に密かに反発する旧支配層。


華やかな光が強ければ強いほど、街の路地裏に落ちる影もまた、濃く、深く沈み込んでいく。


「圧倒的な権力は見せつけた。だが、これだけ巨大で異質な混成集団になれば、必ず『光の届かない場所』で澱みが生まれる。……注意を怠るなよ、鬼頭。治安維持部隊タタンカたちの練度向上は最優先事項だ」


「分かってるさ。物理的なインフラと一緒に、社会のガス抜きと統制システムもアップデートしなきゃならねえフェーズだ」


熱狂に包まれた合同結婚式の夜。 帝国が絶頂の繁栄を誇るその水面下で、1,500という人口が放つ無秩序な「熱」は、やがて都市を焼き尽くすかもしれない危険な火種として、暗がりの中でゆっくりと燻り始めていた。

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