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選抜区域  作者: 谷花皐
第四章 チェックメイト

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第三十七話 checkmate

東雲のクイーンが消えた瞬間、盤面の空気が明確に変わった。

澪が声を上げる。

「いける…」

真白も息を呑む。

「あと、二人……」


だが凛は静かに盤面を見ている。

「……いや、まだ終わってない。」


視線の先にあるのは盤面の奥。

そこに立っているのは――神崎と、もう一人。

東雲のルーク。


神崎が静かに言う。

「……2人ともやられてしまいましたか、ですが勝負はここからです。」


久我が中央で肩を回しながら言う。

「おいおい、まだやる気かよ。流れは完全にこっちにあるのに、何を企んでるんだ。」


だが久我のその言葉に神崎は動じない。

「流れ、ですか。あなたは知らないかもしれませんが流れというのは“人がそう思いたいだけ”のものなのです。油断はしない方がいいと思いますよ。」


そして神崎が動く。

「ルーク」

その一言で、東雲のルークが動く。


一直線に迷いのない軌道で盤面を横断するとその進行先にいたのは九条だった。

 


九条のマスについた瞬間モニターが光る。

【CONTACT】

盤面が発光する。

【ROOK EVENT】


御影の声が響く。

『接触が確認されましたのでルーク捕獲イベントを開始します。』

光が収束し、空間が切り替わる。

九条と東雲のルーク。二人だけの空間。


床には複数の円形のエリア。そして中央に浮かぶカウント。

【制限時間 60秒】


御影の声。

『今回のルークイベントは“制圧戦”です。』


『制限時間内に、より多くのエリアを確保した者が勝利となります。』


『ただし』

御影が指を鳴らすと床が光った。

『エリアは時間経過で戻りますので注意してください。』


九条が静かに息を吐く。

「……陣取りね。嫌いじゃないわ。」


対する東雲のルークの生徒が笑う。

「確かに単純でいいな。」

だがその笑みはこちらを舐めているような笑みであった。

「そんなに余裕があるのは勝つ確信があるからなのかしら?」

その質問にルークは言う。

「当たり前だろ。クイーン戦は頭を使うゲームだった。だが今回は体を使ったゲーム。つまり女であるお前よりも圧倒的に男である俺の方が有利ってわけだ。」

九条は完全に舐められているようだった。


久我がその様子を遠くで見ていた。

「九条にあんな事言えるなんて、あいつ九条がどんだけ怖えやつか分かってないんだろうな。可哀想に。」


その九条の顔は一回目のゲームの時と同じような冷たい表情をしていた。怒らせたな確実に。

「あら、そう。だったら手加減してもらおうかしら。でもあなたがもし負けたらさっきの言葉、修正して謝りなさい。まぁあなたが負ける事なんてないと思うけど。一応名前を聞いておいてあげる。」

