第十話 揺らぐ心
蒼陵高校・臨時拠点。崩れた講堂の一角。そこには蒼陵高校三十人が集まっていた。
端末表示。
蒼天:3
蒼陵:3
残り:1
【01:57:26】
周囲のざわめきが止まらない。
「どういうことだよ。」
「一点リードだったろ?」
「“勝たせてあげる”って言わなかったか?」
中央に視線が集まる。白髪の少女。黒崎琴音。
その顔は常に無表情だった。だがその場の空気は刺々しい。
別の班の男子が一歩前に出た。
「なんで取られた?」
九条が前に出る。
「言い方に気をつけろ。」
だが男子は止まらない。
「俺たちはお前を信じて動いてる。なのに同点?」
ざわめきがだんだん広がる。
蒼陵は今まで“旗手中心”に動いていた。だからこそ、彼女に責任が集中する。
「判断は最適だった。」
冷静に返す。
「一点リード時、消耗戦は次行動に影響する。だから分割は理論上正解のはずだった。」
「だけど、その場に能力を持っている旗手がいた。」
ざわめきが起こる。
「能力を持っていたのは想定外だったって事?」
「それでもお前なら防げたんじゃないのか?」
無責任な圧が一人の少女に押しかかる。
九条が前に立ち叫ぶ。
「一旦冷静になれ。」
だが別の女子が言う。
「旗手がいるなら、旗手同士でどうにかすべきだったん じゃない?」
「なのに同点って、、ありえないでしょ。」
自分たちが同じ状況だった時果たして黒崎のような行動が取れたのだろうか?そう考える者もいたが批判されるのを恐れてのことなのか、九条以外誰も彼女を擁護する者はいなかった。
「責任は私にある。」
その言葉でざわめきが一瞬で止まった。
「だけど、負けてない。」
九条がその言葉に続く。
「まだ同点だ。騒ぐな。」
しかしそれでも収まらず別の班のリーダー格の男が言う。
「そいつは本当に旗手だったのか?」
九条の鋭い視線がその男に向けられる。
「それ以上なにも言うな。」
だが言葉は止まらない。
「黒崎だけに判断を預けるのは危険だ。最終端末、班ごとに動くべきなんじゃないか?」
蒼陵は今まで“統一”で勝ってきた。だが今、その前提が揺らいでいる。
黒崎は静かに全体を見た。怒らない、そして焦らずに。
だが、ほんの僅か彼女の視線が揺れる。
それに九条が気づいた。
「琴音。」
黒崎は小さく息を吸い深呼吸をする。
「……今は時間がない。」
全員に端末を見せる。
【01:52:14】
「議論は後にして。最終戦で証明する。」
その場ではそう言い切るしかなかった。
強い声ではない。だがその言葉には彼女の信念が宿っていた。
九条が振り返る。
「全班、静まれ。」
九条の圧そして黒崎の一言でその場を黙らせた。
しぶしぶ収まるざわめき。だが完全ではない。
蒼陵は初めて“割れかけている”。
黒崎が小さく呟いた。
「……揺らされた。」
玲央の言葉を思い出す。
揺らしてやる。
まさに言われた通りの結果となった。今、揺らいでいるのは蒼陵。
作戦会議を始めようとしても、空気がまとまらない。
旗手への絶対的信頼が、微細にひび割れた。
九条が黒崎に小さく問う。
「どうする?」
黒崎は答える。
「もちろん勝つ。勝てばみんな何も言えなくなる。」
小さな少女の静かな決意。
だが、それにより盤面だけでなく心も戦場になった。
蒼陵は初めて、内側から試されている。
第十話、蒼陵サイドでした。
黒崎はいたって冷静です。
理論も正しい。判断も間違っていない。
それでも揺らぐ。
なぜなら彼女は“旗手”だから。
旗手は戦術の中心であると同時に、
感情の中心でもある。
そしてその重さは、勝っている間は見えません。
次は最終端末戦。
旗手対旗手。
信頼対信頼。
どちらが先に崩れるのか。
なぜ蒼陵サイドは黒崎が旗手であることに納得していないのか、それは彼女の過去にあるかもしれませんね。
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