オルタビア:商業ビル屋上
扉を開けたその瞬間、強い光が視界を満たした。思わず目を細める。長いあいだ薄暗い商業ビルを歩き続けていたせいか、構想にある屋上の太陽光は鋭く、現実感を伴って網膜に焼き付いてくる。
ゆっくりと目を慣らしながら、一歩、屋上へと踏み出した。乾いた涼しい風が吹いていた。
下層では感じられなかった、風の感覚。そして日差し。冷たく乾いた風が、建物の縁をなぞるようにして抜けていく。服の端が揺れ、髪がわずかに乱れる。その感覚だけで、自分がようやく『外』に辿り着いたのだと実感できた。
空を見上げる。空は晴れ上がっていて、太陽光は直接降り注いでいた。辺りには圧迫するような高層ビル群は無く数本のビルだけが雲を突き抜け柱のように伸びていた。その風景は雲の海に浮かぶ空中都市だった。
視線を落とし、周囲を見渡す。たどり着いた屋上は荒れ果てていた。機械の残骸、倒れた設備、風に晒され続けた痕跡がそこら中に刻まれている。だがそれらは完全に崩壊しているわけではない。むしろ、この高さで、過酷な環境で識別可能なほど原形を保っていることは珍しかった。
そして――その先。俺は、思わず足を止めた。間引かれたビル群の先から都市の中心が、見えた。数本のビルが、整列するかのように一点へ向かって並び立っている。
高層に設置された数本の空中回廊は複雑に絡み合いながらも、最終的にはすべて同じ方向へと収束していた。分岐し、迂回し、ねじれながらも、確実にとある一点へと導かれている。
この街のすべてがある中央セクターの情報棟。それは他のどの建造物とも違っていた。ただ高いだけではない。宇宙エレベーターのように縦に貫かれた情報棟は周囲の構造物を圧倒するような質量と存在感を持っていた。幾層もの外殻に覆われたその塔は、まるで都市のすべてを管理する中枢のように、静かに、しかし絶対的にそこに在り続けている。
外壁には巨大な太陽光パネル群が並び、太陽光を反射していた。そして時折頂上のランプが点滅する。完全に停止しているわけではない。むしろ、最低限の機能だけを維持したまま、長い時間を耐え続けているように見える。
すべての回廊は、あそこへ繋がっている。それは偶然ではない。この都市は最初から、あの塔を中心に放射状に設計されている。
コンタクトレンズの表示が、視界の中で静かに更新される。これまで足元をなぞっていたルートは、今や空間全体を俯瞰するように変化し、無数の通路の中から一本の最適解を浮かび上がらせていた。線は足元から伸び一つの空中通路へと続き、街に絵を描くように中央へと案内の直線は伸びていった。目的地は、明確だった。
――目的地は目の前の情報棟。
あそこに行けば、何かわかる。この都市に何が起きたのか。どのようにして崩壊したのか。
そして――人はどこへ向かったのか。
風が、再び強く吹き抜ける。屋上の端へと歩み寄り、下を覗き込む。遥か下方、幾重にも重なる回廊と街路。そのすべてが、巨大な流れの一部のように中央へと向かっているのがわかる。
視線を上げた。情報棟は、沈黙したままそこにあった。
「目的地はあそこです。残距離、残り10キロ。想定時間4時間…」
Alphaが淡々とそう告げる。そして俺は、低層へと続く階段を下りて行った…




