オルタビア:管理センター:856F
一歩、また一歩と内部へと足を踏み入れた。一歩進む度に外の光が、段々と細くなっていき、最終的には完全な暗闇へと変わった。俺は、コンタクトのナイトビジョンに頼りながら先へと進んでいった。
「回廊とかとは違って、劣化が見られないな…」
「最後まで維持されていた建物の一つであると推察できます。場合によっては今でも一部の機能は維持され続けている可能性もあります」
管理センターの奥へと向かうにつれ、外で力強く吹いていた風の音は聞こえなくなっていった。だがそれと同時に何かの低い駆動音が聞こえてくるようになった。
「……稼働音か?」
「はい。極めて低出力ですが、内部システムの一部が動作している可能性が高いです」
ナイトビジョンは快調で、外と遜色ない明るさで暗闇の中を見ることができた。建物の壁に一本の光の線が走っていた。断続的に明滅するそれは、まるでこの建物がまだ辛うじて生きていることを主張しているかのようだった。
足を進める。改めて見てみても、この場所は異常だと言っていいほど床にも壁にも損傷があった。埃は他の場所と変わらず薄く積もっているが、建物自体の崩落や腐食の痕跡は一切見当たらない。この場所を歩いていると崩壊する前の都市を歩いている気分になった。
そうやって歩いているうちにエントランスらしき広い空間に出た。天井は高く、上層へと続く吹き抜け構造。中央には、かつて案内表示か何かに使われていたであろうホログラム式の情報パネルの投影台が設置されているが、今では沈黙しきっていた。
「Alpha、内部構造の把握は?」
「一部のマップデータが残存しています。ですが、一部は更新が途絶えています。リアルタイムでの補完が必要になります」
「了解。情報棟内のナビは任せる」
「はい」
視界の前方にホログラムで投影された管理センターが映し出された。そして管理センターの内部へと拡大されて行って現在位置が映し出された。モデルに蒼い線が描かれて行くと同時に、目の前にも経路を示す矢印が出現していった。
「この経路はいったいどこへ続いているんだ?」
モデル上の経路は上下を繰り返しながら蒼い軌跡は最終的にセンターの中央部へと伸びていた。
「情報管理セクションのフロア546にあるデータサーバーセンターへの経路を設定しました。ここだとオルタビアのログが今でも保管されている可能性があります」
「中層から、管理センターに入った方が良かったんじゃないか?」
Alphaは間髪入れずに回答した。
「中層の回廊は半分以上が崩落していました。更に気象条件が上層に比べてよくないため、想定外の腐食が進行している恐れがあります」
「そうだったのか…分かった」
俺は、ルートを確認するためにモデルに描かれた蒼い線を詳しく見た。その途中で、わずかに途切れている箇所が複数あった。
「……案内は完全じゃないのか」
「はい。一部区画の情報は欠如していました」
「つまり、行くまではその先は分からないのか」
返答はない。だが、それで十分だった。案内に沿って俺はまた歩き出した…




