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選抜区域  作者: 谷花皐
第一章 役割と選択

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第二話 選抜開始

ホームに降りた瞬間、それまでの空気が変わった。

ざわめきはあった。だがそれは旅行前の高揚ではない。

見えない何かに押し潰されそうな、浅い呼吸の連鎖だった。


駅名表示は黒く塗り潰されている。構内アナウンスは流れない。改札は閉鎖され駅員の姿はない。


代わりに、天井のスピーカーが低く唸った。

『――ようこそ、選抜区域へ。』


一瞬、誰かが笑った。

「ドッキリだろ? 仕込みだよな?」

「ドッキリにしては手がかかりすぎじゃない?」


だが次の瞬間、ホームの両端に設置されたゲートが重々しく閉じた。金属の噛み合う音が、やけに現実的だった。


「ちょ、待ってくださいよ!」

一人の男子が線路側の柵に駆け寄る。

「修学旅行じゃないんですか?帰してくださいよ!ここはどこなんだ。」

どうやらパニックになっているようだ。


彼は線路側の柵を越えようと手を伸ばした。


その瞬間。空気が裂けるような音がした。


男子の足元が閃光を発し、爆ぜた。

身体が宙に浮き、床に叩きつけられる。


悲鳴。煙。焦げた匂い。


男子は動いている。死んではいない。だが、右脚は不自然な方向に曲がっていた。


『区域外への無断移動は、即時制裁対象です。』


誰も笑わなかった。誰も動かなかった。

湊が、俺の袖を掴んでいるのが分かったのはその数秒後だった。


「……玲央。これ、本物だ。」

分かっている。これは見せしめだ。


「先生……これ、どういうことですか?」

誰かが叫ぶ。視線が一斉に、朝倉紫苑へ向いた。

彼女は騒がない。慌てない。ただ、全員を見渡していた。


「……私も、皆と同じ立場よ。」

嘘だ、と直感した。

その目は、この状況を初めて見る人間の目ではない。


スピーカーが再び鳴る。

『これより第一層選抜を開始します。』

構内の巨大モニターが点灯する。

そこに映し出されたのは、都市の立体マップだった。


崩れた高層ビル。崩落した高速道路。そして廃墟。


『最初にルール説明を行います。』

全員が息を呑む。『第一層は「端末奪取戦」』


画面に赤い点が七つ灯った。


『区域内に七基の制御端末を配置済み。制限時間は三時間。制限時間終了時、より多くの端末を確保している学校の勝利となります。』


学校。つまり――対戦相手がいる。なんとなく気づいている。自分たちの対戦相手は蒼陵高校。

そしてあちらもこっちを見ていた。


『そして各校に一名、特別役職を付与します。』

空気が張り詰める。

『役職名――旗手』


『旗手は学校の象徴であり、戦術権限を持つ。詳細は後で開示します。』


詳細は後で。つまり旗手には何かがある。


「なるほど。」

凛が、低く呟いた。

「三時間で廃墟を回って端末を取り、奪い合い前提のゲームのようなものってこと?」


「その通りよ。」

紫苑が静かに答えた。


凛が振り返る。

「先生は知っていたんですか?」


一瞬の沈黙の後、口を開く。

「……従わなければ、今の彼のようになるわ。」

答えになっていない。だが知っていたと否定もしない。


湊が小さく言う。

「玲央、旗手ってなんだろう、……嫌な予感しかしない。」

湊の嫌な予感と俺も同じ予感がしていた。


モニターが説明を続ける。

『そして敗北校にはペナルティが発生するので注意してください。』

その言葉にざわめきが戻る。


『ペナルティ内容は、勝敗確定後に開示。』

開示。どうやらペナルティーの内容は最初に見せないようだ。

「負けたらどうなるんだよ!」

誰かが叫ぶ。その答えはここにはない。

代わりに、ゲートが開く。


ホーム奥へと続く通路。奥は暗い。


『制限時間は移動開始と同時に計測されます。』

カウントダウンが表示される。


03:00:00

数字が動き始める。


その瞬間全員が理解した。これは脅しじゃない。


理不尽なゲームだ。生き残るための。


紫苑が言う。

「玲央、考えなさい。選択が正しいのかどうか。」


なぜ自分の名前を呼んだのか。なぜそんな言葉をかけるのか。その目に、ほんの一瞬だけ何かがよぎった。


後悔か。記憶か。

それとも――「……先生は、」

言いかけて、やめた。今は違う。まずは生きる。


蒼陵の生徒たちが動き出した。

こちらも、誰かが走り出す。

混乱の中で、凛が冷静に言う。

「七基。三時間。人数差は同等。なら初動が命取りになる。」


「気をつけていこう。」

湊が即答する。その言葉に俺は頷いた。


第一層が、始まる。負けたら何が起こるのか。

それはまだ知らないまま。

カウントダウンは、止まらない。

第二話「選抜開始」どうだったでしょうか?

突如始まった選抜、見せしめにやられる右腕。そして謎のゲームのルール説明、先生は何を知っているのか?

役職とは?いろいろ気になる部分もあると思いますが、温かい目で見守っていただければ幸いです。

次話からいよいよゲームが始まります。

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