喰らいつくラブソング
一年後。
眩しい照明と何台ものテレビカメラが並ぶ生放送のスタジオ。あたしたちはひな壇に座り、出番を待っていた。
あの日、ライブハウスで初披露したあたしの渾身の曲――『レプリカ・ヒーローに花束を』。
始まりは、あの日ライブに来ていたファンが投稿した一本の動画だった。
《推しバンドのAnonymous Sistersの新曲やばい!!途中からなんだけど全員聞いて!!》
《あれ?このボーカルSpecularのリュウセイと噂になってた子じゃない??普通にいい曲作るね》
《リュウセイを誑かした女がどんなもんか見てやろうと思ったのに歌うますぎた》
《やばい、メロディと歌詞にぶん殴られた》
最初はゴシップ混じりで見に来る人もいたけれど、次第に純粋に音楽を評価してくれる人が増えていき、動画は瞬く間に拡散された。そしてあたしたちは、そのたった一本の動画をきっかけにメジャーデビューまで駆け上がったんだ。
「さあ続いては、たった一本の動画がSNSで爆発的に話題となり、今若者の間で大流行中のAnonymous Sistersの皆さんです!」
司会者の呼びかけに、マイクを持って一礼する。
「新曲初披露の動画が一気に拡散されたそうですけど、カレンさん、反響はすごかったんじゃないですか?」
「そうですね。この曲には私の憧れも初恋も悔しさも全部詰め込みました。あたしたちはわがままに、自分勝手に生きるために音楽をやっています。だから見つけてくれてありがとうございます」
あたしが堂々と答えると、司会者は隣のユメとナギにもマイクを向けた。
「ドラムのユメさん、ベースのナギさんは、この怒涛の反響をどう感じていましたか?」
「うーん、世界がやっとユメたちの魅力に気づいたかぁって感じです♡ あたしたち世界で一番可愛くてイケてるバンドですから」
ユメは濃いピンクのリップで囲った唇を引き上げると、あざとくにこりと微笑む。ナギは相変わらず無表情だったけれど、力強い声で続けた。
「嘘か本当かわからない情報がたくさん流れる現代でも、私たちの音楽だけはホンモノだって気持ちでベースを弾いてたので嬉しいです」
二人の言葉にスタジオが一瞬で沸き立つ。司会者は感心したように頷き、ひな壇の少し離れた席へ視線を向けた。
「そして今夜は! 無期限活動休止からの活動再開を果たし、本日が復帰後初のテレビ出演となるSpecularの皆さんもいらっしゃっています! リュウセイさん、彼女たちの活躍はどうご覧になっていましたか?」
司会に話を振られて大画面に映ったのはリュウセイだった。リュウセイは一瞬目を軽く閉じてから、真っ直ぐな目でカメラを見つめ、静かにマイクに向かって口を開いた。
「……負けてられないですね。喰われないように俺たちもどんどん進化します」
「お互いに強いライバルの出現ですね……! 皆さんお待たせしました。次の曲はAnonymous Sistersの皆さんで『レプリカ・ヒーローに花束を』です!」
ひな壇を立ち上がり、ステージの中央へと進み出た。
定位置に立ち、あの日と同じネオンピンクのギターを構える。視線を感じて顔を上げると、ひな壇にいるリュウセイと目が合った。リュウセイは真っ直ぐな目でこっちを見つめている。
にっこりと笑い返してやる。
宣言通り、あたし、あんたに釣り合う女になったでしょ。あたしたちは、自分の足でここに立っている。音楽で全てを証明するために。自分の感情を爆発させるために。これはあんたへのラブソング。
マイクの位置を調整し、息を大きく吸い込む。
――このラブソングで! 喰らいつけ!!




