第二十話 9本目
【16:15】迷路入口のルートが閉じる
鉄板が重なる音が、背後を断ち切った。
四人は自然に分かれる。
九条と颯真は右へ。天城と真白は左へ。
天井の奥で機械が回る音がする。それにより低い振動が足裏に伝わる。
壁の動きは五分周期、さっきまでと同じだ。
九条は歩幅を一定に保つ。
「次の動きまであと二分くらい。」
颯真は頷く。そして角を曲がる。
通路の先にある壁。そこだけ他の壁とは色が違っていた。不自然に思った九条がその壁を触ると、機械が動くような音が辺りに響く。そして壁の中から銀色の鍵が出てきた。
九条が足を止める。
「案外あっさりね。それに次の周期まで余裕がある。」
颯真が周囲を見た。壁の継ぎ目がわずかに擦れている。
次はここの壁が動く。
「もう一個鍵を取って負ける確率を下げた方が。」
九条が言う。でもすぐに行動は起こさない。
「颯真。」
「なんだ?」
「さっき私に言ったこと、忘れてない?」
颯真は九条と視線を合わせず鍵の方を見ている。
「忘れねぇよ。逃げない、だろ?」
九条はその答えを聞き短く息を吸った。
そして一拍置き鍵を掴んだその瞬間。
迷路の外では中央にある端末のモニターの画面が変わる。
【迷路内に残存する鍵:0】
その画面を見た時凛の指が止まった。
玲央が画面を見る。表示にはまだ続きがあった。
【総鍵数:9】
一瞬、蒼天側が静まり返る。
最初に口を開いたのは久我だった。
「……九本?」
立花の顔色が変わる。
「どうゆうことだ?」
モニターに映った情報はこの勝負に引き分けはないどちらかが、必ず落ちることが示唆されていた。
向こう側。白嶺でもざわめきが起こる。
生徒の一人が叫ぶ。
「嘘だろ……!」
だが迷路内にその声は届かない。
その頃天城たちは。
九条たちとは別の通路で鍵を探していた。
天城は落ち着いた足取りで着実に進む。
真白がその後ろを追う。
「まだ見つからないね。」
「大丈夫だよ。」
天城は微笑む。
「壁が動く周期は読めてる。」
その時床が震えた。壁が横に滑ることにより通路がずれる。
真白が突然のことで判断が遅れた。
そのとき地面の段差に足を取られる。だが運悪く、それと同時に壁が迫る。
「っ……!」
真白はとっさに体を引いた。少したった後壁の動きが止まった。
足を挟まれてはいない。だが足首を強く捻ったようだ。
真白がその場に膝をつく。
天城がその変化に気づいたのか真白の方に振り向く。
「痛めた?」
真白は歯を食いしばった。
「平気。」
足首が腫れている事を分かりつつも立とうとする。
一歩歩こうとするが足首の力が抜ける。
次の周期まで三十秒後出口側の通路が動き始める。
真白が言う。
「優、先に行って。」
その声は震えていた。
天城は優しく笑う。
「わかった僕に任せて。真白の分まで。」
天城は真白が迷惑をかけている自分を置いて白嶺を勝たせてと言っているように聞こえているようだ。
天城の笑顔に真白の胸が締めつけられる。
違う。そういう意味じゃない。後で迎えにきてって
そう思っていても口から言葉が出ない。出そうとしていないわけではない。言葉を出そうとしても出ないのだ。
天城は通路を確認する。
まだ間に合う。まだ勝てる。
「君は足手まといなんかじゃないよ。だから無理しなくていい。」
その言葉、決意は本気だ。
「ありがとう、真白。大丈夫絶対勝つから。」
真白の思考が止まった。
天城は走り出す。奥へ、奥へと。
白嶺のみんなを“助ける”ために。一人の少女を置いて。
通路がずれ壁が閉じる。
天城の背中が壁の向こうに消える。
真白は、その場に取り残された。
真白は理解していた。ずっと一緒にいたから。これは仕方ない事だと納得するしかなかった。
その考えを分かっていても天城に置いていかれたと思っている自分がいた。
それだけが他のどんなことよりもはっきりしている。
迷路の中。真白は座り込んだまま動けない。
足首が熱を持っている。
遠くで壁が動く音。優は、まだ戻ってこない。
その時足音が聞こえた。真白はきっと天城が迎えに来てくれたんだと思った。だがそれは九条と颯真だった。
颯真が止まる。この状況を一目で把握する。
「天城はどうしたんだ?」
真白は答えない。ただ、壁の奥を見る。
九条が静かにしゃがんだ。
「置いていかれたの?」
その言葉に、真白は動揺する。
「違う……優は、みんなを助けるために……進んだの。」
その声は崩れている。
「私が優の足を引っ張るから……」
九条は首を振る。
「それは本当にあなたの気持ち?」
真白が顔を上げた。真白の目は涙で滲んでいる。
九条は続ける。
「あなたは本当に彼を支えるだけが目的だったの?それとも、、、彼のそばにいたかっただけなんじゃない?」
九条のその答えに。真白の呼吸が止まった。
それは真白が心の奥にずっと秘めていた思いだったからだ。
否定したくても、否定できない。
その間にも次の周期まであと時間がなかった。出口は確実に閉じ始めている。
迷路の外。蒼天の全員は黙ってモニターを見ていた。
白嶺も、誰も声を出さない。
それはモニターの数字が動かなかったから。
5対4。
迷路内の四人だけが、まだその事実を知らない。
勝負の行方は一人の少女にかかっている。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
今回の話は「選択」の話でした。第一章と似てますね。
迷路の中で何が正解なのかは、まだ誰にも分かりません。
優しさって、本当に優しいのか。背負うことって、本当に強さなのか。
そして、“ありがとう”という言葉が、必ずしも救いになるとは限らないこと。
迷路の外ではすでに現在の勝敗が見えています。でも、迷路の中にいる四人はまだ知りません。
この“情報の差”が、このゲームの本当の怖さかもしれません。
次回、最後の選択。
颯真は何を選ぶのか。
九条は何を見るのか。
天城は何を失うのか。
ここから一気に畳みかけます。
もしよければ
「この時点で誰に一番感情が動いたか」
教えてもらえると嬉しいです。次話、決着。




