第二十八話 動かぬ力
【次回審査まで 15分】
モニターの数字がまた減り始める。
さっきの審査はなぜか警告だけだった。
そこで御影は言っていた。
――次からは脱落者が出ますよ。
その言葉を思い出し空気が重くなる。
久我が腕輪を見る。
【久我 50】
「……くそ。ふざけた真似しやがって。」
九条が静かに言う。
「真白ポイントは?」
真白が腕輪を見せる。
【真白 31】
凛が小さく頷く。
「まだ最下位。」
モニターに名前は出ていない。だが全員分かっている。
この中で今一番低いのは真白だ。
九条が言う。
「また端末を見つけるしかない。」
玲央が都市を見上げる。上下が反転した街。
建物は宙に浮き
階段は天井へ続き
道路は途中で切れている。
ここは普通の街ではない。
玲央が言う。
「一つ分かるのはこの街そのものがゲームだってこと。」
久我が肩を回す。
「つまり探索するしかないってことか。」
凛が補足する。
「端末はところどころに隠されている。」
「普通に歩いて見つかるものじゃない。」
朝比奈が笑う。
「こんな状況だけどポジティブにいこう。このゲームは宝探しみたいなもんだ。全員で協力すれば見つけられるはずだ。」
玲央が首を振る。
「違う。この都市には罠もある。警戒していないと足元掬われるぞ。」
その言葉で全員が少しだけ警戒する。
玲央が言う。
「班はこのままで冷静に行こう。」
「絶対に孤立はするな。接触でもポイントは増えるからな。」
久我が笑う。
「結局チーム戦だな。」
玲央は否定しない。
「さっきも言ったがこれが一番生き残る確率が高いだけだ。」
また探索が始まる。
北エリア。
朝比奈が先程ポイントを手に入れた橋を渡る。
途中で床が沈む。ガコン。
「……ん?」
朝比奈が足を止める。
床が光るとともに腕輪が反応する。
【朝比奈 73 → 75】
朝比奈が笑う。
「また踏みスイッチか。ラッキーだな。」
西エリア。久我が建物の中を歩く。
周りと色の違う壁を叩く。
コン。ここだけ音が違う。
そこを押すが動かない。
「また外れか。」
その瞬間天井が回転する。
建物の重力が変わる。
「うおっ!?」
久我の体が壁へ落ちる。
そこは壁だった場所が床になっていた。
先ほど進めなかった先に端末のようなものがある。
久我がそれに触れる。
【久我 50 → 54】
久我が笑う。
「重力トラップかよ。いったいここはどうなってんだ。」
中央エリア。真白が街を見上げる。
「……広い。」
澪が言う。
「まるで迷路みたい。」
九条が真白を見る。
「足を怪我しているんだから無理しないで。」
真白が小さく首を振る。
「大丈夫。少しでもみんなの役に立ちたいから。」
その時真白が足を止める。
「……あ。」
九条が振り向く。
「どうしたの?」
真白が壁を見ている。
「この壁……さっきの壁と似てる。」
真白がそこを叩く。
コン。同じ音。
九条が壁を押す。
ガコンと鳴るとその壁が開いた。
奥にあるのは端末。
真白がそれに触れると腕輪が光る。
【真白 31 → 34】
澪が笑う。
「ナイス!」
九条が言う。
「これで少しは——」
真白が腕輪を見るがまだ低い。
「……まだ足りない。」
都市の外縁に湊が一人で歩いている。
静かな通り誰もいない。
腕輪を見る。
【湊 118 → 121】
湊が眉をひそめる。
「……また増えた。」
端末には触れていない。誰とも接触していない。
それでも増える。
湊が小さく呟く。
「これじゃああいつらと一緒に行動できない。こんなことしなくたって俺は勝ち抜くって決めてるんだ。約束したからな。」
湊は腕を下ろし、都市の壁についている監視カメラを睨みつける。
そして湊の数字を誰も見ていない。そのため玲央達は湊の現在のポイントを知らなかった。
都市中央。玲央が通信を受ける。
「久我、端末を発見した。」
