第四話 あれ? 俺って強すぎる?
「ガッハッハ! 頼もしいじゃねえか小僧! おい、店番! 一番高ぇエールを樽ごと持ってこい!」
バルガスが豪快に笑い、カウンターのテーブルをガシガシと叩く。
「ちょっと守! 何のってんのよ! これから宿を探して、街の案内をしてもらう予定だったでしょうに!」
セナが俺の袖をぐいぐいと引っ張りながら、ジト目で抗議してくる。
はい優勝。
ツンツンしつつも俺の予定を気にしてくれる相棒、最高か?
「案ずるなセナ。これもまた情報収集という名の聖戦だ。それに、ギルマスの奢りとあらば、この街の最高級宿の情報もタダで引き出せるというもの……ククク」
俺はすっと前髪をかき上げ、濁った暗黒の瞳(ただの夜更かしオタクの目)でオッサンを射抜く。
「ほう、言うじゃねえか。お前らみたいな面白い凸凹コンビは久しぶりだぜ!」
バルガスがドカッと椅子に座り、運ばれてきた大樽の酒をじろりと見つめた。
「だがな、小僧。 ただ飲むだけじゃ面白くねえ。俺の奢りを受け取るってことは……この『鉄拳のバルガス』と力比べをしてもらうってことだ!」
ゴゴゴゴゴ、とオッサンの背後から、歴戦の猛者特有のクソデカ威圧が立ち上る。
周りの荒くれ冒険者たちが「おいおい、ギルマスが本気だぞ……」「あの新人、死んだな」とひそひそと囁き合う。
出たよ。王道テンプレ、新人を試すギルマスの洗礼!
「力比べ、ね。いいだろう。オッサンの挑発、受けて立つ」
俺はフッと、不敵に口元を歪め、バルガスの前に座った。
「ルールは簡単だ。このテーブルで腕相撲。ルールは魔術の使用を禁ずる。俺に勝ったら、今日の酒代も、この街で一番高い宿の紹介状もタダでくれてやる!」
バルガスを丸太のような、筋肉の塊の右腕をドン、とテーブルに置いた。
木のテーブルがみしりと音を立てる。
「守、無理しないで。あの人、元SS級冒険者の『剛腕王』って呼ばれてた凄腕なんだから……」
セナが本気で心配そうな顔をして、俺の肩に手を置いてくる。
あば、
あばば、
あばばばば、
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!
十億年モノの純潔ソウルに、美少女の密着心配ムーブは特攻ダメージが過ぎるからやめて!
心臓がドコドコいって腕相撲どころじゃなくなるから!
「も、も、も、問題ない。俺のの右腕にには、じゅ、十億年の闇が育ててた『滅びの業火』が宿っていいいる」
「問題大有りじゃん」
「…………」
「…………」
「おっしゃあ、いくぞオッサン!」
俺は【籠森流神殺拳】の基礎中の基礎、筋力増力(を極限まで微調整したやつ)を右腕に回し、バルガスのゴツい手を握った。
「はっ、細い腕だな! 骨ごと砕いてやるぜ」
「レディー……ゴー!」
審判の……いつからいた審判!?
ってか、ギャラリーめっちゃおるやん。
俺らの試合が酒の肴になっとるやん。
「ぬ、ぬおおおおおおおおおっ!?」
バルガスの咆哮。
しかし、俺の右腕は一ミリも動かない。
そりゃそうだ。
俺、時空の狭間で一億年ぐらいは筋トレと我流の武術訓練やってるからね。
多分、魔王とかも原子崩壊レベルでワンパンできる腕力なんだわ。
「……フッ、その程度か? 『剛腕王』が泣いて呆れる……」
「な、なんだこの硬さは……っ!? まるで、ヒヒイロカネの塊を握ってるみてえだ……っ!」
額から滝のような汗が流すオッサン。
対する俺は、清々しく余裕の表情。
「では、こちらから行かせてもらう。【籠森流神殺拳:壊力】……の一億分の一」
コト。
優しい音を立てて、オッサンの巨腕がテーブルに沈んだ。
直後、ズトォォォンッ!! と、ギルドの床が衝撃波で派手に陥没し、オッサンの座っていた椅子が粉々に爆散した。
「ぶふぉぉぉっ!?」
オッサンはそのまま後ろへ吹っ飛び、酒場の壁にドッシャアアアンと綺麗に人間型の穴を開けて埋まった。
静まり返るギルド内(本日二度目)。
男たちのジョッキからビールが床にポタポタと落ちる音だけが、相変わらず虚しく響いている。
「あ、あらら……ちょっと力を込めすぎたか?」
俺が苦笑いしながら右手を振っていると、隣のセナが完全に「あばば」を通り越して、能面のような無表情でこちらを見つめていた。
「ねえ、守」
「…………どうしたセナ」
「あなたの辞書に『手加減』って言葉はないの? お願いだから、これから行く宿は破壊しないでよね?」
「いや、手加減したよ。それに元SS級なら大丈夫かなって……?」
「言い訳しない」
セナが引き攣った笑顔で、俺の頬を思いっきりつねってきた。
痛い。でもご褒美です、ありがとうございます。




