第二十二話 一人の証明
天城の顔が歪む。
「偽りの責任だって?」
その瞬間、場の空気が変わる。
天城の視線が真白へと向き、何かを発動させた。
だが真白の表情は変わらない。何も起こらなかったのだ。
天城の眉がわずかに動く。
「……なんで?」
もう一度何かを発動させる。だが真白に変化はない。
天城は悟った。能力が、効いていない。
ここで少し解説!
それぞれ旗手の持つ能力には条件というものがある。天城の能力の場合、天城の事を恐れている人にしか能力は効かない。だが旗手にはその能力の条件は伝えられていなかった。
つまり真白は天城を恐れていない。
だが天城は自分の能力の条件を白嶺の生徒限定で使えるものと思っていた。
「……そうか。」
天城の声が低くなる。
「もう君は、僕達の仲間じゃないんだね。」
次の瞬間。
天城が踏み込む。その狙いは九条のポケットにある鍵
真白に能力を使い鍵を取る事を諦め、力づくで取ろうとする。
咄嗟のことで、九条は反応できい。
九条の腕が掴まれた。
力が違う。引き剥がされ鍵が落ちそうになる。
その時九条と天城の間に颯真が割り込み天城の腕を押さえ込む。
そして颯真は覚悟を決める。
「早く行け!俺もすぐに追いつく。」
だが出口が閉まるまでもう後残り数分の猶予だった。
九条が叫ぶ。
「嘘をつかないで!もう出口が閉まる。早く来て!」
颯真は歯を食いしばる。
「確かに……無理そうだな。」
九条の顔色が変わる。
「今、なんて——」
その瞬間。九条の視界が、澄む。
颯真は九条に対して能力を使う。第一層、黒崎琴音の死の光景を忘れられずに使えなかったはずの能力がその時発動した。
ここでもう一度能力について解説します!
颯真の能力にも天城と同様に条件がある。それは能力を使う相手が颯真の事を信頼するというもの。確かに颯真は能力を使うのをためらっていた。だがそれでも九条の前で証明するために彼は能力を使う。
余計な迷いが、削ぎ落ちる。九条の中から一つの思いが消える。
“颯真を助ける”という思い。
九条の体が動く。考えるより先に。
「真白、掴まって!早くここから抜け出すわよ。」
九条がしゃがむ。
だが真白は迷う。
「でも二人はどうするの?」
九条はそれに対して
「今は脱出が優先よ!」
その時背後から天城が叫ぶ。
「早く助けろ、この裏切り者が!」
天城のその一言が、真白の胸を抉った。
九条が真白を背負って出口へ向かい走る。真白は抵抗しなかった。真白の目に涙が溢れる。
「あなたは間違ってない。だからあなが責任を負う必要なんてない。」
九条のその言葉に真白が小さく頷く。
颯真は九条の後ろ姿を見る。
「やっといったか。たく最後まで頑固な奴だったな。」
九条はひたすら走った。迷路の奥で颯真が天城を押さえ込む。
天城が叫ぶ。
「正気か!?このままだと君も死ぬんだぞ?早く離せよ!」
颯真は笑う。
「俺が一層目を生き残ったのはな。たぶん、この時のためだったんだ。みんなには悪いが俺はここまでだな。」
天城が抵抗する。
「何を言っているんだ?いいから早く離せ。僕が救わなきゃいけないんだ。みんなの事をまだ救えていないんだ!」
颯真は呆れたように言った。
「まだ分かんないのか?お前がみんなを救おうと考えている事。それを自己満足だって言ってんだよ。お前が一人になりたくない言い訳をしているだけだ。」
「お前が救わなくても、人は変われる。」
その言葉を聞き、天城の抵抗する力が弱くなる。
「はは、笑えるね。そんなはずないじゃないか。人は変われるだって?ならなんで僕の両親は変わらなかった?なんで僕を一人にした?」
天城の声が震える。
「僕はただ、家族でいたかった。本当に願っていたのはたったそれだけだった。だから僕がみんなの背負っているものを変わりに持ってあげだんだ。そうすれば自分の心が埋まると思って。でも僕の心は満たされなかった。」
颯真は諭すように言った。
「お前はその背負っている物を一緒に持ってくれる仲間を見ようとしなかったのか?お前の近くにいて自分のために頑張ってくれた仲間を知らないのか?そいつは昔のお前に戻って欲しくて必死に努力してた。一人で背負わなくてもいいって。ただお前の横に居たくて努力してた奴を知らないのか?近くにいた奴を、ちゃんと見ろよ。たった一人いただろ?」
