14.来世は定食屋
「……知り合いの男って、誰?」
「セトルーカス侯爵家のアレクサンドラです。」
先輩を追って宮廷魔法師になりたいと言っていたと紹介したから興味を持ってくれたのだろうか。先輩が興味を持ってくれると、アレクもきっと嬉しいだろう。
「へえ。仲いいの?多分一個上だよね?」
「そうですよ。仲良い、んでしょうかね?今日久しぶりに会いましたから」
さらに、先輩の追求がくる。
「元々どういう関係なの?」
「うーん、知り合いってのが一番近いですかね。友達って言うほど一緒にいたわけでも……。昔、少し縁があって。それ以降きっぱり会わなかったんですけど、今日久々にあって挨拶しました。昼以降は一緒に行動してもらいましたけど」
「ふーん」
なんか先輩、拗ねてる?チラッと王子の方を見てみると、なんか笑いを堪えている。やっぱり、今何か先輩がいつもと違う状態なのか。アリアが視線をやったことで、先輩も王子を見た。
「おい、お前なに笑ってんだよ」
「いや、ごめん……あの、あまりにも面白くて……ノクって拗ねるとそんな感じなんだ?」
やっぱり拗ねてるのかこれは。だとしても一体どこに拗ねる要素があった?先輩を褒めるのに自分自身じゃなくてアレクのことを伝えたからか?
「出てけ。早く帰れ。」
王子様は先輩に引っ張られて研究室の外に投げ出された。そんな粗雑に扱っていいのか。仮にも一国の王子様であり、宮廷魔法師であるノクティス様が仕える対象なのに。
「アリアも、疲れただろ。夕飯作るから食べたらすぐ寝れるようにシャワー浴びてきて」
研究室には、仮眠室とシャワー室が併設されていて、本当にここだけで生きていける。もちろん仮眠室は先輩と別々で一部屋ずつあるし、交互に使うとかでもない。四六時中、時間を気にせず研究ができる最高の設備だ。
先輩に言われた通り、シャワーを浴びることにする。この研究室で唯一残念なことといえば、浴槽がないことだろうか。寮には、各部屋にシャワールームと共用の大浴場がある。貴族の邸宅にはもちろん浴槽があるし、アリアもお風呂に浸かるのは好きだった。
鼻歌を歌いながら、体、髪の順で洗っていく。髪は一度水で洗い、花のオイルとハーブが混ざったものを塗る。これがまたいい匂いで、気分を安らかにしてくれる。
魔法が普及したんだし、作るのも簡単になったんだからもう少し安くしてもいいと思うが、職人のこだわりなのか、このオイルは魔法が使われておらず、高級品である。一部貴族しか使わないような代物だ。
これがいち研究室のシャワールームにあるだなんで、下級貴族が知ったら驚きだろう。アリアももちろん驚いた。先輩は普通の顔で「使っていいよ」と言っていたが、最初は全く使う気になれなかった。しかし、先輩に去年の風呂に入る気になれなかった時期のせいで何本か溜まってるから消費するのを手伝って欲しいと言われてからは、遠慮することなく使っている。勿体無いし。
どうやらこのオイルは先輩が買っているのではなく、公爵家から送られてくる日用品の一部なのだそう。お金持ちは流石だな……。アリアも伯爵家の出であるが、王家を除いて貴族界のトップである公爵家は、やはり格が違う。
濡れた体を拭いて、寝巻きに着替える。シャワールームから出ると良い匂いがした。今日のご飯は野菜と肉のスパイス煮だろうか。
「アリア。ご飯できたよ」
「ありがとうございます!」
簡易キッチンにいる先輩と目が合う。
(料理してる姿もかっこいいんだよなあ……)
先輩は、アリアの周りに小さく風を起こして、髪の表面を乾かしてくれる。髪にも水分を吸収する魔法が使えるが、そうすると髪に水分がなくなり、綺麗でなくなるらしい。
「先輩って、ほんとなんでもできますよね……」
テーブルに並んだ料理は、食欲を掻き立てる香りを放っており、その見た目は周りが見えなくなるほど。思わず涎が垂れそうになる。
「アリアもやってみればできるよ」
「先輩、私たち仕事がなくなったら定食屋やります?」
我ながらいい案な気がしている。先輩の料理は絶品だし、二人とも資本があるから店を開こうと思えば今すぐにでもできてしまう。
「残念ながら、俺たちは国で一番少数かつ必要とされている職であり、仕事を失うことがない。」
「じゃあ来世は一緒に定食屋ですね」
「ならアリアに料理を一から教えないとな」
「来世にはドラゴンとの共存が叶ってますかね」
「今世で叶えるんだろ?」
「だったら、ドラゴンと一緒にお店もやりたいです」
「客来るか?それ」
「来ますよ、絶対来ます!だって、ドラゴンですよ?私と先輩が、人生を賭けるほど魅了された生き物ですから」
「そうだな」
まだこの目で見たことがないドラゴンを想像して、脳内に未来像を描く。未来と言っても来世だけど……。
来世も、先輩の隣に自分がいることを当然のように話してくれたのが嬉しかった。
「来世は生まれるなら平民だな」
「そうですね、貴族は普通こんなに自由じゃないですもんね」
料理を食べ終えると、先輩が入れてくれていた冷たい果実茶を飲み干す。
「自由でいいだろ、俺たちは宮廷魔法師試験を突破してその自由を得たんだから。他のやつにとやかく言われる筋合いはない」
「私はまだ合格していませんけどね」
「ばーか、絶対するんだよ」
「筆記自信あるので馬鹿じゃないですよ?」
「じゃあアホ」
「なんで!?」
「間抜け」
「どこが!?」
「意気地なし」
「はい……!?」




