偽物のラブソング
ライブハウスの裏手、搬入口に続く薄暗い路地裏。ビルとビルの隙間風の音がビュービューと鳴り響く中、壁に寄りかかる黒いキャップを深く被った男が目に入り、あたしは足をとめた。あのブランドのキャップ、リュウセイだ。
「待ってた。……いきなり連絡つかなくなったから焦った。LIMEブロックしたよね?」
あたしに気づいたリュウセイがすがるように問いかけてくる。その瞳はなんだか泣きそうで子供みたいだ。
「うん、ブロックした。もうあんたとも会わない。」
ギターケースについたキーホルダーをいじりながら、あたしがリュウセイの目を睨みつけながらそう言うと、リュウセイは焦ったように泣きそうに言った。あんたの音楽が自分のせいでバカにされるのが悔しくて、このままだと自分も嫌いになりそうだからなんて、自分のプライドが許せなくて言えなかった。
「……っなんで??お前俺のこと好きだろ!!俺もお前のこと………。別に今まで積み上げたものなんて偽物だしどうでもいい、それよりお前とまた、、」
それを聞いたとき、ズルいと思った。あたしはあんたに憧れて過去を捨てて今カレンとしてこの街で生きてる。なのにその憧れの人がそれを否定して、自分への憧れを利用して今まで積み上げたものも捨ててあたしに縋り付いて甘えようとしてくんな。ほんとに気持ち悪い。
「おまえ、きもちわりーんだよ!!」
路地裏にあたしの声が響き渡った。
「…好きだからなに??それを利用すんな、本当に気持ち悪い。……あたしが欲しいもの全部持ってるのに何が不満なんだよ。偽物だから??
自分が積み上げてきたもの否定すんな。自分に憧れて人生変わった奴だっているんだから、ちゃんと責任取れ!!今のオマエ、ダサすぎ。もう連絡しないし、してくんな」
きっと傷つけた。でも後悔はしない。だって今のリュウセイはあたしの憧れたあの人じゃない。背を向けて歩き出そうとした時、あたしは足をとめて一度だけ振り返った。
「あ、最後だから教えてあげる。……あたし、カレンって名前じゃないから」
前を向く。もう振り返らない。
ギターケースにつけたたくさんのキーホルダーが、張り詰めた空気を壊すようにじゃらじゃら音をたてる。
だけど最後にどうしても伝えたくて、声を張り上げる。
「あたし、絶対メジャーデビューして人気者になってやるから!今度はあたしが誰かの憧れになってやる。だから……またいつかねー!!」
暗い路地裏を背に、あたしはネオン輝く街へと向かった。




