第三十六話 争奪戦
御影の声が響く。
「ナイト捕獲イベントを開始します。」
その瞬間。久我と相馬の体に浮かんだ三つのマークが光る。
肩。腰。背中。
相馬が軽く首を鳴らす。
「相馬だ。すぐ終わるだろうが一応名乗っておいてやるよ。ルールは単純だ。先に二つ触った方が勝ち。」
久我が笑う。
「名前を名乗るなんて律儀なやつだな。名乗られたからには名乗ってやるよ。俺の名前は久我だ。そしてお前に言われなくてもわかってる。秒で潰してやるよ。」
次の瞬間二人が同時に動く。
久我の踏み込みは速い。
一歩。低く潜り込み――
一気に距離を詰める。
相馬の目が少し細くなる。
「お、速ぇな。」
だが相馬は下がらない。
拳を振る。久我はそれを間一髪身体を捻ってかわす。
そしてそのまま肩へタッチ。
マークが光る。
【1 POINT】
澪が叫ぶ。
「久我ナイス!」
真白も声を上げる。
「取った!」
久我が軽く笑う。
「まずは一つ。」
相馬は肩を触りながら小さく笑った。
「なるほどな。お前速いだけじゃねぇな。」
久我も少し楽しそうに言う。
「それはどうかな。」
その瞬間残りのマークの位置が変わる。
腹。首。太もも。
凛が小さく言う。
「マークが移動した。」
九条も頷く。
「一度取ると位置が変わるルールなのね。」
中央で相馬が構えをとる。
「じゃあ次は俺の番だ、、、な」
一瞬で久我の視界から消えた。
「っ!?どこいった。」
次の瞬間背後から相馬の手が伸びる。
タッチ。
【1 POINT】
澪
「え!?」
真白
「速い……」
久我が振り向くと相馬が笑っていた。
「スピードなら俺も嫌いじゃねぇ。」
「でもな」
拳を鳴らす。
「戦いってのは読みも必要なんだよ。」
現在【1 − 1】
中央の空気が一気に張り詰める。
凛が小さく言う。
「ここで負けたら。」
その頃クイーン戦。
九条と篠崎の前にモニターが浮かび上がる。
【INTEL DUEL】
【ROUND 1】
御影の声。
「問題」
モニターに五つの文章が表示される。
A
「Bは嘘」
B
「Dが真実」
C
「AとEは嘘」
D
「Cは嘘」
E
「Bは真実」
「五つの情報のうち。真実は一つだけ。」
「真実を言っている文書を答えろ。」
篠崎が少し笑う。
「簡単ですね。」
その後九条を見て
「お先にどうぞ。」
九条はモニターを見たまま言う。
「あなたが先に言えば?それともわからない?」
篠崎は言う。
「では遠慮なく。」
「答えはD。」
モニターが光る。
【CORRECT】
篠崎が肩をすくめる。
「論理問題なら。こちらの方が速いですね。それともあなたはあまり頭が良くないのですか?」
モニター表示。
【ROUND 1】
【東雲 WIN】
澪は九条が先手を取られたことに驚いている様子。
「嘘、玲那が取られた。」
真白は先手を取られたことで不安な様子だった。
「玲那、頑張って。」
九条は静かにモニターを見ている。
そこで篠崎が煽る。
「どうしました?調子がまだ出ませんか?次の問題はあなたが答えるまで待っててあげましょうか。」
「別に。まだ一回目よ?焦る必要がどこにあるのか教えてくれる?」
少しだけ微笑みながら返す。
モニターが光る。
【ROUND 2】
その頃中央では久我と相馬二人が再び向き合う。
そして最後のマークが光る。
その場所は太もも。
相馬が笑う。
「さぁ決着つけようぜ。」
久我も笑う。
「上等だ。やってやるよ。」
残りのマークは一つ、次に触れた方が勝ち。
相馬が言う。
「やっぱ速ぇな。足の速さだったら俺以上だな。」
「でもな同じ手は通じねぇぞ。」
次の瞬間相馬が踏み込む。久我の視界からまた一瞬消えた。
先程ポイントを取られた状況がフラッシュバックし背後に意識が向く。
「っ!」
久我が振り向くと相馬の手がすでに伸びていた。
太ももまであと数センチ。
真白が叫ぶ。
「久我くん!」
その瞬間だった。久我の視界が揺れる。
頭の奥で声が響く。
『久我。』
それはいつかの颯真の声だった。
何気ない学校での日常。その日は暑い運動会の日。
