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生と死の狭間にある島  作者: HATI


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第18話 あり得たかもしれない可能性

 普通に生きていれば死体など目にする機会はない。

 お葬式くらいだろう。

 だが、そういう場ではまるで死者はただ眠っているかのように整えられている。


 後はドラマとか、映画など画面越しでしか見たことがない。


 しかし現実に今目の前にある死体はあまりにも生々しくそこにあった。

 そこでようやく異音と異臭に気付く。

 ひどく酸っぱい感じがして、しかしどこか甘ったるい匂いと、コバエがたかるよう音。

 こうして間近に来るまで気付かないなんて……。


 どうやら疲労や空腹のせいで注意力が散漫になっているようだ。


「おぇ」


 たまらず少し離れた場所で僕は嘔吐した。

 まともに食事をしていなかったこともあって、出てくるのは胃液だけだ。

 水分が足りないのか濃くて喉を焼く。

 僕はつばと共に口の中に残った胃液を吐きだし、海水で口の中をゆすいだ。

 それからゆっくりと水筒の水を飲む。


 たったこれだけのことで動悸が止まらないほど消耗して、動揺していた。


(確認……した方がいいよね)


 僕たちとは別の漂流者の可能性が高い。

 死んでいるとはいえ、得られる情報は何かしら使い道があるはずだ。

 僕ではどうしようもなくても、瑠璃なら何か気付くかもしれない。


 それに……このまま野晒しというのも可哀想だ。

 せめて砂を被せるくらいのことはしてあげたい。

 体力があればちゃんとお墓を掘りたいところだが、今の僕にはそれは手に余る。


 匂いがしない場所で深呼吸し、息を整える。

 だいぶ心も落ち着いてきた……と思いたい。


「よし」


 声を出して気合いを入れ、再び死体の近くに移動する。

 髪は頭部からはがれかけて皮膚が溶けており、筋肉と一部の骨が露出していた。

 なんて恐ろしい。


 髪の長さや服装から女性のようだ。

 分かりにくいが、外傷などは見当たらない。

 死因はなんだろう? 

 病がはやっているなら僕たちも感染しているはず。

 だがそんな様子はない。


 知識が乏しすぎて考えるにしてもどう考えればいいのか分からないのがもどかしい。

 死体から一旦目を離し、持ち物を確認する。

 彼女の持ち物は小さなショルダーバッグだけだ。

 他には見当たらない。


 心の中で両手を合わせつつ、バッグを掴む。

 女性の手が握りしめていたが、なんとか取れた。


 死体の持ち物を漁るなんて現実感がない。

 こんなこと全く予想していなかった。


 バッグの中身は……手鏡に化粧品。それから財布にパスポートだ。

 たったそれだけ。

 身元を確認するために財布とパスポートを拝借する。

 全て英語で書かれていた。


 苦労しながらなんとか読んでみる。

 名前くらいなら……スーザンというらしい。

 しかも年齢は僕たちと同年代だ。


 バッグの底に紙とペンもあった。

 紙はパスポートを切り取って用意した物らしい。

 そこには日記らしき文字が色々と書かれてある。

 きっとこの島に流れ着いてから書き始めたのだろう。


(ダメだ、読めない)


 僕の英語はリーディングもスピーキングも平均以下で、書かれてある内容を読むには不足している。

 それでもなんとか分かったのは、4日間は生き延びたらしいということ。

 そして最後の部分にはwater……とかすれて書いてあった。


(この人は最後まで水が手に入らなかったんだ)


 日を追うごとに筆跡が乱れて焦りを感じさせる。

 もし瑠璃がいなければ僕も同じ目に合っていたかもしれない。

 この無人島で水を手に入れるには知識が必要だ。

 生水を飲めば腹を下し、結局命を落とす。

 ……ふとあまりにもよくないことを思った。


「最低なことを考えてごめんなさい」


 もしこの人が生き延びて、僕たちと合流していたら。

 最低限以下の物資を分け合い早々に消費し尽くしていたに違いない。

 水を手に入れるためのマッチも、わずかしかない食料も。


 だから僕たちだけ生き残って申し訳ない気持ちと、共倒れにならなかったことを謝った。

 彼女の持ち物はそれだけだ。

 せめてもの気持ちとして、死体に砂を被せて外から見えなくなるようにした。

 サラサラの砂で動かしやすかったが、終わる頃には肩で息をして座り込む。


 日記だけは瑠璃なら読めるかもしれないとペンと共に貰うことにする。

 埋葬したので許して欲しい。


「……疲れたな。でもまだ食べ物を見つけてない」


 食べ物を見つけなければ帰る意味がない。

 ここまできたら最後の最後まで足掻いて、何かしら手にしたいところだ。


 さっきから視界に入る大きな木が気になる。

 死体を見つけたせいで後回しにしていたが、大きな実をつけているのだ。

 それもいくつも。


 島を歩き回って、あれ以外に期待できそうなものはない。

 小鳥の腹を満たす程度の食料しかこの島にはないのだ。

 見つけられる範囲での判断だが間違ってはいないだろう。


 手につばを付け、ゆっくりと木に登る。

 木登りなんて小さい時以来だ。

 思ったよりも力が入らないが、それでも確実に進む。


 実がなっている枝まで近づいたら、十徳ナイフで実を叩いて落とせないか試す。

 何度か試みると、ようやく一つ落ちた。

 それを繰り返し、最後の一個を落としたところで枝が折れて地面に落下する。


 視界に星が見えた。

 一日に二度も落下するなんて、と思いながらしばらくじっとして痛みに耐える。

 頭を軽く打ったようだが、受け身がまにあったようで怪我はなかった。


 落とした実を抱え、一度瑠璃の所に戻ることに決める。

 ……来た道は使えない。

 島をぐるっと回るしかないようだ。






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