第九話 旗の正体
中央廃ホール。崩れた天井から差し込む光の下、蒼天高校三十人が円を描いていた。
端末表示。
蒼天:3
蒼陵:3
残り:1
【01:58:42】
ざわめきの中、俺が前に出る。
「まずは状況を整理しよう。」
その言葉でざわめきが静まる。
凛が端末を操作して情報をまとめる。
「西班、被害を報告して。」
そこで一人の男子が前に出た。右腕を包帯で固定している。駅ホームでのペナルティー、あのとき右腕を負傷した西班の一人だ。
「右腕が使い物にならない。多分迷惑をかける。」
「無理はしないでここからは後方支援に回ってくれ。」
「わかった、すまん。」
これで戦力は実質二十九人。
凛が続けた。
「それぞれの班構成を再確認しましょう。」
これまでの蒼天は六班体制で行動している。
■ 第一班(中央班)
リーダー:相沢玲央
神代澪
白石凛
藤堂颯真
湊
■ 第二班(西班)
リーダー:久我悠真
■ 第三班(南班)
リーダー:立花迅
■ 第四班(北班)
リーダー:朝比奈蓮
■ 第五班(東班)
リーダー:桐谷海夢
(予備・情報班)
リーダー:白石凛(兼任)
凛が補足する。
「情報処理とマップ統括は私が継続する。」
「最終端末は中央高台。」
ホール北側、瓦礫の上にそびえる高所。
「防衛が有利ってことだな。」
立花が呟いた。
「蒼陵向きだな。ついてないね。」
朝比奈もそれに同意する。
重い空気が漂う。そこで湊がぽつりと言う。
「……なんだか妙じゃないか?このゲーム」
凛が眉をひそめた。
「ステージの配置が?」
「そうだ。」
湊は静かに続ける。
「まるで俺たちを試すみたいな構造だ。」
その場にいた全員が一瞬だけ視線を止めた。
だが今はそれに触れている場合ではない。
「確かに気になるが今は盤面に集中しよう。」
そして颯真を見る。
「それで、さっきの件説明してくれないか?」
空気が変わる。蒼天三十人の視線が颯真に集まる。
少しだけ肩をすくめ落ち着いた声で話す。
「俺の旗手には能力みたいなものがあってそれが“強制同期”だ。つってもさっき知ったんだけどな。黒崎がそれっぽいものを使っていたから試しにやってみたんだけど結果上手くいった。」
全体がざわめく。
その能力について凛が即座に整理する。
「具体的には?」
言葉を選ぶ。
「一定範囲内の味方の“判断速度”を揃えるってとこか な。多分」
「迷いを消すってこと?」
「そこが難しくて、それぞれの迷いを消すんじゃない。あくまで削るだけだ。」
補足すると
「だから持続は短いってことか?」
颯真が頷く。
「そうそう。長く使えば反動がくる。」
澪が心配そうに見る。
「さっき端末を取った後息荒かったよね。」
「三十秒が正直限界だ。」
凛がその情報を元に即座に整理する。
「一点突破専用能力。そして防衛には向いておらず、そ のうえ乱戦でも消耗が大きい。」
「黒崎は補正型。全体を最適に動かす長期戦向き。」
湊が言う。
「つまり正反対ってことか。」
蒼陵は“整える旗”。蒼天は“揃える旗”。
作戦を考え全員に伝える。
「混戦に持ち込み整える暇を与えないってのはどう
だ?」
久我が口を開く。
「全班同時突入ってことか?」
凛が首を振る。
「それだと黒崎に読まれる可能性がある。」
「前提を壊せばいい。高台が防衛有利なら、防衛が意味を持たない形にすればいいだけだ。」
沈黙の後立花が言う。
「陽動を大量に?」
「違う。」
「全員が“本命”になればいい。」
その言葉の意味を、全員が理解するのに時間はかからなかった。高台は狭い。つまり全方向から同時に登れば黒崎の補正は間に合わない。
だがこの作戦の成功率は決して高くない。
凛が冷静に勝率を分析する。
「五割、いや四割いってるかも怪しい。」
颯真が笑った。
「それだけあれば十分だろ。」
【01:51:09】
時間はまだある。だが次が最後。
「一度散る。位置取りを完了させてから動こう。」
その時湊が小さく呟いた。
「……まだ動くな。」
「何か言ったか?」
だが湊は首を振る。
「いや、なんでもない。」
湊のその目は、高台ではなくマップの“外側”を見ている。
残り一基。そして旗手対旗手、いよいよ最終局面へと突入しようとしていた。
第九話を読んでいただきありがとうございます。
今回は戦闘のない回でしたが、物語の構造が大きく整理された回でもあります。
蒼天六班体制の確定。
西班の負傷。
そして藤堂颯真の旗手能力の明示。
ここでようやく、両校の“旗”が出揃いました。
黒崎琴音は「整える旗」。
藤堂颯真は「揃える旗」。
似ているようで、まったく違う力です。
この物語は能力バトルではなく、“構造の戦い”だと思っています。
誰が強いかではなく、
誰が前提を壊せるか。
そして湊の言った
「まるで誰かが試しているみたいだ」という違和感。
それは今後、少しずつ意味を持ってきます。
残る端末は一つ。
時間は二時間弱。
次はいよいよ最終局面です。
整えるか。
揃えるか。
それとも壊すか。
次話もぜひ読んでいただければ嬉しいです。
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