クラス対抗リレーで俺はアンカーで最後の最後に転んでクラスに迷惑をかけてしまった。
颯真が笑いながら言う。
『お前さ足速いくせに焦ると全部失敗するよな。』
『うるせぇな。デリカシーねぇのかよ。お前はよ。』
『そうかもな。でも』
『お前はまだ負けてねぇ。』
『は?何言ってんだよ。俺への慰めか?』
『違う。お前はあの時まだ諦めてなかった。気持ちはまだ負けてなかった。』
『一歩で全部ひっくり返す。そんな気持ちで走ったんだろ?』
久我は沈黙を続け颯真は笑う。
『だからさ、迷ったら踏み込め。そしたら久我。お前は最強だ!』
久我は颯真のその言葉に呆れる。
「あーもう。うだうだしてる俺がバカみたいに見えるだろうが。そんなこと言われなくたって次は勝ってやるよ。絶対な!」
そこで回想が途切れた。
相馬の手が着実に迫ってきている。
久我が小さく呟く。
「……踏み込みだよな颯真!」
次の瞬間久我の身体が沈む。
低い姿勢、そしてそこから一歩爆発的な踏み込みで相馬の懐へ。
相馬が驚く。
「俺に向かってくるか。おもしろいじゃねぇか久我。捻り潰してやるよ。」
久我は速度を落とさずマークに向かって一直線に突撃する。
「負けてたまるかよ。俺はまだ諦めてねぇー。」
戦いが終わるのは一瞬だった。
タッチ。
マークが光る。
【WIN】
久我の手が相馬の手より早くマークをタッチしていた。
「久我!」
「勝った、勝った!」
澪と真白も喜んでいる。
相馬が少し驚きそして笑った。
「……強ぇなお前。」
久我が息を吐く。
「当たり前だろ。」
その頃クイーン戦。モニターが再び光る。
【ROUND 2】
御影の声が響く。
「次の問題を開始します。」
盤面の上空に三つの箱が現れる。
赤
青
白
御影が続ける。
「鍵が入ってる箱を当ててもらいます。ただしこのなかに鍵があるのは一つだけです。」
「そしてヒントは一つ。」
モニターに表示される。
【青には入っていない】
【この情報は嘘の可能性がある】
立花が小さく言う。
「え……?そんなのヒントじゃないじゃん。」
桐谷も戸惑う。
「ヒントが嘘かもしれないってこと?」
凛が答える。
「そういうことね。」
盤面を見る。
「つまりヒントを信じるかどうか。この問題を解くのはそう簡単じゃない。」
九条はモニターを見ていた。
篠崎が小さく笑う。
「なるほど。単純な二択ですね。」
少し考えたあと篠崎が自信満々に言う。
「答えは赤」
モニターが光る。
【WRONG】
蒼天側が息を呑む。
澪
「え!?」
真白
「外れた……」
篠崎の表情がわずかに変わる。
「……なぜ?」
九条はまだ動かずモニターを見ている。
その時だった。九条の視界が一瞬揺れる。
雨の音。冷たい風。最終決戦の前。
『玲那。私は本当に旗手になって良かったのかしら。』
その声は琴音の声だった。
あの雨の日に琴音が静かに言った。
『私がみんなに馴染めずにいるのは自覚している。』
九条の呼吸が止まる。
黒崎は続ける。
『それでも旗手になったからにはみんなを守る責任があると思うの。』
九条の目がわずかに揺れる。
『だけど私は結局最後は1人で闘うことを選んだ。あなたは私を否定する?』
九条が答える。
「あなたの選択は間違ってないわ。大丈夫、琴音のことは私が絶対に守ってみせるから。」
黒崎が言う。
「ありがとう。このゲームを勝ち抜いてみんなに結果を示す。そうすればみんなで協力することができるようになるわよね。玲那、絶対に勝つわよ。」
そこで回想が途切れる。
現在。九条は小さく息を吐いた。
篠崎が言う。
「どうしました?答えないんですか?それともわからないんですか?」
篠崎の言葉が届いていないかのように九条が静かに言う。
「……琴音、絶対に勝つから。」
九条がゆっくり息を吐きそしてモニターを見る。
三つの箱。
赤
青
白
篠崎が言う。
「まだ考えているんですか?長いですねー」
九条は答えずただ静かに整理する。
ヒントは
【青には入っていない】
だがそのヒントは嘘の可能性がある。
つまりパターンは二つ。
