初めましてのラブソング
男の大きい声と女たちの甲高い声が耳障りだ。レコード会社の重役がくると聞いたから来たのに騙された。こんなことならユメ達と練習すれば良かったな。そんなことを考えながら氷が溶けて薄くなったソフトドリンクを口に運んでいると遠くに座ってるはずの男と目が合った。キモいじじいが女にちやほやされるための客寄せパンダの顔のいい男だ。
「カレンちゃん楽しんでる??全然呑んでないじゃん!ダメだよ、こういう場では呑まないと!」
酒くさい、てか未成年に酒勧めんなよくそじじい
「すみません。バンドメンバーに呼ばれちゃったあたし帰ります。」
咄嗟に嘘をついて店を飛び出した。
「カレンちゃん、もう帰っちゃうの〜?」
なんて遠くから聞こえたけど無視した。ギターケースを背負って店を出て少し先の路地裏に入って叫んだ。
「キモいんだよジジイ!!!!」
そして地面を転がっていた空き缶を蹴りながら呟いた。
「あんな時間無駄にするならもっと歌とギターの練習したいし作曲の勉強したい」
音楽で食べれるようになりたい。生活のために今働いてるコンカフェだって辞めたい。他の職場みたいに自分を殺さなくてもキャラとして受けて入れられるのは楽だけどやっぱり求められて演じるのは苦手だ。だからギターと歌を磨いて、自分の音で生きていけるようになりたい。
「俺が教えてやろーか?」
「あんたさっきの、、」
背後から男の声がした。振り返るとさっきの客寄せパンダがいた。
「一応そこそこ有名人なはずなんだけどな、、
俺、リュウセイ。俺が教えてやろうか??音楽。」
「ふーん。自信満々じゃんそんな上手なんだ。じゃー教えてよ。そしてあたしをメジャーデビューさせてみせろし。」
「勝ち気だな。でも気に入った家来いよ。ギターの練習から曲作りまでみてやるよ。」
何故か楽しそうにリュウセイはそう言った。リュウセイの家はここから少し離れたところにあるらしい、、なんでもずっと賑やかだと疲れてしまうき1人で静かにリラックスできる場所も大事なんだと。しばらく歩いてリュウセイが入って行ったのは高級住宅地に立っているタワーマンションだった。
「でっっっか、、、あんた売れっ子って本当だったんだな」
「信じてなかったのかよ。まーあとここ俺の親がオーナーだから」
リュウセイの部屋はそこの最上階の一室でただ広い空間にギターとスピーカーそしてベッドと机があるだけだった。
「自由に弾いてみなよ。」
「わかった。」
ギターケースからビビットピンクのギターを出して足元に置いてあったアンプのボリュームを0にしてからシールドで繋いで電源を入れて音量を上げた。ギターの弦を思いっきり掻き鳴らして、居酒屋での不快な気持ち、コンカフェで人が望む自分を演じることへの不満などをぶつけるように歌った。
リュウセイをみるとリュウセイは今までのどこか薄っぺらい笑顔を消して真剣な顔に変わっていた。そしてリュウセイも自分のギターを取り出してアンプに繋いで音量を上げてあたしのギターと歌に被せるように同じ曲を引いた。
一度聞いただけであたしのコードと旋律を拾って圧倒的なテクニックと技術で被せてくる。リュウセイの音は聞いていて心が動く。
「ちょっとストップ。」
「…は?なんで?音外してないしコードもミスってないじゃん」
「お前もなんかしっくり来てなさそうじゃん」
そう。なんかしっくり来ない。あたしはミスしてないしいつも通り自分を認めるために自分を主張するために歌った。リュウセイだって主張はしてただけどリュウセイの音と何故か全然違う。
「お前は指も動いてるし、声だって出てる。技術だって悪くない。だけど感情的になりすぎ。」
「確かに怒鳴るように歌ってたかも。だけど感情を叩きつけて自分を証明したいんだよ。」
「音楽で自分を証明するのは悪くないだけど今のお前の歌い方ずっと殴り付けてるみたいなんだよ。ずっと殴られてたらくどくなってくるだろ。お前の1番叫びたいところはどこだよ。それまでは1回息を殺すように歌って1番主張したい叫びたいところで全力で殴り付けろ。その方が観客にもこいつはこれが言いたんだって伝わる。」
「…確かに。あたしもなんかイマイチ伝わらないと思ってたありがとう。」
やっぱリュウセイが売れっ子て本当なんだ。自分でもよくわからなかったのこんな上手に言語化してくれるとか最高じゃん。
「じゃあもう一回今度はメリハリつけてやってみろよ。」
さっきリュウセイに指摘されたことをもう一回思い出す。自分が本当に叫びたいところ以外は押し殺すように、、そして自分が主張したいところで全力で!!
息を潜め感情を抑え込むような静寂からサビで一転させ爆発させる。部屋にあたしの声が今までよりもより鮮明に響き渡った。
「------、ーーーー!!」
ギターを弾きながらリュウセイの顔をみるとリュウセイは目を見張って笑いながら言った。
「そう!それだよ。お前飲み込みいいじゃん。今度は一緒にやるぞ!」
言葉なんて必要ない。今あたし達の間にあるのは音楽だけ。なんだか楽しくなってあたし達は時間を忘れて音楽で語り合い続けた。
気がつくと窓から朝日がさしていて朝になっていた。あたしは指の皮が剥けていたしリュウセイは声がガラガラになっていた。
「「………………!!」」
最後のコードを弾き終わって2人で笑い合ってリュウセイはあたしに言った。
「お前ほんと最高。昔思い出したわ。お前名前は??」
「カレン。」
アンプの電源を落としてギターケースにギターをしまいながら答える。そしてギターケースを背負ってにやりと笑いながらドアに手をかけて言った。
「ほんとに最高だった。ありがと」
マンションを出て朝日を浴びる。この最高で夢のような夜を一生忘れない。この学びを生かさないと今日の夜さっそくユメとナギを呼んで練習しよう。