九条のこの言葉を聞いてもなお東雲のルークは笑っていた。

「俺が負ける事なんて万にひとつもありえないが、もし負けたらお前の言う通り謝ってやるよ。そして名乗ってやる。俺の名前は浅野陸だ。覚えとけ。」


「このゲームの間は覚えておいてあげるわ。さっさと始めましょう。」


タイマーの開始と同時に二人が動くと九条は最短でエリアを踏む。


一つ、二つ。順調に踏んでいた次の瞬間


東雲ルークが強引に割り込み、踏みつけるようにエリアを奪う。

「悪いな、スペースがあったもんで。」


その様子を凛が外から見て呟く。

「……速い。口先だけじゃないってことね。」


浅野は一直線の動きだけではなく“初速”が異常に鋭かった。


九条が一歩下がるがその隙に三つ目を取られる。


カウント

【東雲 3】


【蒼天 2 】

カウントを見ても九条は動きを止めない。


だが浅野が先ほど取ったエリアを踏んだ瞬間に御影の声が聞こえてくる。


『同一エリアの連続保持はできません。』


つまりこのイベントは維持できない陣取りゲーム。


九条がその事を理解する。

「……奪い合い前提ね。ほんと捻くれてるわ彼。」


浅野が笑う。

「そういうことらしいな。さっきのセリフ訂正しといた方がいいんじゃないか?」


そして浅野が一気に踏み込み九条の背後のエリアを奪うとカウントがまた変わる。


【東雲 4】


【蒼天 2】


残り時間は

【15秒】


外で様子を見ていた凛が言う。

「まずいわ……このままだと負けてしまう。」


久我が舌打ちする。

「クソ……あいつただのチャラ男かと思ったけどいい勝負してやがる。」


その時九条の動きが止まった。それは一瞬の静止。


浅野がまた笑う。

「やっぱり諦めたか?強気だった割にはあっけないラストだったな。」


完全に勝ったと油断していた浅野。だが九条はまだ諦めていなかった。

「残念だけど違うわ。これは勝つための一歩よ。」


次の瞬間九条は一気に踏み込む。だが向かった先はエリアではなく“何もない場所”へ。


浅野はその動きの意味を理解する事ができず一瞬止まってしまう。


「は?」

その一瞬を九条は逃さずに進行方向を瞬時に変えると空いているエリアへ最短で侵入。


そしてさらにもう一歩連続で踏む。


【東雲 4】


【蒼天 4】


ポイントは同点。残りタイムは

【5秒】


 


浅野が焦り急いでエリアに行きポイントを取ろうと動く。

「っ……クソが。」

だが明らかに体勢が整っていないのに踏みに行く。彼は完全に勝ったと確信していたがその確信が崩れたことにより判断力を失っていた。


浅野がエリアを踏もうとしたその瞬間。九条が横から割り込むと2人が接触した。浅野のわずかな体勢の崩れ。そこを見逃すことはなくその間に九条がエリアを踏む。


【蒼天 5】

エリアを取った瞬間カウントダウンが終了した。

【TIME UP】


御影の声が鳴る。

『勝者、蒼天高校』

御影が言い終わると光が弾けた。そして現実の盤面へと戻る。

「ごめんなさいね。私頭を使うだけじゃなく結構動けるのよ。女だからって舐めてるからこんな結末になるのよ。今度があるのなら最初から全力でやればもしかしたら私に勝てるかもね。ほら早く謝って。」

浅野は何も言えずにその場に立ち尽くしていた。

「ありえない。俺が負けるなんて。こんなこと、あっていいはずがないんだ。ごめんよ母さん。俺負けちゃった。」

【CAPTURE】

その文字が浮かび上がると東雲のルークである浅野が消えた。

「結局謝らなかったわね。本当に愚かな人。」

 