ヒントが本当なら
→ 青は外れ
ヒントが嘘なら
→ 青が正解
篠崎は赤を選んだ。つまり。
九条が小さく呟く。
「白。」
モニターが光る。
【CORRECT】
立花があまりの凄さに言葉がでる。
「すご。」
それは桐谷も同様だった。
「まじかよ、、」
凛が小さく頷く。
「相手の答えを上手く利用したのね。」
モニターが更新される。
【ROUND 2】
【蒼天高校 WIN】
現在のポイント1 − 1
篠崎が九条を見る。
「……なるほど。思っていたより冷静ですね。」
その時九条の頭の中では黒崎の最後の言葉が残っていた。
『この人たちと行きなさい。』
九条が小さく呟く。
「私はもう。一人じゃない。」
篠崎は聞く。
「その言葉は誰に言ってるんですか?」
九条はその質問に答える。
「ここにいない、私にとってのたった1人の親友によ。」
モニターが光る。
【FINAL ROUND】
御影の声が静かに響く。
「最終問題を開始します。」
盤面の上空に三つの扉が現れる。
左
中央
右
その下に数字が浮かぶ。
1
2
3
御影が続ける。
「三つの扉のどれか一つに鍵があります。」
「そして三つの数字のうち、一つだけが真実です。」
モニターに表示される。
① 鍵は左にはない
② 鍵は中央にある
③ 鍵は右にはない
「ただし」
【この三つの文章のうち、真実は一つだけ】
立花が固まる。
「え……?」
桐谷も理解できていない様子。
「どういうこと……」
だが凛はすぐに理解する。
「論理パズル。」
九条はモニターを見る。
篠崎が小さく笑う。
「なるほど。三つの文のうち一つだけ真実。最後に面白い問題がきましたね。」
篠崎が答えを言う。
「中央。」
モニターが光る。
【WAIT】
御影の声。
「回答は同時に行われます。なのでもう一方が答えを出すまでお待ちください。」
篠崎が肩をすくめる。
「これは失礼しました。」
そして九条を見る。
「さてあなたはどうします?」
九条はまだ動かずモニターを見る。
① 鍵は左にはない
② 鍵は中央にある
③ 鍵は右にはない
三つの文で一つだけ真実。
九条の思考が静かに回り始める。その時だった頭の奥にある光景が浮かぶ。
それは玲那と琴音がテストの問題について話していた時。
『玲那。あなたは難しく考えすぎなのよ。』
黒崎が言った。
『もっと簡単に考えてみなさい。』
回想は一瞬で消え、九条は静かに息を吐く。
そして再び問題を見る。三つの文。
もし②が真実なら
①と③は嘘になる。
だが②が真実なら
「鍵は中央」そして③の「右ではない」も真実になる。
これでは二つ真実が存在してしまい成立しない。
つまり②は嘘ということがわかる。
九条が小さく呟く。
「中央はない。」
残る可能性は二つ。左か右。
もし①が真実なら
「左ではない」
つまり鍵は中央か右にある。
しかし中央は②が嘘で否定された。
結果答えは右。
だがその場合③も真実になる。
ここでも二つの真実。これでは成立しない。
九条の目が細くなる。
「……これも違う。」
逆に考える。
③が真実なら「右ではない」
つまり鍵は左か中央。しかし②は嘘。
中央はない。つまり残るのは左。
九条が言う。
「答えは左。」
篠崎が笑う。
「そんなわけないじゃないですか。やはりあなたは頭があまりよろしくないようですね。答えは中央です。」
モニターが光る。
【RESULT】
【蒼天高校 WIN】
凛が小さく笑う。
「さすがね。」
篠崎が一瞬黙りそして小さく笑った。
「……なるほど。愚かだったのは私の方でしたか。」
九条は何も言わずただ盤面の向こうを見る。
玲央。久我。凛。澪。真白。蒼天の仲間。
九条が小さく呟く。
「2人とも見てる?私はこの先も勝つよ。だから安心して。」
そこには誰もいない。だが九条は確かに言った。
そしてその言葉はもうここにはいない少女と蒼天の元旗手へと向けられた決意だった。
黒崎琴音。藤堂颯真
盤面では東雲のクイーンが消える。
【CAPTURE】
これで蒼天の方に戦局が大きく傾いた。




