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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
8の石 ~力命石~

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グレイヴァの瞳

「人間の俺を助けてくれるんだから、悪い奴じゃないって。それに、夢の中に入るなんて手間までかけて、場所を教えてくれたんだぞ」

 グレイヴァに解毒剤を飲ませた後、花の蜜のキャンディなるものを口に放り込んでくれた。

 もしバルシュが何かを(たくら)んでいて、こちらに警戒を解かせるつもりで夢に現れたのだとしても、ごほうびなどと言ってあんなことはしないだろう。

 謎は少し残るが、バルシュは敵ではない。

「とにかく、川を下ってみよう。それで、分かれてる所が見付かれば、俺が都合のいい夢を見たんでも、バルシュが嘘をついたんでもないってわかるだろ」

「グレイヴァ、動いて身体の方は大丈夫ですか?」

「腕をちょっと噛まれただけだ。どうってことない」

「昨日、青い顔して倒れてたのは、どこの誰よ」

「もう昨日のことは忘れた! 行こうぜ」

 すっかり元気になったようなので、アルテはあえてグレイヴァを止めずに出掛けることにした。

 魔物は退治できたが、妖精はずっと同じ状態のままなのだ。石を早く手に入れることも必要だから、ずっと休んでいる訳にもいかない。

「ふぅん。あいつら、木の葉でできた魔物だったのか。あ、だから緑の血が流れてたのかな」

 グレイヴァが眠っている間のことを、アルテとフィノが交互に道すがら話す。

「緑の血? グレイヴァ、あの魔物の血なんて見たの?」

「フィノが行ってから、俺に噛み付いた魔物がしぶとく現れてさ。その時に血が流れてたんだけど、緑だったんだ。魔物だからまともな色じゃないな、とは思ってたけど」

 フィノが感じ取っていた通り、魔物はあの場に現れていたのだ。

「それより、グレイヴァ。その魔物はどうなったんです」

「ああ、河原の石を投げ付けてやった。あの短剣、どこかで落としたからな。丸腰でやばいと思ったんだけど、周りに武器になる物があって助かった」

「グレイヴァって、本当に悪運が強いわねぇ」

 フィノがつくづく感心する。

「何で、悪運になるんだよ」

「たまたま致命傷にならなかったので、本能的に戻って来たんでしょうね。何にしろ、グレイヴァの身に今の傷以上のことがなくてよかったです」

 緑の血の跡はわからなかったが、魔物が消えたのならそれも消えたのだろう。

 そんな会話を交わしながら、ずっと川にそって歩いて行く。

 やがて、川が二本に分かれている場所を見付けた。分かれていると言っても、本流に対して支流と呼ぶのも恥ずかしい程の、細い流れだ。

 桶の水があふれてこぼれた……というレベルでしかない。

「……なぁ、これだと思うか?」

「でも、こういう枝分かれした流れは、今まで一本もありませんでしたからね。これと思っていいんじゃないですか? とりあえず、この流れに沿って行きましょう」

 本流からそれているのには違いない。途中で切れたら、ここへ戻ればいいのだ。

「こんなんじゃ、別に結界を張る程の流れとも思えないけどな」

「川幅の問題じゃありませんよ。大切なのは、この先にあるはずの石なんですから」

 バルシュの言う川はこれだ、ということにして、川に沿って進んで行く。

「どんな石が出て来るか、楽しみね」

「あ……それなんだけどさ」

 場所に気を取られて、もう一つの大切なことを言い忘れていた。

「俺、バルシュにどんな石なんだって聞いたんだ。そしたらさ……」

「そうしたら……どうしたんですか?」

「訳のわかんないこと、言われたんだ。グレイヴァの()を探せって」

「瞳を探せ? おかしいわよ。瞳()探せ、じゃないの? それ、文法が変よ」

「俺もそう思って、聞き返した。でも、それだけ言ったらバルシュはとっとと消えるし、俺も目が覚めたんだ。夢の中だけど、変だと思ったからよく覚えてる」

「言葉そのままではなく、その奥に別の意味が込められているのでは?」

「なぞなぞみたいなってことか? うーん、バルシュならありえるかな」

 初めて会った相手だが、そういうことをしそうな気がする。

「そのなぞなぞはともかく……どこまで行けばいいのかしら。もしかして、グレイヴァが聞いたのは、川の支流の方へ入れってことだけ、だったの? そのうちこういう場所へ出る、なんてことまで聞いてないとか」