そして東雲に残るは神崎ただ一人。


澪が呟く

「……一人」

真白も続いて言う。

「あと……残ってるのは神崎だけ。」


久我が確信したように言う。

「もう終わりだな。」


蒼天の誰もが久我のように勝ちを確信していた。


だがまだ神崎は盤面を見ていた。その表情は最初と変わらない。

「……なるほど、ここまでですか。」

そして顔を上げると

「では――」

一歩前へ歩き出す。

「最後に“確認”をしましょうか。」


その神崎の一歩で盤面の空気が変わる。


神崎の視線が玲央に向く。

「あなたが、どこまで見えているのかね。」

モニターが光る。

【FINAL PHASE】


第四層、最後の局面が始まる。


【東雲高校 ターン】

神崎が動いた。

「キング」


一歩進む。ただ、前へ出る。

それは一見、意味のない一手に見える。


澪が首を傾げる。

「……え?」


朝比奈も理解できずにいた。

「それだけ?」


だが少し間を置くと凛の表情が変わった。

「……嘘でしょ。」


九条が振り向く。

「凛どうかしたの?」


凛が盤面を指指す。

「この位置……」

声が低くなる。

「逃げ道が、ない。」


その一言に盤面の空気が凍る。


真白は凛が何を言ってるのか分かっていなかった。

「え……?」


凛が説明する。

「つまり次の一手でチェック確定。私たちの負けよ。」


その説明で九条も理解した。

「……逃げ道が塞がれてる。」


久我が叫ぶ。

「は?一歩動いただけだろ!?なんでそんなことになるんだよ。」


凛が冷静に答える。

「そのたった一歩で全部繋がったのよ。まさか最初からこれを狙っていた?だとしたら」


盤面を見る。神崎の位置。蒼天の配置。


それらすべてが、次の一手へと収束している。


神崎が静かに言う。

「終わりです。この勝負私の勝ちですね。」

神崎のその言葉に、迷いはなかった。


だけど1人だけまだ諦めず勝つ方法を探していた者がいた。 


全神経を集中させ盤面を見る。

そしてあるひとつの答えへと導かれた。


「……違う」

全員が玲央のその言葉に振り向く。


俺は続けて言う。

「それは“最短の勝ち筋”だ。」


神崎の視線が動く。

「そしてあいつはそれしか見えていない。」


みんなが見えるように盤面を指すとそこは

「ここが空いてる。」


凛が目を見開く。

「……そこ?でもそこは、、、」


九条も言う。

「そこに行っても……意味なんて」


俺は2人に言う。

「いや、ある。一手だけ、たった一つの勝ち筋がな。」

一歩前に出て全員に言うと

「次の一手ですべて変わる。」


そして真白に視線を移し指示をだす。

「真白」


咄嗟のことで真白の肩が揺れる。

「……!」


「一マス前だ。」

その指示はあまりにも短かった。


だが真白は迷わず一歩盤面に足を踏み出す。


真白が一マス前に動いたその瞬間。凛の目が見開かれる。

「……繋がった」

九条も同様に息を呑んだ。

「この配置……」


神崎の表情がそこで初めて変わる。

「……その一手は、、」

その一手は神崎の計算にないものだった。


急いで盤面を見直すがもう遅い。


そして静かに宣言する。

「チェック」

モニターが光る。

【CHECK】


神崎が盤面を見るが逃げ道は――もうない。


わずかな沈黙の後神崎が小さく息を吐く。

「……詰み、ですか。まさか負けるとは思ってませんでしたよ。」


モニターが更新される。

【CHECKMATE】

御影の声が響く。

『勝者蒼天高校』


澪が叫ぶ。

「やった勝てた!」


久我が笑う。

「はは……マジかよ。あそこから勝つなんてな。」


九条が目を閉じる。

「……終わったわね。」


そして真白がその場に立ち尽くす。

「……私が」


俺は真白の変わりに言う。

「決めたな。」


真白は小さく頷く。

「……うん。」


神崎が盤面を見ている。なぜ自分たちが負けたのかを理解するために。そして少し考えた後

「……完璧だったはずなんですがね。」

神崎は確かに強かった。だが一つだけ俺たちにあってあいつにはない明確に足りないものが一つだけある。

「完璧じゃ勝てないこともあるってことだ。」


神崎は玲央のその言葉を聞き潔く負けを認めた。

「なるほど、“人”ですか。」

そして少し笑うと

「勉強になりましたよ。これで私はもっと強くなることができる。」


「最初からそう言ってる。」


盤面の光が少しずつ消えていく。

第四層LIVE CHESS。その戦いは今幕を閉じた。


――だが玲央たちとは打って変わりモニターでは御影がなにやら考え事をしているようだった。

『……想定よりも早いですね。このペースでいけば当初の計画よりも、いやその可能性は低いか。彼らがどこまでいけるのか興味が絶えません。』

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― 新着の感想 ―
結局は主人公たちが勝つんだろうなと予想していたんですが最後までわからせないようなこの展開はとても面白いと感じました。
2026/03/20 01:26 映画レビューしたい人
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