ノイズ混じりのラブソング
ライブの日の朝、あたしがメイクをしているとスマホが激しく震えた。画面を確認するとユメから着信が来ていた。
「もしもし、朝から——」
「ねぇ! カレンZの投稿みた?? 暴露系にあんたとリュウセイ暴露されてる!!」
「え??」
「いいから! 一旦Z確認して!!」
ユメはそう捲し立てると電話を切った。急いでZを開いて確認すると『【S級スクープ】人気バンドマン・リュウセイ、未成年ガールズバンドボーカル兼コンカフェ嬢お持ち帰りか!? 華夢町での密会写真を激撮!』と投稿されていた。投稿された写真には、黒いキャップを被ったリュウセイと、派手なチャームやキーホルダーがじゃらじゃらぶら下がっているギターケースを背負ったあたしの姿。あたしの顔にはモザイクがかけられているけど、わかる人にはすぐわかってしまう。間違いなく、あたしとリュウセイだ。
(このじゃらじゃらつけてるチャーム…よく行くライブハウスでライブしてるガールズバンドのボーカルがつけてるのに似てるんだけどww本人??)
(このバンドのボーカルだろ)
(未成年コンカフェ嬢ってラブリードールのあの子じゃない?)
(特定班はよ特定オネシャス)
リプ欄や引用では特定作業がじわじわと進み、嫌な予感と疑惑の目が向けられ始めていた。
「…っそんなやましい関係じゃない!!」
ベッドにスマホを投げつけて、肩で息をする。
関係を邪推された怒りと、これからどうなるのかという焦りで汗が止まらない。その時、ナギからLIMEが届いた。(ネットみた。ヤバいね。今日のライブどーする?)その文面からは、「どうする?」と問いかけつつも、あたしが逃げるわけがないというナギからの絶対的な信頼を感じた。
「……逃げるもんか。特定されてようがされていまいが、あたしはステージに立つ。」
◆◆◆
その日の夜、いつもの華夢町のライブハウス。
モザイクのおかげで完全特定はまだされておらず、フロアの客たちもいつも通りあたしたちのステージを楽しんでいるように見えた。だけどあたしは、逃げないと決めたものの「疑惑の目で見られているんじゃないか」と考えてしまい、せっかく来てくれた客への罪悪感と、やっぱり視線が気になってしまう焦りで手が狂いそうになった。声が震えていないかが心配で、視線が泳ぎそうになるのを必死に堪えた。
なんとか出番を終えて、何の汗だかわからない汗を拭いながら控え室に戻った直後のことだ。バンッ!と激しい音と勢いでドアが乱暴に開かれた。
「おいっ! お前だろリュウセイさんの写真に写ってるアバズレ!」
罵倒と共に怒鳴り込んできたのは、リュウセイのバンドのキーボード担当のハヤテだった。そのハヤテに引き摺られるように来た、気まずそうな顔をしたリュウセイの姿もある。
ハヤテは真っ直ぐあたしの方に歩いてくると、軽蔑した目で睨みつけて捲し立てた。
「リュウセイさんの邪魔すんなよ! お前みたいな地下アイドルみたいな舐めた底辺女と、リュウセイさんが釣り合ってねぇんだよ! 迷惑かけんな!! お前らも共犯だろ!?」
ハヤテは傍らにいたユメとナギにも激しい勢いで噛みついてきた。
あまりの言い草に絶句するあたしと、オロオロしながら「ハ、ハヤテそんな怒鳴るなって、、俺も悪かったし、、」と間に入ろうとはするものの、どっちつかずなリュウセイ。
だがその瞬間、ユメがふらふらとハヤテとあたしの間に入ってきて向かい合い、頬に両手をあててあざとく首をかしげた。
「え〜ん♡ ハヤテくんこわ〜い( ; ; )」
ユメはぷりぷりした声と笑顔をつくり、わざとらしく怯えてみせた直後に表情をスンっと消した。
「で? オマエ誰だよ? はっ、どーせリュウセイの腰巾着なんだろーけど、、てゆーかリュウセイもさ、どっちの味方なんだかはっきりしろよ。オマエどっちつかずすぎてだっっさ…あ、ごめんねぇ〜ユメ詳しいことわかんないよぉ〜〜(><)♡」
