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選抜区域  作者: 谷花皐
第二章 託されたもの

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第十五話 旗の重さ

白い休憩ホール。静まり返った空間に、誰も座らずに立っている。さっきまで雨が降っていたはずなのに、今は無機質な照明だけが天井から降りている。


誰も口を開かない。そして最初に口を開いたのは、久我だった。

「……本当に、死んだんだよな黒崎。」


言葉が、空気を裂いた。

……まだ残っている。

琴音を抱えていた感触が、腕に。


「処理完了って、なんだよ……。」

立花が壁を殴ると乾いた音が響いた。


「なんでこうなるんだよ!」

朝比奈が低く言う。

「旗手は……負けたら死ぬ。」


その言葉で、視線が自然と颯真に集まる。


颯真は立ったまま、目を伏せていた。だが拳は強く握られている。


凛が静かに言う。

「颯真。」


しばらくの沈黙のあと、颯真が口を開いた。

「俺は、怖くないとかは言わない。」

「正直死ぬのは普通に怖い。でもな」


「俺が一番怖いのは、俺が死ぬことじゃない。負けたら、俺だけで終わらないかもしれないってことだ。」


空気が止まった。


「旗手だけ処理されるなんて、都合よすぎる。それに相手のあの慌てようも気になるしな。そして第一層は“旗手”だった。じゃあ第二層も同じなのか?」


誰もそれを答えられない。


湊が小さく言う。

「……役割が増える可能性はあると思う。」


凛が補足する。

「1回目は“特別な役割は一つ”と言っていた。だけど次のゲームの役割が旗手だけとは限らない。」


久我の顔色が悪くなる。

「じゃあ、次は俺たちか?」


俺は口を開く。

「分からない。だからこそここで覚悟を決める。」


重い空気の中颯真が息を吐いた。

「本当だったら修学旅行だったんだよな、俺たち。」


その場には乾いた笑いが漏れた。

「場所は言われてなかったけどな。」


「観光とかしてみたかった。」


「旅館で騒ぐはずだったのにな。」


だが凛が静かに言う。

「だけど現実は違う。」


「目の前で人が死んだ。」

その一言で全員が現実へと戻される。そして誰もそれを否定することはできない。


沈黙のあと颯真が言った。

「旗手は俺だ。」

颯真に視線が集まる。

「次、俺が負けたら死ぬ。逃げるなら今だぞ。」

誰も動かない。


立花が言う。

「逃げる場所なんてあんのかよ。」


湊が笑う。

「ないな。」


俺は颯真を見る。

「死ぬ気はあるか?」

その質問に颯真は即答だった。

「ない。だけど勝つ気はある。」


少しだけ場の空気が変わる。怖い。それでも立つしかない。


凛が端末を見る。

【第二層開始まで 21:34】


「第二層は確実に難易度が上がるはず。第一層は高さと補正がメインだった。だけど次は違う。」


湊が言う。

「環境も、ルールも、役割も。」


俺も湊と同じ考えだった。

「一回目と比べて次はレベルが違うと思う。」


そのときホール奥の扉が開いた。

全員が振り向くとそこには見覚えのある黒髪長身。

そこにいたのは九条玲那だった。蒼天の空気が一瞬で張り詰める。


凛が聞く。

「蒼陵はどうなったの?」


「失格。私だけ、残された。」


「理由は?」


「旗手の権限。」


それ以上は説明しなかった。


颯真が前に出る。

「俺がここの旗手だ。負けたら死ぬんだぞ。」

「知ってる。」

九条は頷く。

「それでも協力する。私が生き残った意味を確かめるために。」

九条の視線は揺れない。


立花が言う。

「蒼陵は納得してるの?」

その質問に九条の目がわずかに揺れた。

「納得する必要はない。」

久我が吐き捨てる。

「黒崎に助けられたやつが黒崎を倒した高校に来るとか、どういう気分だよ。」


九条は怒らない。

「最悪。」

それが彼女の本音だった。


数秒の沈黙のあと俺は九条を見る。

「蒼陸を裏切る気はあるのか?」


「ない。でも、勝つ。琴音の選択が間違いじゃなかったって証明するために。」


この場の空気が重い。


凛が言う。

「戦力としては有効。ただし、信用は別。」

九条は頷く。

「当然。」


颯真が言う。

「俺が負けたら死ぬ。それでも来るか?」

九条は即決だった。

「行く。逃げたら私を助けた琴音の死が意味を失う。」


俺は最後に言う。

「黒崎の死を利用する気なら、いらない。」


九条の目が一瞬だけ鋭くなる。

「利用なんてしない、私は背負うだけ。」

彼女との距離は縮まらない。でも、離れもしない。


【第二層開始まで 19:02】


静かな空間に、緊張だけが残る。誰も笑わない。誰も完全には彼女を信じない。だが、同じ場所に立つ。第二層はまだ始まっていない。それでもそれぞれ覚悟だけは決まっていた。

旗手の重さ。

そして“生き残った側”の重さ。

死ぬ覚悟よりも難しいのは、

背負い続ける覚悟かもしれません。


蒼天は勝ちました。

でも、誰も笑っていません。

九条は味方なのか。

それとも、まだ“敵側の人間”なのか。


第二層では「信頼」が鍵になります。

あなたなら、鍵を誰に渡しますか?

ここから物語は一段階ギアを上げます。


応援していただけると嬉しいです。

コメントやブックマークが、本当に力になります。

次話もぜひ。

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