第十二話 曖昧な秩序
雨脚が途端に強くなっていく。
視界がさらに落ちる。最終端末付近は、まだ無人。
だが外周が、ぶつかった。
南側斜路の根元。立花班が突入すると同時に、横から影が迫る。それは九条玲那だった。
黒髪が雨に貼りつく。迷いのない踏み込み。
「止める。」
その短い一言には彼女の覚悟が籠っていた。
立花が受けるが足場が滑る。
「本当に女かよ、、」
一瞬バランスが崩れた。そこに九条が踏み込む。
押し返すが圧倒的に不利だった。
「くっ……!」
凛が即座に指示。
「無理しないで、角度を変えて!」
蒼陵は深追いしない。
押して、引く。そして消耗させる。
「やっぱり外周を制圧する気か……」
北側でも衝突が起こる。
朝比奈班が瓦礫裏から抑え込まれている。蒼陵の動きは綺麗だ。完璧に整っている。内部が揺れているはずなのに。
黒崎が中央から各場所に補正しているのか?
雨音の中、淡々と。
観客席残骸の上には白い影、黒崎琴音。
彼女は動かない。だが盤面は確かに動いている。
「……こいつら崩れない。」
湊が呟く。
「いや崩させてもらう。」
俺は中央へと走った。
その動きに九条が気づく。
「中央が動く、行かせない!」
九条が向かう。斜路の根元で対峙。距離五メートル。雨が間を裂く。
九条が言う。
「ここは絶対に通さない。」
俺は九条に問う。
「ここで終わらせる気か?」
その質問に静かに返す。
「終わらせる気なのはそっちだろ。」
九条の動きは鋭い。だが一瞬ほんの僅か。九条の視線が後方へと流れ黒崎を確認する。
その“確認”を俺は見逃さなかった。
「……やっぱりな。」
九条は強い。だが完璧ではない。
「颯真頼む!」
颯真の目が変わる。作戦が違う。何かあったのか?そう考えたが玲央が間違うはずがないと思い迷わず旗手の能力を使う。
「全員揃えろ。」
その一言で空気が張り蒼天の動きが一斉に収束する。
迷いが削れ、判断が揃う。
立花班が同時に角度を変える。
朝比奈班が圧を返す。
凛の指示が即時伝播する。
それによる蒼陵の布陣にできるわずかなズレ。
黒崎の目が細くなった。
「……来た。」
颯真の額に汗。呼吸が荒い。三十秒それが颯真の限界。
九条へ踏み込み、そして九条がそれを受ける。
雨で足場が滑る。その一瞬、九条のバランスが崩れた。
その隙間をすり抜ける。
「しまっ――」
九条が追うが蒼天全体が“揃っている”。
外周はもちろん九条も押し返される。
黒崎が立ち上がった。高台中腹。
雨の中黒崎がいよいよ向き合う。距離にして十メートル。
「やっぱり来たのね。」
黒崎の声は静かで冷静。
「お前が触らない理由はわかっている。」
黒崎はわずかに笑う。
「合理的でしょう?勝率が最大になる瞬間まで触らない。これが一番勝つ確率が高い。」
俺は首を振る。
「違うな。怖いんだろ?」
一瞬黒崎の目が揺れる。
「負けたら、終わるから。」
雨音が強くなる。
「やっぱりな。」
黒崎はその事を否定しない。
「お前にとっての旗手は、結果で価値が決まると思っている。だからこそ負ければ、意味がない。完璧に勝たなければならないと焦る。」
「お前は一人で背負いすぎだ。」
黒崎の目が冷たくなる。
「違う、私は選んだの。守る人は、私が決めた。」
黒崎が初めて声を荒げる。
息を荒げながら後方で九条が登ってくる。
「琴音!」
黒崎の視線が一瞬、九条へ向く。どうやら颯真の能力が切れたらしい。蒼天の動きにはわずかな乱れ。
黒崎は理解する。
「……時間切れみたいね。」
勝負の盤面はもう崩れかけている。
だが
「まだ終わってない。」
端末まであと二十メートル。最終局面が今迫る。
第十二話まで読んでいただきありがとうございます。
旗手の力は万能ではありません。
揃える力と、整える力。
どちらが正しいのかではなく、どちらが最後まで立っていられるのか。
そして、黒崎が口にした「負けたら終わる」という言葉。
それが何を意味するのか。
次回、決着です。
どうか最後まで見届けてください。




