秘密のラブソング
リュウセイとLIMEを交換してからほぼ毎日のように連絡が来る。ベッドに寝転がって天井を見つめて改めて思う、憧れの人と連絡してるなんて夢みたいだ。リュウセイからの連絡が楽しみで何も通知なんて来てないのに何回もリュウセイとのトーク画面をみてしまう。
(そこは高い音よりも低めにしたほうがいいんじゃない)
(イメージこんな感じでしょ)
送られてくるのは大抵音楽のアドバイスやギターや歌のサンプルがメインだけどたまにくだらない日常の一部みたいなメッセージもある。
(わたあめみたいな雲発見)
一緒に青空と白い雲の写真が添えられてる。こういう、普段の大人ぽくてかっこいい雰囲気とは結びつかないような無邪気なところ見せてくるから本当にずるい。ただの大勢いるファンの1人だったのにリュウセイの特別になれたみたい。
「…子供みたいかわいいかよ…。普段は大人なお兄さんみたいな風にスカしてるくせに…。」
ベッドで仰向けになって腕で目を覆いながら呟く。あたしは(なんで雲?それよりサビのとこもっといい感じにならない??)と素っ気なく返信するけどあたしの気持ちも顔も緩みっぱなしだ。
そんなリュウセイだけど音楽のことになると一変してプロの顔になる。送られてきたボイスメモからきこえるアコースティックギターの温かくて柔らかい音とリュウセイの低い落ち着いた鼻歌。音質も悪いはずなのになぜか心に入り込んでくる。悔しいけどやっぱりリュウセイは天才だと再確認させられた。でも、その天才よりも輝きたいだから「…負けてらんない、これ以上にすっごい歌うたってやる」
憧れと悔しさが入り混じった感情に背中を押されて、あたしは単身者用アパートの角部屋で夜通しギターをかき鳴らした。リュウセイのアドバイスを上手く自分の技術に変えていく、時間を忘れてギターを弾き続けた。
それだけじゃない。リュウセイはたまにだけど変装してライブを見に来てくれるようになった。その日の夜はこっそりライブ終わりに会って直接ギターを合わせて弾く機会も一回や二回ではなかった。
「そこまた感情込めすぎてる。そこはもっと落ち着いて軽く弦を弾いて」
「ぇえ、、またできてなかった??自分ではできてたつもりなんだけどもう1回やってみる。こうっ??」
「うんうん、いい感じじゃんカレン。初めての時より上手くなってる」
間近でみる鼻筋の通った横顔、歌う時の涼やかだけど甘い声、あとなんかいい匂いする!ふとした時に視線を感じて顔を上げると目が合う。
その度になぜか心臓がバクバクする。
あたしがリュウセイの大ファンだってことは絶対言えない。リュウセイがあたしに興味を持ってくれたのもこんな特別扱いしてくれるのもあたしがリュウセイに興味がなくて音楽にしか興味がない女だと思ってるからだ。もしあたしが自分のファンだって知ったら失望される。憧れの人に失望されるのは嫌だ。だからあたしはリュウセイに興味ないふりをする。だけどリュウセイの真剣な横顔や距離を意識するたび心が弾むのをやめられなかった。
◆◆◆
「ーーちょっとぉ〜、カレン!最近めっちゃ調子良くない〜??」
週末、いつものレンタルスタジオ。一曲弾き終えた瞬間、ドラム担当のユメが両手でドラムスティックを振り回しながらハイテンションに話しかけてきた。
「あの、、!なにが変わったか解らないけど最高だよぉ〜」
ベースのナギも一度手を止めて頷く。
「うん、なんかアクが抜けた感じがする。それに急激にギターも歌も上手くなった。」
メンバーからの賞賛に恥ずかしくなったあたしはギターをいじりながらボソボソ答える。
「実はさ、、最近アイツに直接アドバイス受けてるんだよね、、、。勿論!あたし達のメジャーデビューのためだし!」
あたしの言葉にユメの地獄耳が反応した。頬を両手で挟んでハートを散らしながら黄色い声をあげてきゃぴきゃぴとナギの近くに寄った。
「アイツってリュウセイくんのことでしょ〜!!ねぇ〜ナギ聞いてよ。リュウセイくんっていうのはこの前のラブリードールのシフトでうちのお店来たお客さんでね、、それでねカレンと連絡先交換したんだよぉ〜♡」
「…。そうなんだ、そのリュウセイがカレンの音楽変えたんだ。あーこの前ももしかしてリュウセイにメリハリ教えてもらった??」
ナギはベースをいじりながら淡々と返す。ユメはあたしの顔を覗き込んであざとく首を傾げてニンマリ笑った。
「ねぇ〜カレン。リュウセイくんに教えてもらってどんどん上達したのはわかったけどさぁ〜…
それって本当に音楽だけっ?恋しちゃったとか…♡」
「っっは?? こ、恋じゃねーし憧れだし!全然恋とかじゃねーから!!」
あたしとユメの応酬をぼんやり見てたナギはのんびり移動してドアに手をかけながら言った。
「曲がよくなるならあたしはなんでもいいけど、、カレンが落ち着くまでちょっとニコチン補給してきていい??」
「ナギさんまたタバコ〜??」
ギャンギャン騒がしいスタジオの中であたしは熱くなった自分の頬を叩いた。
恋なんかじゃない。絶対違う。これはあの人の圧倒的な才能に憧れてるだけ。
…そう自分に言い聞かせれば言い聞かせれるほどLIMEなどで知ってしまったリュウセイの意外な一面やギターを弾く綺麗な横顔が頭から離れなくなる。
ファンだと知られるのが嫌なのか憧れに恋してしまっているのが嫌なのかあたしにはわからなかった。
◆◆◆
夜の華夢町近くの住宅地。黒いキャップにマスクをしたリュウセイがギターケースを背負った少女とマンションに消えていく。
近くの電柱から最新のスマホのレンズが覗く。
ーパシャリー
「S級スクープゲット〜」




