表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第5章:鋼の川船と富の略奪反乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/85

第62話:果てなき鋼鉄の要塞計画と、大地の開拓

帝都の中枢である執務室。

分厚い木製のテーブルの上には、オハイオ川水系の地図と、巨大な設計図が広げられていた。


建国3年の春。


いよいよ本格化する「石油採掘」と、その輸送効率化に向けた首脳会議が行われていた。


「現状、原油を専用タンカーでそのまま運んでいるが……全体の数割にあたる『ガスや泥(不純物)』を運ぶために、タンカーの容積と時間を浪費していると言える」


九条が、地図上の『油田』と『帝都』の二つの点を指差しながら、冷徹な声で状況を定義する。


「ああ。どう考えても非効率の極みだ」


東が気怠そうに石板のデータを叩きながら同意した。


「だから、油田のすぐ隣に『化学プラント』を建てる。現地で原油を精製し、必要な『軽油』『重油』だけを純度100パーセントのエネルギー体として専用タンカーに詰め込んで運ぶ。……これがサプライチェーンの最適解だ」


「おうよ。だがプラント建設の鋼材やセメントは、液体専用のタンカーじゃ運べねえ。そこで、こないだ真野が作った『小型ディーゼル貨物船』の出番ってわけだな?」


丸太のような腕を組んだ郷田が、野獣のような笑みを浮かべる。

東がニヤリと笑って郷田を見た。


「その貨物船の『帰り荷』の件、忘れるなよ郷田。資材を下ろして空になった甲板に、周辺の森で伐採した硬葉樹ハードウッドを限界まで積んで持ち帰るんだ」


「わかってるさ。いずれ敷く『鉄道の枕木』用だろ? 油田周辺のクリアリング(整地)も兼ねて、木材をガッツリ伐採してやるよ」


完璧に計算し尽くされた物流のサイクル。

しかし、図面を睨みつけていた郷田は、表情をスッと引き締めてプロの顔になった。


「だがな、九条。この工事は未開の大自然のど真ん中に、数十メートル級の分留塔を建てるんだ。滑車クレーンの限界もあるし、コンクリートの養生期間も要る。……工期は、どう短く見積もっても『秋』まではかかるぜ」


「構わない。半年かけてでも、完璧なシステムを構築しろ。……必要な物資と人員のロジスティクスは俺が全て手配する」


九条の確約を得て、郷田は力強く頷いた。

大自然をねじ伏せる、半年間に及ぶ巨大土木プロジェクトが幕を開けた。


***


数日後。帝都の工房と船着き場。


カンカンカンッ!! と、水力ハンマーが鋼鉄を叩く甲高い音が鳴り響いている。


「チャパ! そっちのボルト穴のクリアランス、もうコンマ数ミリ追い込め! 巨大な滑車を支えるシャフトやぞ、ガタつきは命取りや!」


「はい、真野さん! すぐに削り直します!」


真野と弟子のチャパが、油と汗に塗れながら「巨大な滑車」や「ワイヤー用のウインチ」、そして「太い鋼鉄の支柱」を次々と錬成していた。


それらの部材は、川に浮かぶ小型ディーゼル貨物船へと運び込まれ、甲板に直接ボルトで強固に固定されていく。


『プラント用の巨大な陸上クレーンを、現地でどうやって組み立てるか? 答えは簡単や。そのクレーンを持ち上げるための「小さなクレーン」を、あらかじめ船にくっつけて持っていけばええんや』


真野は、貨物船に架装された「ジブクレーン(腕が旋回するタイプのクレーン)」のウインチを巻き上げ、動作テストを繰り返す。

船のディーゼルエンジンから動力を分岐させることで、人力とは比較にならないパワーでウインチが巻き上がっていく。


「よっしゃ、船側のクレーンの架装は完璧や! 郷田のオッサン! あとは現地で組み立てる『陸上用クレーン』の部材と、お前らのメシを積み込むだけやで!」


「ガハハハ! 助かるぜ、真野! さあ、行くぞ野郎ども! 手付かずの大自然に、俺たちの要塞を突き立てる第一歩だ!!」


郷田の怒号とともに、数十人の労働者を乗せたディーゼル貨物船が、黒煙を吹き上げながらオハイオ川を力強く遡上していった。


***


油田採掘拠点。

黒い原油を吹き上げるボーリング櫓のすぐ横に、重低音を響かせながらディーゼル貨物船が接岸した。


「よし、着いたぞ! カシャ! まずは船に架装した『ジブクレーン』を使って、陸上用クレーンの支柱を下ろすぞ!」


「了解、郷田さん! エンジン動力、ウインチに繋ぐよ!」


活発な女性・カシャが、貨物船の甲板でレバーを操作する。

船側のクレーンがうなりを上げ、重さ数百キロにも及ぶ「陸上用クレーンの基礎部材」を軽々と吊り上げ、川岸へと下ろしていく。


「よし、荷下ろしと並行して、周囲の森林を伐採しろ! プラントを建てる広大なスペースを作るんだ! 切り倒した木は枝を払って、帰り荷として船の甲板に積め!!」


郷田の指示で、先住民の若者たちが斧とノコギリを手に、鬱蒼と茂る広葉樹の森へと突入していく。

木が切り倒される轟音と、クレーンの金属音が大自然の静寂を完全に打ち砕く。


数時間後、帝都で加工された精巧なパーツ群が組み上がり、川岸に高さ十メートルほどの「陸上用デリッククレーン」が完成した。


「よし、クレーンは立った! 次は基礎工事だ! プラントの重さを支え切るための地盤を作るぞ! カヤ、地質はどうなってる!?」


「郷田さん! 表層の土を3メートルほど掘り下げれば、強固な岩盤層に到達します!」


地質調査担当のカヤが、図面と土のサンプルを見比べながら報告する。

郷田は迷わず指示を飛ばした。


「なら、そこまで一気に掘り下げるぞ! 掘り出した泥や残土は、川岸に回して突き固めろ! 洪水を防ぐための『防波堤(土塁)』として一ミリも無駄にせず再利用するんだ!」


「了解です!」


***


数日間に及ぶ過酷な掘削作業の末、巨大な穴の底に固い岩盤が露出した。


「よし、川から運んだ砕石を敷き詰めて突き固めろ! その上に型枠を組んで、ミキサーで練ったセメントを一気に流し込むぞ!!」


『プラントの命運は、この基礎フーチングの強度で全て決まる。上モノがどれだけ立派でも、足元が腐ってりゃ一瞬で倒壊するんだ』


郷田は自ら泥とコンクリートに塗れながら、アンカーボルトの位置をミリ単位で調整し、巨大な基礎の打設を完了させた。


「……ふぅ。とりあえず、第一段階クリアだな」


郷田は泥まみれの顔を拭い、夕日に照らされる巨大なコンクリートの塊を見下ろした。

カシャが水筒を差し出しながら、不思議そうに首を傾げる。


「郷田さん、これですぐに鉄の塔を立てるの?」


「いや。コンクリートが完全に化学反応を起こして、設計通りの強度(圧縮強度)を発揮するまでには、数週間の『養生期間』が必要なんだよ」


郷田はニヤリと笑い、切り開かれた広大な森と、帰り荷の木材を満載した貨物船を見遣った。


「その間に俺たちは、木材を切り出して帝都に送りつつ、次の資材が届くのを待つ。……秋まで続く、果てしない長期戦の始まりだぜ」


この日、大自然の真ん中に打ち込まれた巨大なコンクリートの楔は、やがて来る「鋼鉄の時代」の、揺るぎない土台となるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