第14話 積み重なる疲労
……波の音で自然と目が覚めた。
この名も知らぬ無人島に来て4日目だ。
今までで一番気持ちよく起きれた気がする。
体調もかなりいい。
なんせ昨日までは体を丸めて寝ていたからか、とにかく窮屈だった。
大の字で寝れるだけでも全然違う。
それだけじゃない。
スマホなどの電子機器を一切見ていないからか、目や脳の疲労が普段よりも少なく感じる。
ずっと寝る直前まで齧りついて見ていたから、それが常態化していたんだろう。
肉体的な疲れは休めば治る。
こんな環境でも人間というのは逞しいんだなと一人感心した。
日の出はまだ少し先のようで、薄っすらと明るくなっている。
隣を見ると瑠璃は眠っていた。
規則正しい寝息と共に胸が上下している。
少し寒そうだったので、毛布代わりにしていた上着を彼女に被せた。
僕よりもきっとたくさん頭を使っているので疲れているのだろう。
2日目こそ起きるのが早かったものの、3日目からはよく眠っている。
立ち上がると気持ちのいい風が体を吹き抜けていく。
広大な自然は厳しいが美しい。
先のことなど全く見通せず、救助の現状など知りようもないのだが……それでも生きている実感が日増しに強くなっている気がした。
「食べ物が少ないんだよなぁ」
問題点はそこに尽きる。
水はろ過できれば手に入れるのはそこまで難しくはない。
蒸留するために火をおこせるマッチもまだある。
それに比べて食料となるものがここでは手に入らなさすぎた。
この島で見つけたまともな食べ物は貝類と魚、それからヤシの実とデーツくらいのものだ。
貝類と魚はまだ手に入りそうだが、ヤシの実とデーツは少量しか見つけられていない。
探せば他にもまだある可能性はあるのが救いか。
この島で僕たちが探索していない場所はまだ広大だ。
大半が森で、海辺は岩場か砂浜なのでとにかく迷いそうなのが怖い。
着ている服は洗える時に洗っているのだが、少しずつ傷み始めている。
すぐに穴が空いたりはしないだろうけど、もしダメになったら新しい服も手に入らないんだよな。
いかに現代社会が便利で物があふれているかを思い知らされる。
「ふぁ。おはよう……」
太陽が昇ってくると同時に瑠璃も目を覚ました。
顔色も悪くない。
だが初日と比べると疲労がにじみ出ていた。
「今日で4日目ね。これからはいつ船や救助ヘリが来てもおかしくない」
「そうだね。新しいことばっかりだけど、さすがに疲れてきたよ」
「知識を実践できるのは素晴らしいことよ。でも生存を担保できないのはここまでストレスだったなんて知らなかった」
僕よりも彼女の方がモノを知っている。
つまり、いろんな可能性を考えてしまうのだろう。
それが心の負担になっているのだ。
「きっと大丈夫だよ。ほら、いつ来てもいいように準備するんでしょ」
「……そうね。考えても何も進まないわ」
先手必勝とばかりに動いていたはずの瑠璃は、少しずつ行動が遅くなっているように感じる。
雨の時の疲労がまだ残っているのか、あるいは体力的なものなのか。
男手である僕がその分を補うべきだろう。
二人で協力して生き残るんだ。
朝食は海に移動して、貝と海藻をココナッツの殻で煮たものを食べる。
海水を蒸留水で薄めて出汁にした。
どうせ水を作る時に火をおこすので一緒にやったわけだが……。
「貝の旨味が出てお汁は美味しいよ。貝の実も」
「海藻もちゃんと食べなさい。たくさんのミネラルやビタミンを含んでいるわ。鉄にカルシウム、ヨウ素。それから」
「分かったよ!」
観念して煮えた海藻を食べる。
ワカメやひじきは嫌いじゃないのだが、海から直接採った海藻はとにかく硬くてグニグニしている。
味も薄っすら塩っぽいだけで、あまり美味しくはなかった。
量だけは海にそれなりにあるのだが、カロリー的にはどれだけ食べても足りないらしい。
そもそも消化不良になる可能性があるため、そこまで食べられない。
「ご馳走様でした」
貝も食べ過ぎると貝毒に当たるからと瑠璃に採りすぎを止められた。
ガッチン漁は岩の近くに魚がいないとできないので、採れない時は採れない。
海水の出汁も飲みすぎると塩分で喉が渇く。
お腹いっぱいになる日は来るのだろうか。
持っている食べ物を一人で一度に食べれば満たされると思うけど、いくら僕でもそこまでバカではない。
「松脂とヤシの実の表皮を使って、強火で葉っぱ付きの木の枝を大量に燻せば目立つ狼煙になるわ。この辺は他に島も見えないし、多少遠くてもかなり目立つはずよ」
「それをいつでもできるようにしておくんだね」
狼煙か。
いい方法だと思う。
しかもより目立つようにするためのやり方まで。
僕ではそこまでは思いつかなかったかもしれない。
ヤシの実の殻を洗い、仮拠点に仕舞っておく。
ここは物置き代わりに使うことにした。
それからまずは松脂を集める。
ヤシの実の殻は割れて二つあるので、片割れはこういった素材を入れる器にした。
(ごめんよ)
心の中で謝りながら松の木を斬りつけ、垂れてきた樹液を器に溜める。
いくつかの松の木を経由してそれなりの量を確保できた。
一つの木で大量に採ると枯れてしまう。
それから瑠璃に聞いてなるべくたくさんの煙を出す種類の枝と葉っぱを伐採する。
ナイフの刃は掛けてはいないが、明らかに切れ味が悪くなっていた。
天然の砥石がこの島にある可能性はなくはないが、加工が必要なため難しいようだ。
「砥石の原石は堆積岩か凝灰岩……この島はおそらく、中心部にある山の火山がせり上がってできた島だから山の付近で凝灰岩は探せばあると思う。でも私たちには重機もなければ余力もない」
「ナイフのために命はかけられないよねぇ。探している間に救助が来たらと思うと」
「そう。これからは遠出はせず救助を待ちながら体力を温存するべきよ。3日じゃ道具もなくてあまり調べられなかったけど」
ヤシの実の表皮を一番下に敷き、そこに松脂を塗りたくる。
その上に枝葉をやぐらのように組む。
これで火を付ければすぐに狼煙があげられるはずだ。
雨が降っても濡れないように、仮拠点のなるべく大きな木の下に保管しておく。
いざとなったらひらけた場所に引っ張り出して火を付ければいい。
これが僕たちの命運を託す狼煙だ。




