第三十八話 敗者の結末
蒼天が勝ち東雲が負けた。つまりこの後に待っているのはあの赤い光。この場にいる誰もがこの後の展開を予見していた。
だが、ゲームが終了した後も赤い光は現れず誰も消えることはなかった。
蒼天の生徒たちが味わっていた束の間の喜びは一瞬にして不安や緊張などの感情に移り変わっていく。
澪が周囲を見回し確認する。
「……ゲームは終わったんだよね?」
久我も眉をひそめ疑問をぶつける。
「まだなにかあるってのかよ。」
その場にいた東雲の生徒たちも何が起きているのか分からずその場に立ったまま動かない。
その場にあったのは緊張という名の静寂。
その沈黙を破るように、モニターが光った。
そのモニターに映ったのは御影だった。そして御影の声が淡々と聞こえてくる。
『第四層、終了を確認しました。』
一拍の間を置き東雲へ通告する。
『それではこれより、敗北チームへの処理を行います。』
蒼天の空気が一瞬で張り詰める。その言葉は蒼天の生徒たちにとって忘れたくても忘れられないくらいに記憶にこびりついていた。
久我が小さく呟く。
「……処理って。クソまたかよ。」
凛が目を細める。
「……来るわね。」
一方で御影のその言葉に、東雲の空気は一変する。
誰かが呟くと、それが周囲に広がり混乱を巻き起こしていく。
しかし御影はそんな言葉に耳を傾けることもせずに続ける。
『東雲高校の皆様。あなた方は本ゲームに敗北しました。よって敗北ペナルティーが生じます。』
一瞬間が空くと誰もが予想していなかった言葉が飛び出す。
『そして今回のゲームでペナルティーが科される旗手ではなくその他の生徒。つまり旗手意外に適用されます。』
「……どうゆうこと。」
澪の声が震えている。驚いていたのは澪だけではない。その場の全員が澪と同じような反応をしていた。
真白も澪と同様に目を見開き、理解することができていない様子。
東雲側は未だ何人かの生徒が理解できずにいた。
「な、何言ってんだ……?」
「旗手じゃないのかよ……?」
その場にいる東雲の生徒たちは叫び、混乱し、命乞いをする者もいた。
そして次の瞬間一人の東雲の生徒の体が光に包まれる。
「……俺かよ。」
何も理解できないまま、その場で一人消えた。
澪が息を呑む。
「……消えた。」
次の瞬間、また一人、また一人と。それと同時に混乱の声が広がっていく。
「やめろ……!」
「なんだよこれ……!」
「助けてくれ……!」
だが誰もその光を止めることはできなかった。
一人ずつ消えていくそんな中で相馬が笑った。
「……はは、負けたか。やっぱ強ぇよお前。」
久我の方を見て拳を軽く握りながら言う。
「いい勝負だったぜ。次は……負けねぇからな。」
そして相馬が光に包まれ、消える。
久我が小さく呟き相馬との戦いを思い出していた。
「……強かったよ。お前もな」
次は浅野が吐き捨てるように言う。
「……ふざけんな、ふざけんなよ……!」
床を思い切り叩き、叫ぶ。
「こんなの認められるかよ!!」
誰もいない天井を見て叫んだが反応はない。
そして神崎を見る。その目はどこか悔しそうな、そんな目をしていた。
「お前も何か言えよ!!こんなのおかしいだろうが。」
だが神崎は動かずに消えていく他の生徒たちを見ていた。浅野の体が光に包まれる。
「……クソ。まだ死ぬわけにはいかねぇのに。」
そしてそのまま消えた。
篠崎は眼鏡を押し上げ静かに神崎を見る。
「……神崎」
眼鏡の奥の目は揺れていない。
「あなたなら分かるはずです。このゲームの“本質”を。」
篠崎の体が赤い光が包まれていく。
そして小さく微笑むと
「……任せましたよ。」
それを言い終わると九条の方を向く。
「あなたは私よりも少しだけ優秀だった。それだけです。せいぜい悔いのないよう戦い切ってください。応援はしませんがね。」
しかし九条はその言葉を否定する。
「私は別にあなたよりも優秀だったとは思っていない。ただ私には思いをを託してくれた友がいた。勝てたのはそのおかげよ。」
その言葉に篠崎は自身が負けた理由を少しだけ理解したようだった。
「思いですか。そうゆうのはあまり信じないのですがあなたが勝てた理由がそれなら私が勝てなかったのも無理ないですね。」
「ですが次はありませんか。可能ならもう一度対戦してみたいものですが、少し残念です。」
その言葉を最後に篠崎は消えた。
そのほかの生徒が声を震わせる。
「待ってくれよ…」
さらに一人、小さく呟く。
「……終わり、か。」
その後数分が経つと盤面には神崎だけが残っていた。
だが御影の声は変わらず続く。
『旗手、神崎慧斗は例外とします。』
久我が顔をしかめる。
「……例外?」
神崎が小さく息を吐くと、消えていた者たちの言葉が脳内に溢れた。
一瞬目を閉じ、そして開く。
「なるほど“選別”ですか。」
凛が眉をひそめる。
「……選別?」
神崎は玲央の方を見る。
「あなたは“人”を見ていた。今回のゲームはそれがあなた達の勝因です。」
玲央は何も言わない。そのまま神崎が続ける。
「……ですが、この先もそれで通用しますかね?」
空気が張り詰める。確かに今後それで上手くいく保証はない。
だが答える。
「通してみせる。」
その短い言葉に神崎がわずかに笑う。
「……いいですね。」
そして少し間を置き小さく呟いた。
「託されましたからね。」
その瞬間神崎の体が光に包まれる。
消える直前に神崎の口が動く。
「次は――」
その言葉は最後まで聞こえなかった。だが何を言おうとしていたのかなんとなく分かった。
【TRANSFER】
文字が浮かび、神崎の姿が消える。
澪が小さく言う。
「……終わった。」
そして御影の声が響き渡る。
『それでは生存チームを休息区域へ転送します。』
赤い光とは別の光が照らされる。
瞬く間に視界が白に染まり気がつけば、そこは休息区域だった。
『蒼天の皆様お疲れ様でした。第五層の準備を開始しますのでわずかな時間ではありますが休息をとってください。』
だが誰もすぐには動かなかった。いや動けなかった。
澪が小さく言う。
「……ねぇ。私たちもああなるのかな。」
誰もその言葉に答えない。
久我も今はただ黙ってることしかできなかった。
凛は目を伏せ、九条は静かに考え込み、真白は俯いたまま動かない。
そして湊だけが、何もなかったかのように立っていた。その雰囲気は東雲の生徒が消えたのをなんとも思っていないかのようなそんな感じだった。
その横顔を見ると
「……お前」
言葉が止まる。湊に何を聞くべきなのか分からなかったから。
次の展開に移るように空気は変わっていく。
そして静かに、確実に次のゲームが始まろうとしていた。
――誰も知らない正面が、そこにある




