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MRL  作者: 化琉壮一


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8/9

オルタビア:管理センター:1024F

『ここはフロア1024です』

そう書かれた、案内板を見て俺はため息をついた。

「余計に目的地から遠のいてないか?あとどれくらいフロアを上がればいいんだAlpha?」

「このフロア。フロア1024に情報管理棟との接続点があります。図面を確認すると情報棟へは、高層からしか入れないように設計されていました。そしてこのフロア1024が情報棟へつながる最下層の接続点です」

「何でこんなにも非効率な方法をとってるんだ?」

「機密情報などを守るためだと思われます。高層からしかアクセスできなくすることによって、入口を狭めようとした可能性があります」

 歩くにつれて通路は徐々に変化していた。上層のエントランス付近と比べ、他のビルから伸びる回廊との接続点はほとんど姿を消している。センター内の分岐も減り、ただ一本の通路だけが前方へと伸びていた。

 先ほどまでところどころで露出していた配線は完全に姿を消し、壁面は継ぎ目の見えないほどの滑らかな装甲のようなものへと変わっていた。床に使われている素材も明らかに別物だった。踏みしめるたびに、これまでのような軽い反響はなく、重厚感のある、鈍い感触だけが足裏に返ってくる。

「……ここから先が情報棟か」

「はい。情報棟には、オルタビアのデータがすべて保管されていました。なのでセキュリティーレベルも都市一高い場所でした」

 情報棟とのアクセスポイントに近づくにつれ周囲の空気すら違ってきているように思えた。これまで感じていたわずかな埃っぽさや湿気が消え、代わりに無機質で乾いた空気が満ちていた。それはまるで、長い間誰にも開けられることのなかった場所得向かっているようだった。

 やがて、視界の端で情報棟とのアクセスポイントを捉えた。

 通路を完全に塞ぐ形で設置された、大型のゲート。左右の壁と一体化するように埋め込まれたその構造物は、単なるゲートというよりも検問所に近い印象を与えていた。その上部に、薄く印字された文字。

『情報棟:アクセスポイント1024A』

 足を止める。そして、俺は自然とゲートを見つめていた。本来であれば、ここには複数の対人、対物センサーとホログラムによる遮断フィールドが展開されていたはずだ。

 人や物資の通行は厳密に管理され、許可のないものは一歩たりとも情報棟へと足を運ぶことが許されなかった。

 だが――今では、そのすべては機能を失っている。

 ゲート中央、本来なら遮断フィールドの放つ幾何学的な光で満たされているはずの空間には、今や何もない。本来のものが満たされていない空間にはただ、空気だけがその場を満たし続けていた。

「機構は完全に停止してるな」

「そうですね。核融合炉からの電力供給が断たれているため、認証システムは機能していません」

「皮肉なもんだな。物質一つすら通さないようなあれだけ厳重だった場所が、今じゃただの通路に化すのか」

 一歩、近づく。そしてゲートのフレームに手を置いた。手のひらにはダイレクトに金属の冷たさが伝わってきた。だが、それは完全に死んだ金属の冷たさではなかった。わずかに、内部に何かが残っているような――そんな曖昧な感触だ。

「Alpha、このゲートを超えたら情報棟なんだよな」

「はい。このゲートを越えた先が、この都市、オルタビアの情報管理区画になります」

「……なるほどな」

 小さく息を吐く。ここまでの空間とは明らかに違う。ただの管理センターでも、都市の施設でもない。この先に待っているものは、都市の中枢そのものだ。

 一瞬だけ、立ち止まる。振り返れば、これまで通ってきた通路が真っ直ぐに伸びている。崩壊した都市、空の回廊、風に晒された世界のある方向…

 ――ゲートで隔てられたこの先は今までとは違う。

 まだシステムが機能している可能性のある唯一の場所。まだ何かが残っている場所。視線を前に戻す。何もないはずのゲート中央が、今では別の世界へと繋がる門のように見えた。まるで、本来は越えることを許されない境界線を、無理やり通過しようとしているかのように。

「……行くぞ」

 自分を鼓舞するために一人そう呟き、一歩を踏み出す。何の抵抗もなく、体はその空間を通り抜けた。何もないはずなのに――

 一瞬だけ、皮膚の表面をなぞるような微かな違和感が走る。

 ただ、そう感じたのは一瞬だけだった。そして振り返る。ゲートは沈黙したまま、そこにある。あっちへ今、戻る理由も必要もない。前を向きなおした。その先に続く通路は、これまで以上に静かで、整然としていた。

 ここから先が、本当の意味での――情報棟の内部だった。

「こっから目的の階に降りるのか?」

「そうですね。推定到達時間は2時間30分ほどです」

「まだそんなにあるのか…」

 小さく息を吐き、先へ進む。情報棟の通路は静かで、歩いても物音一つさえしないほどだった。俺は、Alphaの案内に従って、複数に分岐する通路を歩いて行った。情報棟の内部も一つの迷宮のようになっていてAlpha無しでは到底辿り着けそうになかった。棟の内部に進んでいくにつれて電力網は安定を取り戻していっていた。外部では点滅を繰り返していたライトも、ここでは明かりを保ちながら光り続けていた。

「管理センター全体の電力を支えれなくても、一部だけなら稼働させられるのか。外壁についている太陽光パネルもばかにならないな」

「管理センターに使われている太陽光パネルを分析してみたところ、あのパネル一つで、大容量バッテリー200本分を一日で生産できることが分かっています」

「じゃあ、その大量の電力は、全部サーバー維持に使われているのか?」

「恐らくそうだと思われます。想定されるだけでもここ数十年のデータが蓄積されているはずです。もしかしたら、現在も記録を続けているかもしれません」

 そして、俺はエレベーターホールへとたどり着いた。辺りの電力がついていたためエレベーターが動いている可能性もあったが、案の定エレベーターには既に電力が届いていなかった。そしてルートを確認し直してみると、案内の矢印はエレベーターホールではなくその隣の扉へと伸びていた。

「この先って何があるんだ?」

「この扉を開けると非常階段があります。元々は、避難用やエレベーターメンテナンス中の一時凌ぎなどの用途で用意されていましたが、今ではこの階段以外で下層にアクセスする手段はありません」

「つまりは今がその非常時だってことか…」

 そう言い、手に力をかけ扉を押し開ける。外の世界と違って、錆びはついてなく力をかけることなく扉は開閉できた。扉の向こうには、エレベーターホールを取り囲むように作られた非常階段があった。

 

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