「うん……聞いてなかった」

 フィノに言われて、グレイヴァも今頃気付く。

 結界という言葉にごまかされて「最終目的地がどこなのか」を聞くことをすっかり忘れていた。

「うーん、やっぱりあのバルシュって、あなどれないわね。親切なんだか不親切なんだか」

「もしかしたら、この川に沿って行けば自ずとわかるから、あえて話さなかったのかも知れませんよ。グレイヴァの瞳を、というのも、そこへ行けば解明されるのでは」

「うーん、だといいけどなぁ」

 言いながら歩くうちに、川幅が少し広くなってきた。広く……と言っても、一歩で越えられる幅だ。

 それでも、地面に染み込んですぐになくなってしまいそうだった流れは、小川と呼べる程度にまともな川らしく見える。

「え……何、あれ」

 先を歩くフィノが、そんな声を上げる。

 後ろを歩いていた二人も急いでそちらへ行くと、それまで木々に囲まれた山道だったのがいきなりひらけていた。

 面積で言えば、さっきまでいた小さな山小屋が二軒並んで建つくらいか。その中央を川は流れ、ひらけた部分を抜けて川下へと流れて行く。

 フィノが驚いたのは、そのひらけた地面にまるで玉砂利を敷き詰めたかのように、色とりどりの石があったからだ。

 もちろん、ただの石ではない。ほとんどが、何かしらの力を秘めた石ばかりだ。

「バルシュが言ってた力命石のある場所って……ここか」

「力命石だけじゃないわよ。名前は知らないけど、力を持つ石がたくさんあるわ。ここに石のコレクターでもいるのかしら」

「目的地へ来たんです。力命石を探しましょう……と言っても、どういうものかはわからなかったんでしたね」

 赤、青、黄、紫、黒、白……。どれもこれまでに見たことのない石だ。

 大きさに多少の差はあるものの、親指と人差し指で輪を作ったより少し大きいくらいのものがほとんど。

 たまに見たことのある石が混じっていると思えば、世間で出回っている力の持たない輝石。ルビーやサファイア、アメジストなどだ。

 人間にとっては価値があっても、妖精の力にはならない。

「俺が探したらわかる……そんなはず、ないよな。石の波動なんて、全然感じ取れないし」

「とりあえず、適当に探してみない? 石を見てるうちに、何か手掛かりになるような物を見付けるってこともありえるでしょ。考えるのは、探しながらでもできるわ」

 フィノのその言葉で、どんな石かもわからないまま、それぞれ探し始めた。

 グレイヴァは手当たり次第、石を手に取って眺める。が、これといって何も起きる様子はなかった。

 手にする石はどれも美しく、気持ちを惹き付けられるが、今はそんなことにいちいち構っていられない。

 俺の()って言われてもなぁ。俺の瞳は石じゃないぞ。まさか目玉みたいな石を探せって言うんじゃないだろうな。そんな気持ち悪い石、妖精がほしがるのか? さすがにそれはない、か。……ん、待てよ。俺の瞳って……。

「なぁ、すっごく単純かも知れないんだけどさぁ」

「どうせ単純だから、今更断らなくてもいいわよ」

 フィノのそういう茶々は放っておく。

「俺の瞳ってことは、俺の瞳と同じ緑の石を探せってことじゃないか?」

 グレイヴァの瞳は、緑色。つまり「グレイヴァの瞳を探せ」は「緑を探せ」になるのではないか。

 本当に単純だが、別に無理をして難しく考える必要はないのだ。バルシュだって、そこまでひねったヒントは出さない……と思いたい。

「そうか……。グレイヴァの瞳のような、緑の石ですね。違ったらまたその時に考え直すとして、緑の石を探しましょう」

 正しいかどうかはともかく「緑の石らしい」という推測ができて、探すのも気分が違ってくる。

 何一つわからない状態で探すより、小さくてもヒントがあればずっと探しやすくなるというもの。

「ねぇ……ざっと全体を見て回ったけど、緑の石なんてないわよ」

 敷き詰められた石を、大雑把ながら見て回ったフィノ。だが、少なくとも表面に見えている石に、緑色はなかった。下の方に隠れているのだろうか。

「下にあるなら、上にある石をのけて見付けるしかないだろ。それとも、石はこれだけあるけど、すっごく数の少ない種類かも知れないし」

「これだけ様々な色の石があるのに、緑だけがない、というのも妙ですね。やはり下の方に隠れているんでしょうか」

「隠されてるのかもよ」

 場所が違う? しかし、バルシュの教えた通りに歩いて、ここまで来たのだ。これだけ力を持つ石がたくさんあるのに、ここではない、とは考えにくい。だから、場所は合っているはず。

 グレイヴァの瞳と同じ緑、というのがやはり単純すぎたのだろうか。

 色々な考えが頭の中を交差しながら、それでも黙々と探し続ける。

 透明な石、不透明な石、整った石、歪んだ石……。本当にこの中に、探し求める石が存在しているのだろうか。

「……あ……れ?」

 ふいに、グレイヴァの目の前の映像がダブッた。一度目を閉じて、また開ける。すぐに治るが、またぼやける。

 グレイヴァは四つん這いになって石を探していたのだが、距離がないはずの地面がやたら遠くに感じてしまう。

 そして、次の瞬間にはひどく間近に。

「グレイヴァ!」

 フィノの声でグレイヴァは、自分が倒れている、と頭のどこかでのろのろと認識した。

 起き上がろうとするが、力が入らない。身体が拒否しているみたいだ。

「グレイヴァ! グレイヴァ、ぼくの声が聞こえますか」

 慌てて駆け寄って来たアルテが、グレイヴァを抱き起こす。

「うん……。すっげーくらくらする……」

 グレイヴァは、何とかそれだけ答えた。

「アルテ、ここから少し離れましょ」

「あ、そうですね」

 グレイヴァはアルテに肩をかり、玉砂利の広場から少し離れた。

 横にされて、めまいは少しおさまったが、まだ頭がくらくらしている。

 石を探すのに必死だったが、倒れる少し前から呼吸も少し荒かったような。

「残ってるのかなぁ」

 昨日の今日だ。魔物の毒の後遺症、だろうか。

「違うわ。あの『場』のせいよ」

「場のせい? 何だ、それ」

「あそこには、力を持つ石がたくさんあります。あれだけの数があれば、どうしても周辺の空気が強くなってしまうんですよ。色々な力に満ちてる訳です。普通なら、えーと……わかりやすく言えば弾くことができますけれど、グレイヴァの場合はそれをもろに吸収してしまうんですよ。しかも、その傾向が強いようですね。この前もそうでしたし」

「早い話、石の力に(あた)っちゃったのよ。酔ってるって方が、正しいかしら」

 フィノの「石の力に酔う」という表現はどうもピンとこないが、とにかく自分が倒れる程に強い力が漂っているんだろう、とグレイヴァは理解することにした。

「アルテ、この前って何のことだよ」

「ああ、エシナ達と会った時です」

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