32・僕の【英雄】
前話のエレンとモルルーラの話し方を修正しました。
直したのは話し方だけで、内容的な変更はありません。彼女達の話し方をすっかり忘れていた作者のミスです。申し訳ありませんでした。
☆
あたしの策は成功し、スペルレイン軍を混乱に陥れる事は出来た。しかし、厄介な奴らが残っている。
今、奴らの相手が出来るのは、あたしとあの娘しかいないからね。
「この結界は貴女の仕業です。ミーに破れない結界、いや、結界術ですか。どちらにせよ大したものです」
「あら、破れなかったの? 貴女も一応勇者なのでしょう、違ったかしら?」
「ごめんなさい、言葉を間違えましたです。簡単には破れないに訂正します。破れない訳じゃないですよ」
「でしょうね、それくらい出来なければ勇者の資格は芽生えないわ。でもね、あたしが破らせると思う? 貴女達の魔法軍は私の結界に混乱して、魔法を使う集中力を保てないでいるのよ。魔法に対して脆弱なオーク達を率いているあたしには願ってもないこの現状を簡単に覆させるわけがないでしょ」
あたしの結界術を破るには、スキルと魔法の入り組んだ複雑な結界術を正確に紐解く必要がある。それはスペルレイン女王国が誇る【勇者】モルルーラ=ル=カタール魔法騎士であっても、集中しなければ行えない作業だ。
「そうですね。ですが、貴女を倒して仕舞えばわざわざ結界術を破らなくても済む話です」
「そう上手くいくかしらね」
あたしとモルルーラは対峙し、お互いの隙を探り合う。
「モル、ワーが吸血鬼の相手をします。モルは先に結界術を破るですよ」
「光の剣よ、我が前の敵を貫け!」
横から乱入してきた、エレン=ル=スペルレイン王女が光魔法を放ってきた。
「グラウンドウォール!」
ズドドドドドドン
エレンの放った光魔法は、土の壁により全て防がれてしまった。
「ば、馬鹿な、何故オークがこれ程の土魔法を!」
「申し訳ありません。あたしはオークではなくオークメイド。王女様の相手はヴァンレイン家のメイドであるあたし、トンコが務めるように奥様より仰せつかっております」
光の剣を防いだ土の壁を出現させたのはトンコ。我が家のメイドにして、普通のオークとは異質な力を備えた家族の一員である。
「そっちは任せたわよ、トンコ」
「はい、奥様」
「この豚ちゃんはワーが片付けるです、モルもサッサと吸血鬼を倒すですよ」
「はいです、エレ姉様」
こうして、あたし対モルルーラ、トンコ対エレンの図式が出来上がった。
☆
「中々粘りますわね、豚ちゃん」
「光よ、四方より出で我が敵を焼き尽くせ!」
カカカカーッ
「グラウンドドーム!」
あたしを360°囲んだ光に対して、土のドームで体を包んでその照射を防ぐ。
「そんなものでは止められないですわよ!」
照射を続ける光が、土のドームを溶かし始める。
あたしは《土移動》でその場を逃れ、エレン王女の後方10メートルまで移動する。
「グラウンドランス!」
エレン王女の背後の地面から、土の槍が伸びて彼女を襲う。
タンッ
王女はちょこんと飛び跳ねて、難なくその槍を交わした。
「光よ、我に仇為す物を無き物とし、其れを放つ者を焼き払え!」
空中にいるエレン王女の左右の空間から照射された光が、土の槍を融解し、そこから屈折した光があたしを襲う。
「グラウンドウォール!」
ジュッ
「ぎゃっ!」
立ちはだかる土の壁が完成するよりも一瞬早くあたしに到達した光が、あたしの左肩を焼いた。尚も光は土の壁を溶かし続ける。
「光の剣よ、隠れる者を刺し貫け!」
ドスドスドス
「ぐっ!」
左右より現れた光剣があたしを襲う。あたしは《土移動》で土中に回避するが、光剣は土中のあたしの右肩を掠めた。
「光よ、我が前の地を焼き払え!」
ドガアアァァン
土中にいるあたしの周りの地面に、幾筋もの光が乱雑に照射され、爆発を起こした。
「ぎゃうん」
爆発に巻き込まれたあたしの身体は、土の外に吹き飛ばされてしまった。
「かなり粘ったようですけど、そろそろ終わりですね、豚ちゃん」
「いえ、奥様に頼まれましたので、そういうわけには参りません」
とは言え打つ手がない。奥様には「格上相手に勝とうとせず、出来る限り粘りなさい」と言われている。
何とか時間を稼がなければ!
「そう、じゃあ頑張って粘りなさいです」
「光よ、四方より出で我が敵を焼き尽くせ!」
「グラウンドドーム!」
「グラウンドドーム!」
「グラウンドドーム!」
全方位より襲い来る光の照射に対して、防御魔法を重ね掛けする。
これも所詮は一時しのぎだ。やがて光は土のドームを溶かしてしまう。
さて、ここからどうしようか?
