31・アルス山脈防衛戦
『敵が動き出しました、ヴィア様』
『動いたのは全軍か? ブーザン』
『いえ、いつものように左翼の2万だけです。どういたしますか?』
『ギガースゾーンに任せる、ブーザンはそのまま監視を続けなさい。今日は恐らく全軍で動いてくる筈です』
『了解しました、監視を続けます』
『ギガースゾーン、聞いていたな、敵の左翼は任せる。今日は援軍は送れないと思え。ギガース隊だけで対処してもらうぞ』
『あたい達だけで充分ですよヴィア様。任せてください』
スペルレイン女王国がアルス山脈に到達して、既に3日が経過している。
これまでの戦況は一進一退だが、アルス山脈の上側を確保しているあたし達に対して、今迄のような攻撃ではアルス山脈を越えることなど出来ない。
しかし、スペルレイン軍の主力というべき勇者を擁するエレン第4王女の率いる魔法軍は一度も動いていないのである。
あたしの読み通りなら、今日は動いてくる筈なのだ。
『動きました、ヴィア様。右翼の2万が岩山を迂回する様に、森林の方に向かっております。その後に続く様に中央の1万が右翼の後ろにつきました』
良し、読み通りの展開だな。
『ブーザンは監視を続けながら、頃合いをみてオーグスと合流しろ』
『オーグス、予定通りだ。あたしの合図で攻撃を開始しなさい』
『『了解!』』
それじゃあたしも行動を開始するか、【麗美なる吸血姫】と呼ばれたあたしの恐ろしさを教えてやる!
☆
「全軍に告ぐ、行軍を急ぐ事はない。ギガースの隊とオークどもの距離を充分に開く必要がある。森に到達したらオーク隊が出てくる、数は多いが魔法障壁を展開しながら削っていく、本番は敵首都の攻略にある。戦力を無駄に使うでないぞ」
「「「「「「おお〜!」」」」」」
この3日間の小競り合いで、敵の意図は読めた。奴らは首都決戦に戦力の大半を当てているようだ。
数の上で圧倒しているワー達に対して、亜人国の奴らは少数のギガース隊を主力とし、オークどもがそれを支援するという防衛しかしてきていないのだ。
場合に応じたオークどもの動きは見事であったが、それだけだ。
恐らくは、ドワーフ王国にこちらの予想以上の戦力を投入しているのだろうな。
「モルも魔力を温存しておきなさいね。障壁の薄い箇所への支援だけをお願いするですわ」
「わかったです。ミーはエレ姉様の騎士、エレ姉様の命令通りに行動するです」
「ええ、首都攻略の際には、モルにも存分に働いてもらいますからね」
「エレン王女、間も無く森に到達します」
「全軍、魔法障壁を展開! オークを蹴散らした後にギガースに対しても横合いから魔法攻撃を行う。準備しなさい!」
「森の影にオークの存在を目視しました。攻撃許可をお願いします」
「攻撃を許可しますが、オークが撤退しても追う必要はありません。徐々に行軍を進めてアルス山脈を越える事に集中しなさい!」
「攻撃開始!」
「「「「「「おお〜!」」」」」」
☆
『ヴィア様、オークの一部の存在を敵に明かしたところ、敵は魔法障壁を展開し、攻撃を開始しました』
『よろしい、オーク達は再び隠れなさい。結界術[閉ざされた世界]を確認したら、オーグスとブーザンは予定通りに行動しなさい』
『『了解!』』
あたしは自らの手首を切り裂いて血液を撒き散らす。《空間結界》に結界魔法を混ぜ合わせた[閉ざされた世界]で敵の右翼の2万と後方の1万とを分断する。
「な、何だ? や、闇が、闇が囲ってきた!」
突然の暗闇にスペルレインの兵士達は同様し始めた。
「後方の敵部隊を湖近くの湿地帯へと誘導する。俺に続け!」
少数で敵の後方部隊へと突っ込んだブーザンは、敵の目を己に惹きつける。
闇の結界術に囚われている後方部隊を、ブーザンは巧みに誘導して、前方の2万の部隊から引き離して孤立させ、攻撃と撤退を繰り返しながら湿地帯へと移動させた。
「俺達はヴィア様の支援に向かう、後は頼んだぞ、リスキー!」
「任せておけ、湿地帯はわしらの庭同然じゃわい。行くぞ、一人として逃すな、殲滅するのじゃ!」
「「「ウオオォォー!」」」
伏せていたリザードフスキー率いるリザードマン部隊が、一斉に後方部隊1万に襲いかかった。
湿地帯におけるリザードマンの機動力は圧倒的である。スペルレインの後方部隊は為す術も無く打ち捨てられていった。
「オーク達よ、これより敵主力部隊へと攻撃を開始する。私達の任務は闇の中で敵を混乱に陥れる事にある。決して深追いはするなよ。尚、敵の王女と勇者には手を出すな。犬死にするだけだ。そ奴らはヴィア様に任せておけばよい」
「続け〜!」
「「「フガアアァァッ」」」
オーグス率いるオーク隊が、敵の右翼部隊2万へと攻撃を開始する。
魔法障壁の薄い場所を突いては、力による直接攻撃を仕掛け、一撃離脱を繰り返した。敵を倒す事よりも撹乱を目的とした攻撃である。
夜目の効く魔物と夜目の効かぬ人間との暗闇での戦闘、加えて夜目の効く魔物側は決して深追いはして来ない。夜目の効かぬ人間側は面白い様に翻弄されていった。
「姉さん、あっちでも本格的に始まったみたいですぜ」
「ああ、あたい達も始めようか」
ギガースゾーンが大きく手を翳して、合図を出しつつ、雄叫びを上げる。
「いいかお前ら、もう手加減する事はない。ギガースの力を思い知らせてやれ! ウオオォォー!」
「「「ウオオォォー!」」」
これまでの3日間の戦いでは、ギガース達は岩を投げつけたり、崖を崩して敵の進路を塞いだりと消極的な戦い方で防衛に専念していた。それでも、圧倒的に数の多い敵を相手に厳しい戦いではあったのだが。
ギガース本来の戦い方は、その巨体を生かした肉弾戦である。だが、その戦い方はヴィアによって禁止されていたのだ。そして遂にその戦い方が解放された。
「な、何だ、コイツら急に!」
「ぐがあ、駄目だ、さっきまでとはまるで別の生き物だ!」
3日間で植え付けられたギガースの消極的な戦い方は、スペルレインの兵士達に油断を与えていた。
突然始まったギガースの肉体による蹂躙に、スペルレインの兵士達は全く対処が出来なくなっていた。
「モル、この闇の結界を早く打ち消しなさいですわ!」
「駄目です、これは単純な結界魔法ではなく、スキルを含めた複雑な結界術です。ミーでも直ぐには打ち消せないです」
「な、何故こんな事になったですか? ワー達、スペルレインの精鋭を相手に3日間も欺き続けたとでもいうのです?」
「そういう事よ、お馬鹿さん」
突然、空から降ってきた言葉を聞き、エレン=ル=スペルレイン王女が闇と化した空を見上げた。
闇の中には、蝙蝠の様な翼を広げた一人の吸血鬼が浮かんでいた。
策士ヴィアって感じで書いたつもりです。
いやあ、集団戦って書くの難しいですね。今の作者にはこれで限界みたいです。いつか納得いくように書き直したいと思いますが、今回はリアルが忙しく、時間もないのでこれで勘弁して下さい。
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連載中の[不幸続きで転生5回目・・・]です。
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互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。
こちらもよろしくお願いします。




