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新大陸建国記 〜未開のアパラチア山脈から始まる世界蹂躙〜  作者: tky
第5章:鋼の川船と富の略奪反乱

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第63話:現代知識の明暗と、マスケット銃の咆哮

建国3年の初夏。


帝都の中枢である執務室では、定期連絡船でもたらされた「油田プラント建設現場」からの報告書が広げられていた。


「郷田からの報告によれば、巨大基礎のコンクリートの養生が完了。現在、分留塔を支える第一層の鋼鉄フレームの組み上げに入ったとのことだ」


九条が紙に記されたローマ字の報告を淡々と読み上げる。

窓際のソファに深々と腰掛けた東が、気怠そうに首を鳴らした。


「順調だな。だが、滑車クレーンで吊り上げられる重量にも限界がある。高層階になるにつれて、足場作りとウインチの巻き上げ作業は指数関数的にキツくなるはずだぜ」


「ああ。郷田の推測通り、安全マージンを取ればプラントの完全稼働はやはり『秋』になる。……彼らが未開の大自然で奮闘している間、我々も内政のボトルネックを解消しなければならない」


九条の冷徹な視線は、帝都の「次なるフェーズ」へと向けられていた。

それは、都市開発の次元を引き上げるための「重機(物理的パワー)」と、豊かさを守り抜くための「圧倒的な武力」だった。


***


同日、帝都郊外のテスト射撃場。


――ダァァァンッ!!


腹の底に響くような爆発音と同時に、白煙が立ち込める。

50メートル先の木製の標的が、凄まじい衝撃で木端微塵に粉砕された。


「……完璧だな。弾道も安定してるし、暴発の兆候もゼロだ」


硝煙の匂いの中、鬼頭が満足げにニヤリと笑う。

彼の手には、磨き上げられた鉄の銃身と木製のストックを持つ、真新しい「先込め式マスケットプロトタイプ」が握られていた。


「そりゃそうやろ。俺の旋盤で作った『真円の鉄パイプ』やぞ。強度も精度も、中世の鍛冶屋がカンカン叩いて作ったモンとは次元が違うわ」


傍らで立ち会っていた真野が、誇らしげに胸を張る。

すると鬼頭は、銃を愛おしそうに撫でながら、水を得た魚のように饒舌に語り始めた。


「当然だ。だが凄えのは銃身だけじゃねえ。このグリップの傾斜角を見てみろ。『M1911(コルト・ガバメント)』の黄金角と同じだ。そしてトリガーのシアー(逆探知)構造は、近代狙撃ライフルの『2ステージトリガー』の図面をそのまま流用してる」


「……はあ、2すてーじ?」


「そうだ。引き金を引くときの『遊び』と『発射の瞬間』を指先で明確に感知できる機構だ。さらにストックの肩当てのラインは、反動を真後ろに逃がす人間工学エルゴノミクスに基づいている。……つまり、こいつは『弾の詰め方だけが中世』で、あとは現代兵器の操作性をぶち込んだ悪魔のキメラなんだよ」


ミリオタ全開で熱弁を振るう鬼頭に、真野が苦笑しながら銃の機関部を指差した。


「ああ、分かった分かった。お前の言う通りに『構造(答え)』さえ分かってりゃ、俺の加工技術で一瞬で形になるってこっちゃな。現代知識の強みってやつや」


鬼頭は標的の残骸を見据えながら、冷酷な軍人の顔へと切り替わった。


「そうだ。タタンカたち防衛部隊の再編を急ぐ。真野、明日からこのマスケット銃の『量産体制』に入るぞ」


「おう、任せとけ。部品の金型はもうできとる。流れ作業で一気に組み上げたろやないか」


***


数日後、帝都の工房。

「あかーーん!! また圧が抜けよった!!」


真野の苛立ちに満ちた叫び声が、油臭い工房内に響き渡った。

マスケット銃の量産と並行して彼が挑んでいたのは、手動のポンプで中に油を送り込み、その圧力で重い鉄塊を持ち上げる「油圧ジャッキ」の開発だった。


しかし、ピストンの隙間から黒い油が「プシューッ!」と音を立てて噴き出し、持ち上がりかけた鉄塊がガコンッと音を立てて床に落ちてしまった。


「真野さん! やっぱり、鹿のなめし革で作ったパッキンじゃ、高圧に耐えられずに千切れてしまいます!」


弟子のチャパが報告する。真野は頭を抱えた。


『アカン……。俺の腕でどんだけシリンダーをミクロン単位の真円に削り出しても、金属同士じゃ絶対に微小な隙間ができる。その隙間を完璧に塞ぐ「Oリング(ゴム)」がないと、重機は一生完成せん……!』