☆
「早くやってくださいよ、王太子。早くしないとあのオークの娘がやられちゃいますよ!」
「お前がやればいいだろ、ウェイン。そもそもお前がグィネに頼まれたんだろうが!」
僕、ウェイン=ウェンは困っていた。目の前では姉上、グィネ=エフード=ヴァンレインの読み通りの戦いが、読み通りの場所で行われていた。
しかし、相手があの、噂に名高いスペルレインの【魔女】エレン=ル=スペルレイン第4王女とは聞いていなかったのだ。
やりたくないとゴネているのは我がエフード王国の王太子、ガヘス=エフード王子である。
「大体、何で俺が他国に嫁いだ元婚約者の頼みを聞かなきゃいけないんだよ」
「僕らはヴァンレイン亜人国への正式な援軍なんですよ。何もしないわけにはいかないでしょうが!」
「だからお前がやれよ、ウェイン。これは貸すからさあ」
「聖短剣カルウェレントの当代の持ち主は王太子でしょうが、僕が投げてもカルウェレントは言う事聞きませんよ」
「俺は聖短剣に当代の持ち主と認められただけで、勇者でも何でもないんだぞ。【魔女】なんかに勝てるわけないだろ!」
いつまでも決着のつかない話し合いに痺れを切らしたのだろう。
一人の精悍な青年が話しに割って入ってきた。
「覚悟を決めてください王太子。今はやるしかないのです」
「ポール、お前までそんな事を言うのか!」
割って入ったのはポール=マロス青龍騎士団長。エフード王国の双璧と言われるマロス兄弟の弟だ。
「王太子の身は必ずお守りします。それに考えてみて下さい、あの【魔女】とウェン公爵家の【鬼姫】と、王太子はどちらが怖いですか?」
「そ、そうですよ王太子。今やらなければ姉上の怒りは僕にも〈ブルッ〉いや、エフード王国にも向かうかもしれない」
「姉上が本気で怒ったらエフード王国を滅ぼしかねないですよ!」
考えただけで僕は震えが止まらない。よく見ると王太子も震えていた。
「そ、そうだな、グィネに比べれば【魔女】の方が全然マシだな。よ、良し、俺はやるぞ! は、配置につけ!」
ついに決断した王太子の肩を一つ叩いて、僕とポールも移動する。
配置についた僕は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
つ、ついに王太子が【魔女】に向かって聖短剣カルウェレントを投げつけた。
「邪魔です、こんな物!」
それに気づいた【魔女】は迎撃しようと光の魔法を照射するが、聖短剣はその光を跳ね返す。
自分の光魔法が跳ね返された事実に驚き、一瞬【魔女】は目を見開いた。
「まさか、聖武具ですか!」
跳ね返した光は【魔女】に簡単に避けられてしまうが、投げつけてきた武器が聖短剣である事に気付いた【魔女】が王太子に向かって空を翔けて迫ってきた。
聖短剣を持つ者がエフードのガヘス王太子である事をラシリア大陸西域に住む者で知らない者などいない。
空も飛べるんだあの【魔女】!
感心してる場合じゃない、僕も準備をしないと。
僕は弓に矢をつがえて引き絞る。
「エフードの王太子よ、その首貰うですよ!」
王太子の頭上に達した【魔女】は光の照射を王太子に浴びせた。
それを王太子は聖短剣カルウェレントで跳ね返したのだ。
「な、何!」
聖短剣カルウェレントは2本で1対と為す武器である。
エフード王国の建国王、モルド王は【勇者】アイザーのパーティーにいた時代からその事を隠していたと言われている。その事実を知るのは建国王である【深緑の探索者】モルドと【英雄】ランスロードだけ。
至近距離から王太子が反射した光を【魔女】は身を捩って躱した。何という反射神経。
しかし流石に躱し切れてはいない。光は彼女の頬を掠めて髪の毛を焼いた。体制も崩れている。
「ぐっ、この」
僕はすかさず矢を放った。
子供の頃から、姉上に鍛えさせられた矢だ。外しはしない。
「いぎゃっ」
心臓を狙った筈の僕の矢は【魔女】の左肩に命中した。馬鹿な、あれをも躱すのか!
「青龍騎士団、自分に続け〜!」
「「「おお〜!」」」
そこに殺到する、ポール率いる青龍騎士団! 三段構えの作戦だ! これで討ち漏らす訳がない。
一番に飛び込んだポールが剣を振り下ろした。
「ぎひゃう!」
「ま、まだぁ!」
ポールは袈裟斬りに【魔女】を斬ったが、彼女は再び空中に浮遊している。あ、浅かったのか? そんな! 姉上、姉上に殺されてしまう!
「グ、グラウンドジェイル!」
地面が盛り上がり、空中の【魔女】へと伸びる。
「う、嘘、このお!」
そしてその地面は彼女を包み込みながら球状に固まっていった。
さっきまで【魔女】と戦っていたメイド姿のオークの娘の土魔法がついに【魔女】を捉えたのだ。
見ればオークの娘は既にボロボロの状態だった。そんな状態のオークの娘に僕達は救われたのだ。
は、早く、早く駆け寄って介抱してあげなければ。僕達を姉上の怒りから救ってくれた【英雄】に最大限の感謝の言葉を述べながら。
連載当初から書きたかったトンコちゃんの活躍回です。
当初は人懐っこい可愛いらしいキャラにする予定だったトンコちゃんですが、ヴィアが厳しいせいか、メイドの職務に忠実なおとなし目のキャラになってしまいました。
でも、今でも子供好きな可愛い娘の設定で書いてるんですよ。おとなしいので分かりづらいですが・・・。
グィネ主役の連載を書く予定だったから、エフードの王族とウェン公爵家が登場すると、作者はちょっと嬉しいです。
☆
【作者からのお願いです】
読者様からの反応を何よりの励みとしています。
ポイント評価、ブクマ登録、感想、レビュー、誤字報告を頂けますと、創作意欲のより一層の向上に繋がります。
お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。
連載中の[不幸続きで転生5回目・・・]です。
この小説とリンクする作品となります。
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互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。
こちらもよろしくお願いします。