「同じく朝比奈、スイッチを発見。」
玲央が言う。
「ポイントを増やす方法はやっぱり複数あるな。」
凛が補足する。
「今分かっているのは端末、スイッチ、接触。」
「つまりこの都市は——」
玲央が言う。
「これは探索ゲームってことか。」
その時モニターが光る。
【次回審査まで 10分】
空気が張り詰める。
誰も言わないが全員分かっている。
まだ足りない真白のポイントが最下位から抜け出すまで。
【審査まで 9分】
モニターの数字がゆっくり減っていく。
都市の空気は少しずつ変わっていた。
探索を続ける者。立ち止まる者。
そして焦り始める者。
そしてモニターに新たに表示される。
【現在最下位】
【白嶺高校 男子生徒】
【18】
その更新にこのゲームに参加している全員が驚く。
「なんで、なんで俺なんだよ。」
白嶺の生徒たちの多くは、まだ都市の入口付近から大きく動いていなかった。ただ固まってポイントを増やそうとしていた。しかしこのゲームは固まっているだけではポイントが減ってしまう。その事を白嶺の生徒たちは知らなかった。
つまり蒼天のように探索を始めていないため、ポイントを増やす機会がほとんどなかったのだ。
その中でも、この男子生徒のポイントは最初に振られたポイントが低かった。
だからこそ彼は最下位になった。
男子生徒が自分の腕輪を見つめる。
「……嘘だろ。」
顔が青ざめていく。
「俺……?」
周囲の白嶺生徒がざわつく。
「18って……。」
「やばいだろそれ。」
男子生徒の呼吸が荒くなる。
「な、なぁ……。」
周囲を見る。
「一緒に探してくれよ。端末、まだあるはずだろ?」
誰もすぐには動かない。
このゲームのルールはもう理解している。
最下位にはポイントを渡せない。
つまり助ける方法は一つしかない。
それは端末を見つけること。
男子生徒の声が震える。
「お願いだよ……頼む……。」
その時一人の白嶺生徒が言う。
「……探そう。」
男子生徒が顔を上げる。
「え?」
「まだ9分ある。端末を探せばいいや話だ。」
数人の白嶺生徒が動き始める。
だが全員ではない。残った数人は動かない。
腕を組み、冷静に状況を見ている。
その視線には迷いがあった。
助けるべきか。見捨てるべきか。
それを計算しているようだった。
天城がいなくなった影響がここで彼らのデメリットとなってしまう。彼らは自分で行動することをいつしか躊躇うようになっていたのだ。
蒼天側はその光景を遠くから見ていた。
久我が小さく呟く。
「……やばくね?」
朝比奈が腕を組む。
「あいつら焦ってるな。」
立花が言う。
「このままだと最初の脱落者になる可能性が高い。」
澪が小さく聞く。
「……助けなくていいの?」
九条はその言葉にすぐには答えない。
玲央が都市を見ている。
「探索を優先。」
短い言葉。
「まずは真白だ。このままだとまた真白が最下位となる。」
久我が頷く。
「これが現実だ。」
真白は何も言わない。
ただ遠くで慌てている白嶺の男子生徒をその場で見ていた。
湊が歩いていると遠くから声が聞こえる。
「誰か助けてくれ!!」
白嶺の男子生徒の叫び。湊は振り向かない。
腕輪を見る。
【湊 121 → 124】
湊が小さく息を吐き腕を下ろす。
「くだらねぇ。」
視線を都市へ向ける。
「こんなゲーム。」
湊の歩みは止まらない。
都市中央。玲央が通信を入れる。
「状況を共有。」
久我の声。
『西、もう一つ端末を探す。』
朝比奈。
『北も探索続行。』
凛。
『ログ確認中。』
玲央が言う。
「時間は9分。まだ動ける。」
その時モニターが更新される。
【次回審査まで 8分】
数字が減っていく。
都市のどこかで白嶺の男子生徒が叫ぶ。
「もう時間がない、誰か助けてくれ!!」
その声が都市に響く。それは最初の脱落者が近づいている予兆だった。




