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選抜区域  作者: 谷花皐
第二章 託されたもの

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第十八話 後悔

迷路入口の前。【14:10】


朝比奈と桐谷が並ぶ。見つけなければという緊張はある。でも体は震えていない。


久我が肩を叩く。

「焦るなよ。迷路は敵じゃない。なんも成果をあげられなかった俺に言われたくないとは思うけどよ。」


立花が腕を組んで話す。

「だけどアドバイスはできる。気をつけろ、壁は動くが動揺しなければ大丈夫だ。」


桐谷が苦笑する。

「分かったよ。」


凛が端末を見ながら淡々と言う。

「収縮は三分周期に起こる。音が変わったら引き返す判断を徹底して。一本道に見えても、絶対裏がある。行き止まりで止まってると時間は過ぎていく。」


湊が小さく言う。

「……無理すんなよ。」


そして二人の視線が玲央へ向く。

「絶対に戻れ。鍵より優先するのは無事に帰ってくることだ。焦った瞬間、迷路は敵になる。」


朝比奈がにやりと笑った。

「了解、隊長。」


そして、軽く振り向いて言う。

「俺らは死なねぇから安心しろ。」


桐谷が肘で小突く。

「縁起でもないこと言うな。」


朝比奈は笑ったまま。

「冗談だって。本気にすんなよ。」


玲央は何も言わずにただ、二人を見た。そして迷路の入口が開く。暗い通路。


朝比奈が最後に振り返る。

「大丈夫だ!ちゃんと戻る。」


桐谷も小さく拳を上げる。

「すぐ帰る。」

そして朝比奈と桐谷が迷路へと消える

【14:12】


九条は迷路の入り口を見つめたまま動かない。


颯真が九条の隣に立つ。蒼天は待機し、二人の帰還を信じるしかなかった。白嶺も同様に動かない。


「……入らないのか。」

颯真が独り言のように呟く。


九条は迷路から視線を逸らさず答える。

「まだ私たちの番じゃない。」


「違う、俺が気になったのはそれじゃない。それにさっき天城を見てただろ。何か疑問に思うことでもあるのか?」


九条の目が、白嶺側へと流れる。

天城優。

柔らかい笑みを浮かべている。それがとにかく九条にとって不気味だった。


「彼が出てこない。」

九条が言う。

「旗手なのになにも指示のようなものも出していないしそれに彼の能力だってまだ分かってないから少し気になったの。」


颯真は鼻で笑う。

「温存してるだけだろ?」

九条は呆れたように口を開いた。

「違う。多分私たちが削れるまで彼は出てこない。減るのを待っている。」

九条の声は冷静。

「琴音とは違ったタイプね。」

その名前が出た瞬間その場の空気が変わる。そして颯真の表情がわずかに歪んだ。


「……今はその名前を出すな。」


「なんで?」

九条が振り向く。


その疑問に対し低く、颯真が言う。

「俺のせいだ。第一層で、俺が能力を使わなければ黒崎は死んでいなかったからだ。俺が死なせてしまった。」


「それは違うわ。」

颯真の発言を遮った。


「琴音は私を助けるために、自分を犠牲にして助けてくれたの。あなたのせいじゃない。」


颯真の目が揺れる。

「じゃあ黒崎が死んだのは誰のせいだ?」


九条はその言葉に詰まる。


二人の心情を体現するかのように迷路の奥から、低い振動音が響く。ゴン……。


九条はゆっくり言う。

「あなたは琴音の死も私たちの学校のことも全部自分の責任にしようとしている。それで終わらせようとしている。」


颯真の視線が鋭くなる。

「なんだと。」

しかし九条は続ける。

「あなたは自分が背負えば全部解決だと勘違いしている。琴音の意思は私が背負っているの。あなたが責任を感じるようなことじゃない。」


颯真が九条に一歩近づく。

「でも黒崎の命を守れなったのは事実だ。」

颯真の声が荒くなる。


「俺が盤面を動かしたんだ。俺があの場を崩した。俺が能力を使わなければ、あいつは九条を庇う状況にはならなかった。」


九条の目に怒りが灯る。


「それは違う。あなたたちは勝ちにいっただけ。琴音はそれを分かった上で選んだの。あなたは、自分が勝とうとしたことを後悔してるだけ。」


颯真の拳が握られる。

「一人の命が消えたんだぞ。後悔しない方がどうかしてる。」


九条が言い返す。

「じゃあ、琴音は間違いだったの?あなたが勝とうとしたから、あの選択は無駄だったって言うの?琴音は私を助けた。それは、負けでも犠牲でもない、選択よ。」


「あなたはそれを、“事故”みたいに扱ってる。琴音は選択をしたの。あなたもあの場で見てたでしょ。」


九条の声が、震える。目の前でたった一人の親友が死んでしまったことを彼女は鮮明に覚えている。

「勝手に、琴音の最後を決めないで。」

九条の目に涙が滲む。

「あなたが背負えば、私が少しでも軽くなるとでも思ってるの?」

その言葉に対し颯真が言葉を失う。

九条の声が崩れる。

「私は、琴音に助けられた。そしてそれは私の選択でもある。なのに、あなたが勝手に全部を背負わないで。」


涙が零れる。九条は涙を拭わない。


颯真は、何も言えなくなった。


長い沈黙の後颯真が口を開く。

「……逃げていたのは、俺か。」


九条は何も言わない。颯真が顔を上げる。

「あと二ラウンドで俺たちの番だ。」

九条が睨む。

「それがどうしたの?」

九条の声が荒い。


「今度は逃げない。俺は勝ちにいく。そして次は背負わない。お前の目の前で、最後まで立ってそれを証明してやる。」


九条の胸が強く上下する。それは怒りか、悲しみか。それとも別の感情なのか。


振動音が鳴る。

【15:00】

迷路が閉じた。


朝比奈と桐谷が戻る。

端末表示。

【蒼天:2】

【白嶺:3】

差は、まだある。


九条は涙を拭い、前を見る。

「……勝つ。」


その言葉に対し颯真はなにも答えない、ただ隣に立つ。

二人の間にある溝は消えていない。

18話、ありがとうございました。

九条と颯真どちらが正しいと思いましたか?


「責任を背負うこと」は強さなのか。

それともただの自己満足なのか。

「選択を尊重すること」は優しさなのか。

それとも現実から目を逸らすことなのか。


二人はまだ分かり合えていません。

でも、同じ目的、覚悟を持って迷路に入ります。

それがどういう意味を持つのか。

次回から、いよいよ終盤です。感想や予想、ぜひ教えてください。

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