「………っ…。」
ハヤテはユメの激しい感情の温度差と口の悪さに絶句する。さらにこの状況でものんびりと椅子に座りながらタバコを吸っていたナギが追い打ちをかけた。
「ぁあー誰?? 見たことある気がする……至福の時間邪魔しないでよー」
「な、なんだよお前ら…!! もういい、とりあえずリュウセイさんの邪魔だけはするなよ!!」
ユメの悪態とナギのマイペースさに唖然としたハヤテはそう捨て台詞を吐いて、リュウセイを引き摺りながら楽屋を出て行った。
「あれぇーなんか帰っちゃったねー」
ナギがのんびりと言う。あたし、ダサすぎ。咄嗟に言い返せず、ユメとナギに庇われてしまったことが情けなくなった。
「迷惑かけてごめん」
「謝らないでよ。勝手に写真撮るやつが悪い。」
珍しくユメが素で返事をした。ナギも続けて言った。
「私はカレンとユメとライブして、好きなだけタバコ吸えたらさいこーって感じだからねー」
2人がこう言ってくれたんだ。くよくよするのはもう終わりにする。
「これで最後にするけど、ほんとにごめん。だけどあたし、逃げないから」
◆◆◆
深夜。ベッドに寝転がりながら一人スマホの画面をスクロールし続ける。逃げないとは言ったものの、やっぱり気になってしまう。
スクープの投稿はさらに拡散され続けていて、あたしの特定作業も進んでいた。
(あーやっぱこれ絶対ラブリードールのキャストのマイだわ)
(マイって確か華夢町でAnonymous Sistersってバンド組んでるよね。確かカレンって名乗ってた。)
(そのマイだかカレンって女がリュウセイたぶらかしたの?? ○ねくそビッチ!)
「わー、もうバレてるやば」
ネットの特定までの速さに若干引きながらどんどんスクロールしていく中には、あたしじゃなくリュウセイを攻撃してるアカウントもあった。
(こんな未成年地下女に引っかかるとかリュウセイも終わったな)
(未成年に手出すとかリュウセイロリコンかよきもすぎ)
「あいつロリコン扱いされてんのおもしろすぎ」
笑いながらさらにスクロールを続けたが、ある投稿を見て手を止めた。
(未成年に手出す男が書く曲とか気持ち悪くてもう聞きたくない。)
(リュウセイの最近の曲なんかダサいと思ってたけど、女にうつつ抜かしてからなんだね。もうファン辞める)
「まじか…!」
思わず声が出てしまった。自分から出た声が思ったより焦っていて、こんな状況なのに笑ってしまいそうだった。一旦画面を閉じ、天井を見上げる。
別にあたしは特定されようと、リュウセイのファンに攻撃されようとどうでもいい。あたしのライブに来たら夢中にさせて黙らせればいいだけだ。リュウセイがロリコン扱いされようと気持ち悪いと言われようとどうでもいい、あたしを気に入ったあいつの責任だ。
だけど、だけど——リュウセイの作った音楽までバカにされるのだけは許せない。
だって、余裕なフリしてすかしてるように見えるけど、リュウセイが心血を注いで命削って曲作ってることは、あたしが1番知ってるから。ネットの情報しか知らない奴にリュウセイの曲を叩かれるのは腹が立つ。それが自分も原因の1つだと思うと、自分が許せない。
あたしは、あたしを好きになるために音楽を始めた。だけど、このままじゃ嫌いになりそうだ。
ピコン、と携帯が鳴った。リュウセイから(本当にごめん。会って話がしたい)とLIMEが来た。
あたしはそのトーク画面を開かないまま、リュウセイをブロックした。
ごめん。だけどあたしはあたしを嫌いになりたくない。だからもうこの関係はおしまい。
だけど、いつかあんたに釣り合う女になって、今度はあたしがあんたに会いに行ってやる。




