表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
9の石 ~青焔石~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
96/381

やめる、やめない

「俺、やめる気なんて全然ないぜ。アージュが泣いて謝りながら頼まなくても、俺は旅を続けるつもりでいるんだし。まぁ、俺がどこまで役に立ってるか、なんてわからないけど」

「そんなことないっ。グレイヴァのおかげで、どれだけの妖精が助かってるか……」

「あ、ありがと。とにかくさ、俺の一生で妖精が全部助けられるかわからないけど、やめてくれって言われるまで、俺は続けるつもりだから。変な心配、するなよ」

「本当? 本当に続けてくれるの?」

 まだ少し不安そうな表情で、アージュが尋ねる。グレイヴァは大きくうなずいた。

「ああ。俺には何の力もないけど、続ける」

 アージュが、今度は自分からグレイヴァに抱きついた。

「ありがとう……ありがとう、グレイヴァ」

「あ、言っとくけど、あんまり大きな期待はするなよ」

 抱き付くアージュを受け止めながら、グレイヴァは笑いながら応える。

 そんなグレイヴァを、ふいに眠気が襲った。

 ここは夢の中で、本当の自分は眠っているはずなのに、なぜか急に眠くなってきたのだ。

 錯覚にしては、やたらリアリティのある眠気。

「ごめんね、グレイヴァ。きっとあたしが強引に起こした形になったからだわ」

 グレイヴァの異変に、アージュはすぐ気付いた。その訳も。

「ここ、夢なのに……どうして眠いんだ?」

 力が抜けて行く。グレイヴァはアージュに寄りかかった。アージュがそんなグレイヴァを支える。

「グレイヴァが眠りを欲しているの。今、身体は眠ってるけど、意識だけ起こしたようなものだから。今までのできごとで、グレイヴァの意識も、もう少し休みたがってるの」

 わかるような、さっぱりわからないような。とにかく眠い。

「ゆっくり休んでね、グレイヴァ。ありがとう」

 グレイヴァは、アージュの言葉を最後まで聞けなかった。

 さっきまではグレイヴァがアージュを抱き締めていたが、今はアージュがその胸にグレイヴァの頭を抱いて眠らせている。

「やっぱりあなたって、貴重なくらい心がきれいな人よ、グレイヴァ」

 アージュは眠るグレイヴァの頬に、そっとくちづけた。

☆☆☆

 グレイヴァが目を開けると、部屋の中は明るかった。

 確か最後に診察されていた時も明るかったし、そうすぐに起きたとも思えないから、きっと丸一日経ったのだろう。

 横を見ると、アルテがイスに座ったままうつらうつらしている。看病に疲れて、眠ってしまったらしい。今いるのは、アルテだけのようだ。

 せっかく隣りにベッドがあるんだから、そこで寝ればいいのに。顔だけこっちへ向ければ、すぐに俺が見えるんだから。

 そんなことを思ったものの、心配してもらえる、というのはやっぱり嬉しい。

「アルテ……」

 ずっと寝かせておこうかとも思ったのだが、このままの姿勢で眠っても疲れは取れない。

 前の夜もリュリーのために火の番をして、エルデンと夜明かししていたはずだ。せっかく休める場所を提供してもらったのに、疲れたままではもったいない。

 グレイヴァに声をかけられ、アルテはすぐに目を覚ました。

「ああ、グレイヴァ。気が付いたんですね。気分は悪くないですか?」

「うん。少し頭がぼんやりしてるけど。俺、丸一日眠ってたのか?」

「いいえ、丸二日ですよ」

「なっ、二日も?」

 ということは、前に意識を取り戻したのは昨日のことではなく、もう一昨日のことになるのだ。まさかそんなに眠りこけていたとは。

 そんな事実にびっくりさせられ、目が覚めた。

「もしかして……その二日間、ずっとアルテがついててくれたのか?」

「いえ。もちろん、ぼくも休みましたよ。フィノやエルデンが交替してくれましたから」

 気を遣わせないようにか、アルテはそう説明する。

 半分は本当だろうが、アルテの性格ならほとんどずっとついていたのではなかろうか。

「……ありがと。けど、もう熱も下がったよな? だったら、すぐ復活するから」

 笑みを浮かべながらグレイヴァを見ていたアルテだが、最後の言葉でふいに表情が暗くなった。

 どこか少し思い詰めたような。

「グレイヴァ、もう……やめましょう」

「やめましょうって、何をやめるんだよ」

「この旅を、です」

 グレイヴァはきょとんとして、アルテの顔を見る。

 顔色の悪いアルテの表情は、ずっと考え続けた上で出した選択だと語っていた。

「今までにも、何度か危険なことはありました。それを無事にくぐり抜けられたのは、妖精達の加護と運のよさがあったからです。ですが……今回は本当に危なかった。リュリーの魔法がうまくいったからグレイヴァはこうして生きてますが、実際は紙一重の状態でした。この先も同じようなことが起きた時、ぼくはグレイヴァを助けられる自信が……ありません。かと言って、いつもリュリーのような存在がそばにあるとも限らないんです」

