第6話 不自由ばかり
僕たちは砂浜に戻ってきた。
以前とは違い、水分だけはきちんと補給しているので少し元気だ。
しかし昼間にここに来ると日差しがきつく、砂浜の砂がじんわり温かい。
日本は肌寒い時期だったというのに、正反対だ。
「迂闊だったわ。ここで作業するなら朝の方がいいわね。帽子もなしにこんな紫外線を浴びたら日焼けしちゃう」
「まあまあ。食べ物を見つけるならここが一番可能性が高いよ」
昨日わずかな時間をここで過ごしただけでも、魚や貝を見かけたのを覚えてる。
森に入って食べられるか分からないものを探すよりはマシだろう。
なによりもSOSを残せる。
「砂は乾ききってるから、なるべく深く大きく文字を書いて。空中からなら読みとれると思うわ」
「分かった」
木の枝を持ち、なるべく目立ちそうな場所にSOSの文字を書く。
「ダメ、歪んでる。もっと正確に」
「こう?」
「違う!」
監督する瑠璃に怒られながらなんとか書くことができた。
砂の色が同じなのでよく見える状態じゃないと判別は難しそうだ。
一応分かりやすいように木の枝を刺しておく。
「仮ならこれでいいでしょう。なるべく砂とは違う色の石を持ってきて同じように置くのが最適解になると思う」
「それなら確かに目立ちそうだ」
「雨でも降ったら崩れちゃうしね。これ」
「あー……」
本当にないよりはマシ、か。
「明日は探索しつつ手頃な石をたくさん見つけておきましょう。二人で運べばそう時間もかからないわ」
「一輪車でもあればすぐなのに」
「木で作れないことはないけど木を切るための斧がないわ。斧を作るには石を叩いて割って作る礫器が要る」
「その石を運びたいのに。何だか堂々巡りだ……」
「そういうものよ。それに食料に不安がある状態で負荷の強い肉体労働も推奨できない」
何もないので、何かを作るためにはその道具から作る必要がある。
意識していないだけで現代文明は色々と見えない力に支えられているんだなぁ。
「それで、何か食べ物はある?」
「食べられそうな貝はいくつか。魚は大きなのもいるけど手掴みじゃ厳しいかも」
「そう。あんまり使いたくはないけど、仕方ないわね。丁度そこに石があるから魚の多そうな場所まで持ってきて」
「あの石? これで何をするつもり?」
言われた通り、石を持ってくる。
拳よりは大きいかなというサイズだ。
「海の中にある大きめの岩へ持っている石を思いっきり投げつけなさい」
「???」
訳も分からず、石を思いっきり大きな岩に投げつけた。
ゴンッという音が水中からして、振動が海に伝わる。
すると少し経ってからプカーと魚が浮かび上がってきた。
「ガッチン漁っていう方法で、見た通り効率はとってもいいわ。でも今みたいな緊急時以外は禁止されているから注意してね。食べる分以外の小魚とか微生物にも被害が出るから」
とにかく魚を集める。
食べごろの4匹ほど回収できた。
……まだ小さな魚も同じように浮かんでいた。
あんまり多用すると生態系に悪影響を与えそうだ。
それに加えて三つほどよく育った貝を持っていく。
「たくさん採れたわね。次からはちゃんと釣りで手に入れましょうか」
瑠璃はそう言いながら靴を脱ぎ、足首まで海に浸かる。
それから空の貝殻を拾い、太陽に向かって掲げた。
「穢れなき楽園とでもいうべきかしら。本当に綺麗な場所……」
「観光に来ていたら楽しめたかも」
「そんな暇、私にはないわ。用が終わったらすぐ日本に戻って新しい論文を書く予定だったの。とんだ休暇になっちゃったわね」
少なくとも、現時点では僕も瑠璃も救助隊がここに駆けつけて助かることを前提にしている。
だからどこか楽観的な思いがあった。
枯れ枝を集めて、マッチで火をつける。
瑠璃は手に入れた魚に枝で作った串を突き刺し、その棒を用意した焚き火の周囲に貝と共に並べた。
「マッチは後どれ位残ってる?」
「あと30本くらい」
「ほぼ新品だったのね。何をするにしても火は必要だから助かるわ。もしマッチがなかったら火起こしにどれだけ手間と時間がかかるか」
「さすがに無くなる前に助けが来てほしいところだけど」
魚の味付けは海水だった。
焼いている途中に何度か海水に浸して塩味をつける。
少し塩が効きすぎている気がしたが、汗をかいたのでこれくらいがむしろいい。
貝は焼けたらそのまま食べた。
瑠璃はともかく、僕には少し物足りない。
だが食べ物は貴重だ。我慢しないと。
水筒の水を二人で分け合う。
食事を終えたら新しい拠点の候補を探す。
だが寝る時の安全まで考えると、最初の仮拠点以上の場所が見つからなかった。
「思ったよりも使えそうな場所が少ない……。自分で拠点を用意しないとダメね」
「家を作るってこと?」
「そこまでしなくても、木と木の間に枝や葉を敷き詰めて雨除けできれば悪くはないわ。手間もそこまでかからないし」
「なるほど」
「今日食べるはずだったスナック菓子は明日の昼に食べましょう。まず水を確保する必要があるし、食事を用意する手間を省いて少しでも長く探索しましょう」
「それは構わないけど……」
「体力を温存するためにももう横になった方がいいわ。寝ればお腹が減っても気にならないし」
二人でまた拠点の中で背中をくっ付けて横になる。
夕方になったかと思えば、あっという間に真っ暗になった。
疲れているものの、すぐには眠れない。
それは瑠璃も同じようで、何度も身じろぎしているのが背中から伝わってくる。
早く救助が来るといいな……。




