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第十四話 いや……ち、ち……がっ……ヤッ……て、なっ……だか……らアイ……ア……ンク……ロー……を……や、めて……

「ち、違うんだセナ! 服を着替えさせたのは本当だが、それは血や泥を洗浄術式で落とすためであって、下心は一ミクロンも……!」

「嘘おっしゃい! じゃあなんで目が覚めたら私の~~~をしゃぶってんのよ! この変態!」

(しゃ、しゃぶってねぇぇぇえええッッッ!!! 誤解の癖が強すぎるし、なんか元の状況よりもエスカレートしてない!? ただ頭を突っ伏して口が当たってたかもしれないだけだろ!? というか頭を突っ伏すのも駄目だわ―――!!!)

「だ、だからそれは断じて違う! 違うんだセナ! 我が魂がただ純粋に安眠の深淵に沈んだだけで、決してそんな、破廉恥な行為に及んだわけでは――!」

(※訳:ガチでやってない! 本当にやってないから! 頼むから信じて! 俺の十億年の純潔をそんな冤罪で汚さないでぇぇぇ!!)


 こうして、俺が必死で弁解しようとするも、背アハ一向に信じてくれない。

 ……俺って、そんなに信用無いんか。

 いや、そりゃそうだろ。いつも厨二病全開でふざけまくってる男が、夜中に女の子の服を勝手に着替えさせましたなんて、どこの世界に通用する言い訳なんだって話である。


 結局、誤解は一ミリも避けないまま、地獄の用に気まずい朝食を終えて、部屋に戻ってきた。


 朝食でのセナの荒れようは本当にヤバかった。

 前のトマトをブスブス刺す殺戮行為なんてまだ可愛いレベルである。

 今朝に至っては、焼き立ての香ばしいパンを、無自覚に放出した魔力によって一瞬で黒焦げの炭へと変え、それをジト目のまま、みしり……と凄まじい握力で粉々に握りつぶして散り散りにしていたのだ。

 あの黒い粉が宙に舞う光景が、今も脳裏に焼き付いて離れない。

 スープの味が全くしなかった。


 張り詰めた沈黙が流れる特等室。

 俺が部屋の隅でガタガタと震えていると、ベッドの前に立ったセナが、不意に自分の着ている純白の服をはだけさせ、躊躇うことなく、肩からするりと脱ぎ始めた!?


 続き、続きをしようとしているのかぁぁぁ――ッ!?

 まさかの一線越えセカンドステージの要求!? 朝食の黒焦げパン粉砕は、俺を美味しくいただくための前振りの儀式か何かだったというのか!?


 あまりの衝撃に、俺は両手で目を覆い、情けない悲鳴を上げて硬直する。


 一方、セナは俺の方を一切見ようともせず、ただ耳の裏までこれ以上ない程真っ赤に染めたまま、ベッドの上に用意していた冒険服を掴んでいた。

 要するに、ただの着替えだ。


 やっべえ、何を一線越えセカンドステージとか美味しくいただかれるとか、妄想してんだよバカか俺は!? 恥ずすぎるだろォォォ!!!


 己の脳内で行われていた邪悪な妄想にハッと気づき、俺は顔面をボッと沸騰させ、羞恥のあまりその場でさらに小さく縮こまる。


 そんな俺の様子に一切気付かないセナは、恥ずかしすぎて今にも消え入ってしまいそうな小声で、ぽつりと自白するように呟いた。


「……もう、今更隠したって遅いじゃないのよ……っ。昨日の夜、あんなに優しく着替えさせてくれたんだから、恥ずかしがって隠す方が、不自然でしょ……っ!」


 ……いや、そっちも大概やべえ妄想してたぁぁぁ!!!


「せ、セナ!? な、何故そのような大胆な行動に……! 我が深紅の瞳が焼き切れてしまうだろうがぁぁ!」

(※訳:ヤメロォォォ! 目のやり場に困るし、俺のなけなしの理性が一瞬で蒸発して、クズ男になっちゃうから本当に頼むからストップ!!!)