「なら、早く冴島のダンナにアレを作ってもらわなアカンな」


真野が工房の奥を睨みつけたその時、冷ややかな声が響いた。

冴島だった。その後ろでは、ミカが山ほどの「黄色い花をつけた背の高い雑草」を抱えて欠伸をしている。


「北米中西部に自生する『セイタカアワダチソウ(Goldenrod)』だ。この葉には、微量だが質の高い天然ゴム成分が含まれている。……抽出した成分に硫黄を混ぜて熱すれば、ゴムは錬成できる」


「マジか冴島! ほな、すぐにその弾力あるゴムを作ってくれや! 答えが分かっとるなら一瞬やろ!」


真野が身を乗り出すが、冴島は白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、呆れたようにため息をついた。


「簡単に言うな。硫黄を『8パーセント』混ぜて『140度』で熱するという『理論上の最適解』は頭に入っている。だが、今の未熟な釜の温度ムラや、抽出した天然硫黄の不純物率までは計算しきれない」


「あー、つまり、現地の設備の『癖』に合わせる微調整キャリブレーションが必要ってことね」


ミカが横から補足する。冴島は微かに頷いた。


「そういうことだ。現地の素材に合わせて最適な弾力を導き出すまでに、最低でも数週間はテストを繰り返す必要がある。……真野、大人しく待つんだな」


「よっしゃ! ほな数週間、ゴムはお前ら化学チームに期待して待っとるで! 出来上がったらすぐに油圧ジャッキを完成させたる!」


真野の言葉に、冴島は「せいぜい期待しておいてくれ」と冷ややかに笑い、雑草の山とともに実験室へと戻っていった。


***


それから数週間後の、初夏の終わり。

化学プラントの一角に設けられた実験室では、むせ返るような硫黄の匂いの中、冴島とミカが最終テストを行っていた。


「……ミカ。3番の釜、温度と時間は?」


「完璧。硫黄の不純物を加味して、配合率を8.3パーセントに修正したやつだよ」


冴島がピンセットで黒い塊を摘み出し、ペンチで強く引っ張る。

それは千切れることなく、強靭な弾力をもって「ビョンッ」と元の形状に戻った。


「……計算通りだ。これで『Oリング(パッキン)』の量産に入れる。真野の所に持っていってくれ」


「りょーかい」


現代知識による「答え」と、現地の環境に合わせる「微調整」が見事に噛み合った瞬間だった。

だが、そんな彼らの実験台の隣では、東が分厚い植物紙の束と睨み合い、イラついた様子で木炭のペンを放り投げていた。


「……あー、クソッ! こっちは『素材』の壁だ!」


彼が挑んでいるのは、空気中の窒素から化学肥料アンモニアを生み出す『ハーバー・ボッシュ法』プラントの基礎設計だった。


「冴島、理論は完璧だ。プラントの重油と水蒸気を反応させれば『水素』は大量に抽出できるし、空気を冷却して『窒素』を分離する手順も設計済みだ。……だが、その二つのガスを『200気圧』『500度』で結合させる合成塔の『素材』がねえ。高温高圧の水素ガスを普通の鉄容器にブチ込むと、『水素脆化すいそぜいか』を起こして鉄が内側からボロボロになって大爆発するぞ」


「……なるほど。水素や窒素を調達できても、それを反応させる容器の『素材』そのものが耐えられないわけか」


冴島が冷静に分析する。

水素の侵食を防ぐには、クロムやニッケルを混ぜた「特殊合金レアメタル」が必要だが、現在の帝都周辺の地層では採掘できない。


だが、東は設計図を乱暴に束ねると、不敵な笑みを浮かべた。


「だからって、レアメタルが手に入るまで指をくわえて待ってるようなお利口さんじゃねえぞ、俺たちは」


「……ほう? 何か手があるのか」


「『極厚の鋼鉄タンク』でゴリ押しするんだよ。内側がボロボロに侵食されるなら、完全に破壊される前に用をなすだけの『異常な分厚さ』を持たせりゃいい。寿命が来たら、ぶっ壊れる前に丸ごと新品の極厚タンクと交換してやる」


東は分厚い鉄の塊を描いたスケッチを指差した。


「定期的に中身のタンクを交換するハメになるからコスパは悪化するが、それでも有り余るメリットがあり、暫定処置としては十二分に機能するはずだ」


構造を知るゆえの圧倒的なスピードでの完成と、素材の限界をエンジニアの「力技」で突破していく執念。 帝都の天才たちは、現代知識という最強の武器を使いこなしながら、今すぐ出来ることと、将来に向けた準備とを、冷徹に見極めていた。

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