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選抜区域  作者: 谷花皐
第二章 託されたもの

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第十四話 示すための思い

雨が止んだ。人工降雨装置の無機質な音が、ふっと途切れる。地下中央ドームに、静寂が満ちた。


...静かだ。


赤い光が収束する。

玲央の腕の中で、黒崎琴音の身体は崩れていった。


「......え」


触れているはずの重みが、消えていく。指先から、腕、肩、そして全身。触れているはずの感触が、段々と薄れていく。まるで砂が崩れるように。


「……琴音?」

九条の声が震えている。その声はやけに遠くに聞こえていた。


光が強くなり視界が赤く染まる。


そして次の瞬間黒崎はふっと消えた。そこには何も残らない。血も、遺体も。


玲央の腕は、空を抱いたまま止まる。そこにあったはずの重みは、もうどこにもない。濡れた床の冷たさだけが、やけに現実だった。


黒崎琴音は、赤い光と共に消えた。

そして濡れた斜路と、冷たい空気だけがそこにある。


全員の端末が震えた。

【敗北校旗手:黒崎琴音】

【処理完了】


ざわめきが広がる。

「処理って……今のか?」


「本当に消えたぞ……。」


「負けたら、ああなるのか?」

アナウンスが響く。


『おつかれさまでした。第一層はこれにより終了しました。参加者は退場してください。』


高台を囲んでいた壁の一部が、静かに横へとスライドする。奥に、白く照らされた通路が現れた。


無言の運営スタッフがそこには立っている。彼らは仮面を被り顔を確認することはできない。そして全員に退場を促す。歩け、と。


だが俺は動けなかった。それでも周囲に押されるように、歩き出す。


蒼天と蒼陵は分けられ、別々の通路へ誘導される。


九条は一度だけ振り返る。さっきまで琴音がいた場所。

そこにはもう何もない。


白い休憩ホール。天井は高く、無機質な照明。


中央に仕切りがあり、蒼天と蒼陵は向かい合う形で隔てられている。


端末は使用可能。だが両校が接触する事はできない。

端末が使えることだけが、妙に現実的だった。


『第二層開始まで残り三十分』


その表示が出た瞬間。他の生徒が爆発した。


「なんで負けたんだよ!」


「一点リードしてただろ!」


「触れれば終わりだった!」


怒号が飛びかう。視線が、九条へと集まっていく。


九条は立ったまま、何も言わない。


「最後、端末から離れただろ!」


「いったいなにがあった!」


数秒の沈黙。そして九条は顔を上げる。


「……私のせい。」


その瞬間空気が止まった。


「琴音は迷ってない。私を助けるために、端末から離れた。」


そこで皆の怒りが爆発した。


「は?」


「じゃあお前のせいじゃねぇか!」


「俺たちは何のために戦ったんだ!」


「お前のせいで負けたんだ!」


九条は逃げない。視線を逸らさない。


「琴音は、私を選んだ。」


それしか言えない。それが真実だから。


蒼陵担当教師が入ってくる。

「残念ながら、敗北となりましたね。」


頼りのない声。

「敗北となりましたが、第二層参加者は一人だけです。」


その場の空気が凍った。

「九条玲那を除く全員、別室へ移動してください。」


突然のざわめき。

「は?」

「どういうことだ!」

「なんでそいつなんだ!」


自分たちが敗北後どうなるか分からず。全員慌てている。たった一人を除いて。


九条の端末が震えた。

【保護対象:九条玲那】

【第一層旗手権限により指定】


教師が淡々と告げる。

「第一層旗手には、敗北時に一名を第二層へ移送する権限が与えられていました。」


「そこで黒崎琴音は、九条玲那を指定しました。」


一瞬、誰もその言葉にすることができない。

「そんなの聞いてない!」


「ズルい。だからあんな子信用できなかったんだ!」


「最初から仕組まれてたのか!」


教師は何も答えない。


「蒼陵高校は第二層参加資格を失いました。しかし九条玲那のみ、例外です。」


拳が震えた。九条は、ゆっくりと息を吐く。


そこで琴音の最後の言葉が蘇る。

――この人たちと行きなさい。


九条は教師を見据える。

「私は蒼陵よ。」


「蒼陵は失格です。」


「私は蒼陵として行く。」


「残念ながらそれは認められません。」


九条は目を閉じ、琴音との思い出をなぞるように思い返す。そして

「……私は、守られたから行くんじゃない。」

蒼陵の仲間たちを一度だけ見る。

「琴音が選んだ理由を、証明するために行く。」

教師は頷く。


蒼陵生徒たちは最後までガヤを飛ばしていたが別室へと連れていかれる。そしてどこへ彼ら彼女らがどこに行くのかは告げられない。


九条だけが、白いホールに残った。少しの静寂の後覚悟を決めて歩き出す。蒼天のもとへと。


これはたった一人の親友に託された思いを証明する物語。そして第二章が始まる。

黒崎の選択が、形になりました。

勝ち負けではなく、「誰を選ぶか」という話でしたが

あなたならどうしますか?

 

勝てる未来を取るか。

誰かを守る未来を取るか。

そして――

なぜ九条だけが残されたのか。


これは偶然ではありません。

第二層は「高さ」ではありません。

黒崎の最後の言葉が、これから意味を持ちます。


少しでも面白いと思っていただけたら、

ブックマークや感想で教えてもらえると本当に励みになります。

あなたの考察も、ぜひ聞かせてください。

次話から第二章、本格始動です。

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