「うるさいわねっ! 見る者全部見たんだから、今更騒ぎ立てないでよ、この変態!」

「見てない!! 誓って洗って着替えさせたときは虚空を見つめていたぁぁぁ!!」


「嘘つき―――――ッ!!!」


            ○ ○ ○


 結局、セナの誤解を完全に解くことはできないまま、俺たちは活気あふれる冒険者ギルドの扉をくぐった。

 カウンターの奥では、バルガスのオッサンが、無造作に書類をめくっていた。

 俺たちが前に立った気配に気づき、顔を上げる。


「……あ? お前ら、忘れ物でもしたか? それとも逃げ帰ってきたのか?」 


 バルガスはニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべながら声を掛けてきた。

 

 フッフッフッ……。今からこの顔が驚愕に染まることが楽しみでしかねえぜ。


「いや、依頼の達成報告だ」


 俺はそう言って、空間の裂け目から、【懐絶の魔竜(ファフニール・エグゼ)】の禍々しい魔力を放つ巨大な結晶鱗と魔石をカウンターの上に、ドン、と置いた。


 バルガスの顔から、その笑みが完全に消え失せ、めくっていた書類が、その手から滑り落ちる。

 彼は素材と、俺の顔を交互に何度も見つめ、その目は徐々に驚愕へと見開かれていった。


「嘘だろ……アビサル山脈はここからどれだけ離れてると思ってやがる。宮廷魔導士の精鋭が全滅したSSS級の化け物を、一日で狩ってきたってのか……!?」


 オッサンの声が、信じられないものを見た時のように低く震えている。

 先ほどまでの余裕の笑顔はどこへやら、彼は目の前にある本物の魔竜の気配を前にして、完全に言葉を失っていた。


「ああ、移動は転移で済ませたさ……」


 俺が淡々と告げると、バルガスは深く息を吐き、今度は獰猛な笑みを浮かべた。


「竜王の素材を持ってきていた時点で気づくべきだったな。とんでもねえ化け物をギルドに入れちまったな……! こりゃあ、こないだの腕相撲、魔力測定装置みてえな小細工じゃ測りきれねえ訳だ。なあ小僧、今すぐ裏で本気の殺し合い(手合わせ)してみたくなっちまうじゃねえか」


 オッサンが剝き出しの闘争心を滾らせ、身を乗り出そうとした瞬間だった。


「おいバルガス、朝から俺の娘の専属騎士を血祭りにあげようとするな」


 ギルドの重厚な正面扉が開き、呆れたような声と共に一人の男が入ってきた。

 豪奢なマントを羽織り、ただ歩を進めるだけで周囲の空間を支配するような、圧倒的な王の覇気を放っている。


 セナの父親であり、この国の頂点に立つ国王だった。


「お、お父様……!? なぜここに……」


 セナが息を呑み、周囲の冒険者たちがその威圧感に慌てて膝を突く中、オッサンだけは深く頭を下げつつも、すぐに顔を上げてニカッと笑った。


「なんだ、国王直々のお出ましとは珍しいじゃねえか。また城を抜け出して美味い酒でも探しに来たか?」

「バカ言え、今日は公務だ。お前がまたこのギルドで暴れてねえか見張りに来たんだよ」


 国王は周囲の畏まる視線を気にする様子もなく、まるでなじみの酒場にでも入るように真っ直ぐに俺たちの前へと歩み寄ってきた。

 二人の間に流れる、遠慮のない空気に、ギルドの連中がぎょぎょっ、と驚いている。


 国王はカウンターに置かれた魔竜の素材へと視線を移すと、深く、そして満足そうに不敵な笑みを浮かべた。


「守殿。やはり、やってくれたな」


 王の視線が、俺の右腕へと注がれる。

 その瞳の奥には、いっこくのおうとしての鋭い眼光と、それ以上に俺という存在に対する深い信頼が閃いていた。


「我が【天眼】でな、アビサル山脈での一部刺繍は全て見させてもらったぞ。国家の精鋭を屠った魔竜を、文字通り塵一つ残さず滅ぼすとは……。お前の規格外の力、改めて感服せざるを得ん」

「……へえ、あの魔竜を本当に更地にしちまったのかよ。こりゃ今夜の酒の席は大荒れだな」


 横でオッサンが腕を組みながら、感心したように口笛を鳴らす。

 国王はオッサンとの軽いノリを一度ひっこめると、真剣な面持ちで俺を真っ直ぐに見据えてきた。


「これで我が国を脅かす脅威は去った。だが、守殿。お前に娘を、セレーナを託した父親として……そしてこの国の王として、直接確かめなければならねえことがある」

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