再会のラブソング
「…カレン、昨日なんかあった??」
バンドのベース担当のナギがベースを弾く手を止めて聞いた。
「は!??なんで」
「なんか歌い方とギターの弾き方変わった、、前は怒鳴るように歌ってたのにメリハリがついてる、、」
鋭い、、
「ちょっと変えてみただけだし!!なんか悪いわけ??」
「ふ〜ん、変えてみただけねぇ〜」
今まで興味なさそうに鏡で自分の顔を見てたドラム担当のユメがにやにやしながら会話に入ってきた。
「昨日の飲み会で王子様に出会っちゃった??その人に影響されたんじゃなぁ〜い??」
「は!?出会ってねぇ〜し!てきとーなこと言うなし!!」
あたしが男に着いてったのだって相手がリュウセイだったからだ。本人の前では知らないフリしちゃったけど、あたしがデビューした時から追いかけてる憧れの人だし。だけど恥ずかしいしキャラじゃないし、こんなことコイツらに言えない。てか男の家行ったことも言えない。
あたしとユメがぎゃーぎゃー言い合っていると、ナギが手を叩いた。
「はいはい、練習進まないからその辺にしといて。別にカレンが男作っても全然いいけど、バンド疎かにしないで」
「だ…っから男じゃねーし!」
憧れの人で恋とかじゃねーし、と心の中で付け加えてそう言い返すと、ナギはいつもの冷静な目でじっとあたしを見つめた。
まるであたしが朝帰りしたことを見抜いてるような目だったから、何もやましいことはないのに何故かドキリとした。
だけどナギはすぐに、
「あ、タバコ、、、」
と興味を失ったように言って、ふらっと外に出て行ってしまった。
◆◆◆
それから数日経った。
「マイちゃん。今日VIPのお客様いらっしゃるからよろしくね。」
華夢町のビルの地下にあるコンカフェ『ラブリードール』。店内は薄暗くてピンクの照明と女の子たちの作った可愛らしい声、それから酒の入って気の大きくなった男の声が響きわたっている。
あたしは[♡十マイ十♡]と書かれた名札をミニ丈メイド服の胸元につけ、VIPルームに向かった。今日のVIPの客はとある芸能事務所の社長らしい。
中に入ると、高く見えるスーツを着た男たちが他のキャストと談笑していた。
「失礼しまーす!素敵なお兄さんたちにピッタリなかっこいいもの持ってきちゃいっ……ましたぁ〜♡」
「マイちゃんどうかしたのカナ??」なんて言うおじさんに「なんでもないですよー噛んじゃった♡」なんて答えながら、入ってきた時に見えた知ってる顔をチラッと見た。
少し長い黒髪と端正な顔立ち。やっぱり間違いじゃない。リュウセイだ。
高そうなスーツを着せられて、群がる女の子たちにこの前の飲み会でも見た作った笑顔を振り撒いている。あいつまた客寄せパンダやらされてんだ、不憫な奴、と考えていると、リュウセイがこっちを見て目を見開いた。
やばい、話しかけられる前に逃げよう。
「マイはこれで失礼します!しゃちょ〜さんも楽しんでください!」
引き攣った笑顔のままお辞儀をして、VIPルームの扉を閉めた。
廊下に出てはぁーと大きく息を吐きながらカウンターに戻ると、同じように客にドリンクを運び終わって戻ってきたユメが、にこりと笑いながら話しかけてきた。
「あ〜カレン乙女の顔になってる♡なんかあったの〜??」
「は!?なんでもないし。…乙女の顔とか意味わかんないし!!」
「ふふふ、乙女の顔は乙女の顔だよ、、、」
ユメからの尋問に必死に抵抗していたら、背後に人の気配を感じた。
「お、はっけーん」
後ろを振り返ると、ヘラヘラ笑いながらあたしの顔を覗き込んできた。
「お前カレンだよな?ん?[♡十マイ十♡]……お前カレンじゃないの??」
「………っカレンじゃねーし!大声でカレンカレンって連呼すんな!」
咄嗟に言い返したものの、大声で言ってしまった気がして周囲の客やキャストに聞こえてないか焦ってヒヤヒヤしながら周りを見回した。
幸い、ちょうど常連さんが推しキャストにタワーを捧げたところで盛り上がっていて、あたしたちに注目する人はいなかった。
「え、でもカレンだよな??顔も声もカレンまんまだし、、、」
「……っここではマイだから!!」
「は??マイ?カレンじゃないの?」
全く折れないリュウセイをどうしようかと考えていると、横で楽しそうににこにこ笑ってたユメがリュウセイのおでこを指でツンと突いた。
「おにぃさん!ここでは本名で呼んじゃダメなんです!!『マイちゃん』って呼ばないと、それがルールなんですぅ〜♡」
そう言ってユメはぱちりとかわいくウィンクをした。
「…あー、りょーかい。そういうルールね」
リュウセイは納得したように1人でうんうん頷いた。そしてあたしの名札をみつめて言った。
「じゃーまた後で会おうね。マイちゃん」
「後でなんかないから!」と言う前に、リュウセイはVIPの部屋に戻って行った。
数時間後、ユメとあたしはシフトが終わり、従業員用の裏口から外に出た。
はー今日は疲れた、と一息ついたのも束の間――。
「あ、出てきた。待ってたよマイちゃん」
ビルの壁に寄りかかってスマホをいじっていたリュウセイが顔を上げた。そしてこっちに向かってくると、あたしの手から携帯を取り上げた。
「ちょっと何すんだよ!ケータイ返せ!!」
「連絡先交換したからよろしく〜」
そう言ってスマホを私に返した。
「何勝手に登録してんだよ、ふざけんな!!」
あたしがリュウセイに吠えてると、隣で一部始終を見ていたユメが笑いながら言った。
「カレンが押されてる〜リュウセイさんつよ〜い」
「押されてないから!!」
「はいはい〜……って言うか、リュウセイさんでしょ?カレンを乙女にして影響与えた王子様って!」
「違うしー!!舐めんな!」
華夢町のビルの路地裏にあたしの声が響いた。
リュウセイとユメと分かれて家に帰る途中、新しい友達からメッセージがきた。
(今日は会えて嬉しかったよマイちゃん♡次いつ家くる??)
軽すぎるメールにあたしは、
(は?店の外でマイちゃんって呼ぶな、うざー)
と返信した。
もう一回きりの楽しい時間だったはずなのに、再会してしまった夜からあたしのLIMEにはリュウセイからの通知がたくさんくるようになった。




