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生と死の狭間にある島  作者: HATI


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30/31

第30話 先に退院

それからは平和に時間が過ぎていく。

 事件に関して人が訪ねてきたのもあれが最後で、気兼ねなく治療に専念することができた。

 ただの被害者である僕たちがこれ以上協力できることもない。

 食事も重湯や柔らかい煮物、スープなどからちゃんとした固形食になり体力も戻ってきている。


 神原先生や看護師さんたちは優しくしてくれているし、後は弱った筋肉を上手く使えるように簡単なリハビリをすれば退院する日も近い。

 その情報が伝わったのか、オーストラリアにある日本大使館から連絡を貰った。

 帰国の手助けや様々なサポートをしてくれるらしい。


 瑠璃のリハビリを手伝って退院までオーストラリアで滞在したいと相談すると、最初は難色を示される。

 あんな事故があったのだし、早く日本に帰れるにこしたことはないだろうという感じだった。

 きっと心配もしてくれているのだろう。

 だが彼女とは遭難してから救助されるまで海の上で生死を共にしたのだから、一人で先に戻ることはできないと力説する。


 仕事でやっているとはいえ相手も人間だ。

 こう言えばもしかしたら考えてくれるかもしれないと、情に訴えかけてみる。

 すると心の琴線に触れたらしく、なんとかして請け負ってくれると約束してくれた。


 瑠璃の病室に入ってその話をすると、少し悪い笑みをしてフッと笑った。


「人間……特に大人は感動的なストーリーにとても心を動かされるらしいわ。きっと一輝の話を聞いた大人の人たちは涙ぐんだでしょうね」

「神原先生もグッときてたよ。本心をそのまま伝えたから別に嘘をついたわけじゃないし」


 瑠璃のリハビリを手伝う約束をしたし、せめて彼女が退院して帰国するまでは一緒に居たい。


「多分許可が降りるはずよ。なんなら私たち二人で一緒に帰国した方が向こうも都合がいいでしょうし」

「そうかな?」

「別々に帰国するよりずっと絵になるわ。明るいニュースに使えるだろうし……」


 瑠璃の方もかなり具合がよくなってきている。

 補助があれば少しくらいは歩けるようで、後はたくさん栄養をとってどれだけ瑠璃が頑張れるかだそうだ。

 もっとも、合理的な彼女のことだからリハビリをさっさと終えてなるべく早く退院を目指すだろう。



 ……そして先に僕が退院する。

 病院は病人がいるところだ。健康になったなら出ていかねばならない。

 僕の訴えは認められ、日本大使館の紹介で病院に近い格安のゲストハウスを期間限定で借りられることになった。

 お金は既に振り込まれた見舞金から払えばいい。

 瑠璃が退院するか、帰国したくなったら日本大使館に連絡して帰国する手もある。


 異国で一人暮らしか。

 一人暮らしは元々日本でもそれに近い状態だったので問題ない。

 ゲストハウスの管理人は日系人で、簡単な日本語が話せたし苦労はなかった。

 一番苦労したのは買い物だが、お金はあるしジェスチャーだけでもなんとかなるものだ。

 オーストラリアの人たちは日本人に優しく、そのおかげもあってなんとかなった。


 あのフリーのジャーナリスト……ルイスという人物が会いに来るのではと思ったがそれもない。

 きっと僕たちを取材してもたいして記事にならないとでも思ったのかも。


 それからは家と病院を往復する日々だった。


「一輝がここで入院していた頃より会ってる気がするわね」

「そりゃあ同じ病院とはいえ部屋は違うし、そうなるんじゃないかな」

「甲斐甲斐しく毎日会いに来てくれて嬉しいわよ? 私も家族とは疎遠だし」


 澄ました顔で言われたが結構嬉しい言葉だった。

 毎日瑠璃を車いすに乗せ、リハビリルームで散歩の補助をする。

 中庭は日当たりがよくて気持ちいい場所だが、万が一があるので止めておく。


「人間の体って……使えば使うほど鍛えられるけれど……使わないとあっという間に衰えるのね……っ」


 歩行器に支えられながら数分散歩するだけで瑠璃の息は上がっていた。

 これでも寝たきりの頃よりはマシになっている。

 神原先生によると、元々そこまで体力があったわけではないからか、筋力の低下が著しいらしい。


「頭は冴えてきた分、体が思うように動かないのはちょっと辛いわ」

「頑張って。あと少しで休憩しよう」

「……一輝って意外とスパルタなのかしら。あっ」


 足がもつれて瑠璃の体が傾く。

 歩行器を咄嗟に掴んでいたが、腕の力も衰えているのでとても支えきれない。

 僕は急いで傍に駆けつけて、転ばないように瑠璃を支えた。


(軽い……)


 まだ本調子ではない僕でもちゃんと支えられるくらい瑠璃は軽かった。

 カッコ悪いところを見せなくてすんだのはいいが、心配になる。


「ちゃんとご飯食べてる?」

「助けてくれてありがとう。ご飯は残さず食べてるから変な心配しないで。昔から体重は増えにくいの。しばらくすればちゃんと戻るから」


 彼女の腰を支えて立たせる。

 一度休憩することにした。

 ジュースを買って、瑠璃に渡す。

 無人島ではこんなこともできなかった。


「コカ・コーラってオーストラリアでも飲めるんだね。パッケージまで同じ」

「グローバル企業ってそういうものよ。日本の商品だって探せばあるはず」

「そういえばスーパーに日本でも有名な醤油があったよ」


 コーラのプルタブを開け、一口飲んで喉を刺激する強い甘さと炭酸を味わう。

 見た目は同じなのに少し味が違う気がした。


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