その言葉に天城の表情が崩れる。最初はそのなげかけに対してなんの心当たりもなかった天城だったが頭の中によぎった人物がいた。そしてけわしかった天木の表情は次第にやわらぎ元の表情へと戻っていた。
「……一人。たった一人。僕のそばに着いてきてくれた子がいた。その子は昔から仲が良くて、いつもそばに居てくれた。なのに僕はその子を突き放してしまった。それでも、もう一度会えるなら、」
「彼女に謝りたい。ごめんって。」
天城のその言葉に颯真は苦笑した。
「気づくの遅ぇよ。俺まで残る羽目になったじゃねぇか。九条に証明してやるとか息巻いたのに。かっこ悪いよ本当。」
天城が申し訳なさそうに喋る。
「すまなかった。こんな目に合わせてしまって。」
それに対し颯真が笑って答える。
「バカ、それを言う相手は俺じゃないだろうが。」
迷路の外では九条が真白を連れて迷路から飛び出す。
そして鍵を端末に差し込んだ。
【蒼天:6】
【白嶺:4】
モニターにリザルトが表示される。
その時颯真の能力が切れた。息は切れ、呼吸が荒くなる。
そこに玲央達が来る。
「大丈夫か?颯真はどうした。中で何があったんだ。」
迷路が閉じ始める。しかし閉まりかけた隙間から声が聞こえる。
「九条ーーー!」
振り向くとそこには颯真が立っていた。天城も隣にいる。
「一緒に勝つ事はできなかったけど、最後まで立って証明したぞ!」
九条はその言葉を聞き自然に涙がでる。
颯真が続ける。
「みんな悪ぃ俺はここまでだ!この先のゲームに俺は着いていけない。でも信じてる。お前らなら勝てるってな!」
玲央たちが助けようと。迷路に入ろうと駆け出そうとする。
だが体が動かない。みんなの足が、前に出ない。
颯真の能力。削られたのは、“助けに行く”という選択。
玲央が歯を食いしばる。
「颯真……!」
助けたくても、助けられなかった。
そして天城も叫ぶ。
「真白!」
「君が僕を支えてずっと着いてきてくれた事を僕は分かってあげられなった。」
「ごめん。」
その言葉に真白が崩れ落ちる。涙が止まらない。
最後に、颯真が喋る。
「玲那。お前はもう俺たちの仲間だ。」
そして少し申し訳なさそうに一言。
「あと、黒崎のこと悪く言って悪かったな。」
出口が閉まり颯真の姿が見えなくなる。その瞬間赤い光が迷路内部を満たした。
颯真の能力が解け、白嶺の生徒にかけられていた天城の能力も解ける。
九条は走り出す。空いていない迷路の扉をひたすら叩く。二人がどうなったか外からは見えない。だがみんな分かっていた。その光景を。
赤い光が消える。そしてアナウンスが鳴った。
『第二層・収束迷宮 終了』
『勝者:蒼天高校』
『敗北校旗手および最終残留者、処理完了』
『本日の競技は以上です。お疲れ様でした。』
『次回開始時刻は明日08:00。参加者は休息区域へ移動してください。』
アナウンスが止まる。ゲームは終わった。
誰も動かない。
九条はその場に立ったまま。真白は座り込んだまま。
玲央が拳を握る。今日、二人失った。
黒崎琴音。藤堂颯真。
だが颯真は証明した。ゲームに勝つ覚悟を。
ここに夜は来ない。
そしてようやく長い一日が終わろうとしていた。
ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。
閉鎖迷宮終わりました。
颯真は「証明」しました。
でもそれは、勝つことじゃなくて“背負い方を変えること”だったのかもしれません。
天城は最後に気づいた。真白は最後に選んだ。九条は前を向いた。
誰が正しくて、誰が間違っていたのか。正直、作者の私にも断言はできません。
ただ一つだけ言えるのは、今回のこのゲームは「力」じゃなくて「在り方」を試している、ということ。
そして蒼天は、また一人失いました。
藤堂颯真。
この一人の死が、これからどう響いていくのか。
もしよければ
颯真の最後、どう感じましたか?
天城の言葉、どう受け取りましたか?
一言でもいいです。
感想をもらえたら、次を書く力になります。
ここまで読んでくれて、本当にありがとう。また次話で。
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