 現実に何度もケガをしたり、魔の気で倒れたりと、色々あった。

 それらを思い返せば、よくグレイヴァは今まで無事に生きていられると思う。運のよさ、としか言い様がない。

「ぼくは、自分の優柔不断さに腹が立っています。ウインデがグレイヴァに助けを求めた時、魔法使いではないのに、と思いながらも決断をグレイヴァに任せてしまった。本当なら、あの場でぼくが否定するべきだったんです。普通の人間では、リスクが大きい、と」

 妖精が関わるなら、当然魔法も関わる。そして、魔力に惹かれて魔物も現れる。

 その時に、力を持たない人間のグレイヴァは何の対処もできない。

 妖精に好かれるということは、魔物にも目を付けられやすい、と以前にフィノとも話をしていた。

 今回、魔物がグレイヴァを狙ったのも、そういう性質のためかも知れない。

 純粋な報復なら、アルテやエルデンでもよかったはずだ。魔物を攻撃していたのは、彼らなのだから。

「助かったのって、リュリーのおかげなのか?」

 夢の中で、アージュも言っていたような。

「ええ。魔物の出した氷の剣は、持っていた全ての魔力を集中させて、相手に氷結の力をもたらすものです。その剣で刺されたグレイヴァの心臓はそのために凍りかけて、ぼくが火の魔法で対処しようとしました。そこへリュリーが現れたんです」

 あの時見た夢は、あながちただの夢ではなかったようだ。現実にも、リュリーはグレイヴァにくちづけて魔法を解こうとしていたらしい。

「前日のダメージで、グレイヴァは弱ってました。そこへ魔法の力をかければ……ただでさえ、グレイヴァはそういった力に敏感ですからね。リュリーがやると言ってくれても、絶対に助かる保証なんてありませんでした。この先、似たようなことが起きないとも限らない。ですから」

「俺はいやだ」

「グレイヴァ!」

 アルテの言い分をおとなしく聞いていたグレイヴァだが、きっぱり断る。

「途中で放り出すなんて、そんな半端なマネ、絶対やりたくない」

「わかってますか。自分の命に関わる問題なんですよ」

「わかってるよ。けど、人間はいつか死ぬんだしさ」

「命ある者は、いつか死ぬ。それは自然の摂理です。ですが、本来の寿命を縮める必要なんてないでしょう。まして、グレイヴァはまだ十代です。死ぬには若すぎますよ」

「んー。俺だって、そうすぐに死ぬのはいやだけどさ」

 言いながら、グレイヴァはベッドの上に起き上がった。

 まだ少しふらっとくるが、あの青焔石(せいえんせき)が身体の中にあった時のことを思えば、ずっと楽になっている。

「俺、その死にかけてたって時に、夢を見てたんだ」

「夢……ですか」

「本当は夢じゃない……かも知れないけどさ。自分の家に帰ったら、親父とお袋に追い出されたんだ、俺。で、こっちへ戻って来た。夢だとしたら、うまくできてるよな」

「ご両親が生きるようにしてくださった、ということですか」

 似たような話なら、アルテも聞いたことがある。

「そう考えられなくもないかなって。その時に親父がさ、約束をまだ守ってないだろって言うんだ。何のことか思い出せなかったけど、今ならわかる。ウインデとした約束、俺はまだ果たせてないんだ」

「妖精を助ける、ということですか。でも、あの時は契約関係には至っていません。この旅は、あくまでもグレイヴァの善意の上に成り立っていて……」

 魔法使いは、妖精や魔獣と契約を交わす。そうすることで、より強い魔法が使えるようにしたり、自分が魔法を使わずに彼らにやってもらえるようになる。

 でも、グレイヴァの場合はそんなことはしてないし、だいたいやり方も知らない。魔法使いではないのだから。

 約束だと言うのなら、あれは口約束だ。深く考える程の約束ではないし、契約程に重くない。

「だけど、俺は約束ととらえてる。それに……さっき眠ってた時に、アージュが出て来た。泣いて頼まれたよ。妖精を助けてくれってさ。アルテが何を言っても、俺はやめるつもりはないし、妖精の方でも危険とわかっているけど続けてくれって」

「そんな……今回より大変なことだって、この先起こるかも知れないんですよ」

 まさか、妖精の方からそんな依頼をされるとは、アルテも考えなかった。

 グレイヴァは魔法使いではない、とわかっているはずなのに。

「でも、起きないかも知れないだろ。今回が最悪かも」

「グレイヴァ……。いいですか。妖精を助けると言っても、その元凶は魔物です。今回とは比べものにならないような魔物が、ぼく達の前に現れるかも知れません。むしろ、そちらの方が確率は高いんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