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生と死の狭間にある島  作者: HATI


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第28話 スーザンの日記

 僕たちの回復を確認したので先方と会うことになり、日程の調整が行われた。

 驚いたのは二日後にはこの病院に来ると決まったことだ。

 クルーズ船の社長と調査機関の人がやってくると聞かされた。

 目的は見舞いということになっている。


(事故の件で忙しいだろうに。いや、だからこそか?)


 生存者に会うことを最優先にしてもおかしくない。

 特に僕たちは救助されてから奇跡の生存者として記事になったり、ニュースでずっと名前と顔が出ているのだ。

 瑠璃は学生でありながらシンポジウムに招待されていることでより注目され、僕はオマケみたいなものだけど。


 そしてあっという間に彼らが訪れる日になった。

 瑠璃の部屋で面会するので、そこから病院の入り口を見下ろす。

 どこから情報を手に入れたのか、病院の前にはいつもより多くの報道機関の人たちが集まっている。

 だが警備が厳しくて中には入れないようだ。


 黒塗りの立派な車が駐車場に入ってくるのが見えた。

 そして男性が二人と女性が一人降りて病院内へと入っていった。

 キャスターの人などは一言だけでもコメントを得ようと近づくが、やはり警備に阻まれ悔しそうにしている。


 病院側が彼らを止めてくれて助かった。

 あの様子ではきっと質問攻めにあって気力も体力も消費しただろうから。


 やがてこっちに向かってくるコツコツと靴の音が響く。

 ノックの音がした後、まず白人の男性が入ってきた。

 茶髪で壮年のいかにも仕事のできそうなビジネスマン。

 その横に赤毛の美女が並んでいる。

 立ち位置からすると秘書のようだ。


 そして遅れてスキンヘッドの黒人男性が入ってきた。

 若くはないはずだが体格がガッチリしており、視線が鋭い。


 来るのはクルーズ船の社長とその秘書、そして調査員のはず。

 まるでハリウッド映画や海外ドラマでよく見るような軍人を思わせる人だ。


「彼らの担当医の神原です。同席させていただきます」


 僕たちにも分かるように日本語で話してくれたようだ。

 隣の秘書が通訳も兼ねているようで、彼らに神原先生の言葉を伝える。

 三人が頷いた。


 まず白人の男性が口を開く。

 ……英語だ。

 僕が分かったのは最初のhelloくらいのもので、後はサッパリ聞き取れない。

 秘書の人が日本語に訳してくれる。


 白人の男性はやはりクルーズ船の社長で、我が社の船による事故によってこのようなことになって申し訳ない。

 救助されたことを心の底から喜んでいる、というようなことを伝えられた。

 無人島に行って死にかけたのは嵐の中船が何らかの原因で大きく揺れ、やがて沈んだせいなのだが生きるのに必死だったせいかそこまで怒る気にはなれない。


 本来ならもっと怒るべきなのだろうけど。

 瑠璃も表情一つ変えず言葉を聞いていた。

 彼女の場合英語が分かるのでよりはっきりと相手の言葉が分かったはずだ。


「この事故による金銭的な被害は全て我が社が負担する。もちろん、クルーズ船の代金も含めて。見舞金も用意します。ただ、受け取りに際してこの書類にサインをして頂きたい」


 秘書の人がバインダーに挟んだ書類を2セット机の上に置く。

 僕と瑠璃の分だ。

 だがその書類を見る前に黒人の人が待ったをかけた。


「君たちは気が早すぎるのではないかね。私はまだ自己紹介もまだなのだよ」


 驚いたことに彼は日本語で喋った。


「調査のため派遣されたラリーだ。元はオーストラリア海軍の調査隊だが、経験を買われてね」


 軍人だった。通りで雰囲気が違うわけだ。

 ラリーと名乗り、僕と瑠璃に握手を求めてきた。

 求められるまま握手をする。

 彼の手は燃えるように熱く、岩のようにどっしりとしていた。


「君たちは救命ボートの上でサバイバルをして生き抜いたそうだね。訓練を積んだ兵士でも簡単なことじゃない。大変だったろう……、その勇気を称賛したい」

「ありがとうございます」


 褒められて少し嬉しくなる。

 無人島のことはやはり僕たちだけしか認識していないようだ。


「見たところこの書類には秘密保持契約も含まれているようだ。それは結構なことだが、原因究明のためにまず私が彼らの話を聞きたいのだが、構わないね?」


 秘書から翻訳された内容を聞くと一瞬社長の顔がわずかにヒクついた。

 勢いに任せて僕たちに書類にサインをさせたかったのだろうか。

 都合が悪いことを喋らない様に。

 ……英語で書かれているので瑠璃に読んでもらおう。


「君たちには辛い記憶を思い出してもらわなければならない。申し訳ないが、事故の調査は再発防止や次の救助に役立つことなんだ。頑張って話してもらいたい」


 僕と瑠璃が頷くと、ラリーが色々と僕たちに質問してきた。

 主に嵐の夜に何が起きたのかだ。

 ただ、正直なところ僕はほとんど覚えていない。

 突然揺れで起こされて、誘導されるまま救命ボートに飛び込んだところで意識を失った。


 瑠璃は起きていたので僕よりも詳しいのだが、事故の原因そのものに関しては彼女も分からない。


「ふむ、他の生存者とほぼ同じか。実はクルーズ船がどうして沈むほどのダメージを受けたのか分かっていないんだ。船は沈んだ後に海溝に落ちてしまって引き上げるどころかダイバーによる調査もできていない」

「そうなんですか?」


 まさかそんなことになっていたなんて。

 少しでも情報が欲しいのも当然だ。


「あの船は年代こそそれなり経っていますが、嵐で沈むことはあり得ません。内部からよほどの衝撃がない限り、水密隔壁やジャイロ安定化システムによって対処できたはずなのです」


 秘書から補足のように追加された。

 瑠璃もあの規模の船が沈むのはおかしいと言っていたっけか。


「私たちはともかく、もう少し詳しく知っている人がいたみたいです」


 瑠璃はスーザンの日記を取り出す。


「それは?」

「救命ボートに流れ着いた荷物の中に入っていた日記です。私たちのように事故から生き延びたものの、生存はできなかった人によって記されています」

「見せてくれ」


 瑠璃がラリーにスーザンの日記を渡した。




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