第三十五話 ラウンド戦
蒼天のポーンである澪が二マス前へ進んだあと、盤面は静まり返っていた。
中央では久我のルークが東雲の駒に囲まれている。
だが蒼天は動かずに全員盤面を見ていた。
澪が小さく言う。
「……ここからどう動くんだろう。」
凛は中央から視線を外さない。
「次は向こうの番。」
九条も静かに頷く。
「神崎がどう出るかね。」
その頃、東雲側。
篠崎が盤面を見る。
「蒼天はこれといって目立った動きはしませんね。」
相馬が肩をすくめる。
「中央はもう捕まってるだろ。だからじゃないのか?」
だが神崎は答えない。
盤面をじっと見ていた。
中央。
久我。
そして盤面の端。
蒼天のポーン。
神崎が小さく呟く。
「……なるほど。」
篠崎
「神崎?」
神崎は静かに答える。
「計算をやり直すため能力を使います。」
神崎の思考が一気に加速する。
神崎の旗手能力。
現在の盤面から勝利までの最短手順を導き出す能力。
無数の展開を瞬時に計算し、最も合理的な一手を選ぶ。
神崎が言う。
「ナイト。」
東雲のナイトが動く。
L字に中央へ。
モニターが光る。
【MOVE】
蒼天側、凛が盤面を見て言う。
「……これで退路が消えた。いよいよピンチね。」
九条も中央を見る。
「完全に囲まれた。」
中央では久我のルークは逃げ場を失っていた。
澪が声を上げる。
「これじゃあもう。」
真白も不安そうに言う。
「久我くん……」
久我は中央で肩を回す。
「いやーこれはさすがにまずいな。」
蒼天の視線が玲央へ向く。
玲央は盤面を見てそして静かに言う。
「……仕方ない。能力を使う。」
凛が小さく頷く。
「やっとね。」
玲央は目を閉じる。
次の瞬間思考が盤面全体へ広がる。
中央。久我。東雲の駒の動線。盤面の外側。
すべての配置が頭の中で組み替わっていく。
玲央の旗手能力。
盤面全体を俯瞰し、複数の展開を同時に読む思考能力。
局所ではなく、盤面そのものの流れを読む。
ただしこの能力は脳への負荷が大きく、長く使えば思考が崩れる。
玲央の意識が沈んでいく。
その時だった。ふと声が蘇る。
『玲央。』
視界の奥に一人の背中が浮かぶ。それは颯真だった。
第一層の休息区域、戦いの合間のわずかな時間。
颯真が言った。
『このゲームって呼ばれてる戦いは結局人を動かすことを前提としたものが多いと思うんだよな。だから多分次のゲームもそんな感じのが続くと思うんだよ。』
玲央はその話を黙って聞いていた。
颯真は振り向く。
『俺はさ前に出ることでしかみんなを守ってやることができない。』
少しだけ肩をすくめる。
『でもお前は違う。』
玲央
『……何が?』
颯真は玲央の目を見る。
『俺と違って全部を見てる。ゲームでの動き、そして人の動きも。前線だけじゃなく後方のみんなのこともしっかり見てる。』
そして言った。
『だからさもし俺がいなくなったら』
少しだけ笑う。
『みんなのこと、頼むわ。』
玲央はその颯真のセリフにツッコむ。
「冗談でもそんなこと言うんじゃねぇ。お前はいなくならない。そしてこの先もお前が蒼天のリーダーだ。」
颯真は苦笑いして答える。
「もしもの話だよ、本気にすんなって。絶対にみんなで生きて帰る。これは約束だ。」
湊や久我、立花や桐谷、朝比奈が集まってくる。
「お前ら何話してんだよ。俺らも入れろよ。」
その時の颯真の顔を俺は多分忘れることができないと思う。
そこで回想が途切れる。
玲央が目を開くと盤面が戻る。
玲央が小さく言う。
「……見えた。」
凛が聞く。
「どう?」
玲央は盤面を指す。
「次で崩す。」
中央で久我が笑う。
「お、来たな。」
澪が玲央を見る。
玲央のその表情は、さっきまでとは違って見えた。まるで何かを覚悟したようなその表情はなぜか見覚えのある顔と似ていた。
九条が小さく呟く。
「……似てきたわね。」
凛が聞く。
「誰に?」
九条は中央を見る。
「颯真。」
凛も小さく頷いた。
「確かにね。」
真白が玲央を見る。
蒼天の旗手相沢玲央
彼のその姿にもう迷いはなかった。
玲央が言う。
「久我。」
中央のルークが振り向く。
「おう。」
玲央が言う。
「東雲のナイトを取るぞ。」
久我が笑う。
「やっとか。」
ルークが動く。
一直線に相手のナイトである相馬のマスへ。
モニターが光る。
【CONTACT】
その瞬間盤面が発光する。
【KNIGHT EVENT】
中央に久我と相馬。
二人の体に三つのマークが浮かぶ。
そこで御影の声が響く。
「皆さん、やっとここまできましたね。ここでイベントが発生しましたのでその説明を行います。このゲームには特別なイベントがあり、一つはナイト捕獲イベント。これは体に現れた三つのマークの内二つのマークに先に触れ取った方が勝ちというルール。二つ目はクイーン捕獲イベントです。これは3ラウンドで多く問題を解けた方の勝ちというルールです。まだイベントはあるのですがそれはおいおい説明いたします。そしてルーグがナイトに接触したため、ただいまからナイト捕獲イベントを開始いたします。」
相馬が笑う。
「へぇ。おもしれぇじゃん。」
久我を見る。
「お前、見た感じ結構速そうだな。」
久我も笑う。
「うるせぇ。先に二つ取るだけだろ。速攻で終わらせてやるよ。」
相馬
「いいじゃねぇか。」
拳を鳴らす。
「強いやつは嫌いじゃねぇ。」
その様子を盤面の外から神崎が見ていた。
神崎は中央を見る。そして蒼天の配置も。
神崎が小さく呟く。
「……妙ですね。」
篠崎
「何がです?」
神崎
「蒼天の旗手の動きですよ。」
玲央を見る。
「彼は中央の危険を承知でナイトを取りにきた。」
少し目を細める。
「今のこの状況でこの選択は普通の判断力では到底できないことです。」
そして盤面を見て言う。
「何かがおかしい。」
その時だった。蒼天のクイーンである九条が動く。
斜めに。そしてそこにいたのは篠崎。
モニターが光る。
【CONTACT】
盤面が再び発光する。
【QUEEN EVENT】
篠崎が笑う。
「なるほど。これが狙いですか。」
九条を見る。
「私と頭脳戦ですか。ずいぶん舐められたものですね。」
九条は静かに言う。
「あなたが参謀ならちょうどいい。ここで絶対に潰す。悪いけど手加減はできないわよ。」
篠崎が言う。
「あなた面白いこと言いますね。私が女性なんかに負けるわけないでしょ。」
モニターに表示される。
【INTEL DUEL】
三ラウンド制。
盤面では
久我 vs 相馬。
九条 vs 篠崎。
二つの戦いが始まろうとしていた。




