カステル都市群:アルテア:カステル都市群総合原子研究所:データセンター
地下へ続く階段を下り始めると、研究所内部の様子は次第に変化していった。入り口付近では辛うじて原形を保っていた機材も、下層へ行くにつれてその状態は悪化して行っていた。
壁面に設置されていた情報モニターは粉々に砕け散り、照明設備は天井ごと落下している。床には実験室と廊下を隔てる高耐久ガラスのガラス片と壁面の焦げた配線が無数に散乱し、研究設備だったと思われる大型装置は内部からの強力な力を受けたのだろうか、内側から破裂するように壊れていた。
それらを横に見ながら、さらに下層にあるデーターセンターへと進み続けた。
下層に近づくにつれ、辺りの見た目は変化していった。壁には黒く焼け焦げた痕跡が無数に残されている。しかし不思議なことに、それらは爆発の中心から放射状に広がって出来るようなものでは無かった。
その焼け跡の形状は稲光のように分岐し方向を変えながら走っていた。
「……何が起きていたんだ?」
「高エネルギー放電による痕跡と推定できます。しかし、通常の電気設備事故ではここまでの破壊は不可能だと思われます」
ここでは何かが起きた結果、高エネルギーの放電が発生し、施設を破壊した挙句に、都市を壊滅に追いやった。
「ますます何が起きていたか分からなくなってきたな…」
そんな言葉を発しながら俺は、廊下の先へと進む。焼け落ちた看板の目印を、残された文明の残滓を頼りにさらに奥へと進んでいった。
しばらく進んだところで、俺は廊下の脇に設置されていた案内パネルを見つけた。電光掲示板は闇の中へその明かりを落としていたが、下に残されていた非常用の蓄光案内だけは辛うじて読むことができた。
俺は付着した埃を払い落とし内容を確認した。
『情報管理センター・原子加速器:B7F』
そして、現在地を示す表示はB6Fを指していた。
「あと一階か……」
俺は小さく呟き再度足を動かした。だが、下層へ続く階段の前まで来た瞬間、足が止まった。階段そのものが一部を除き完全に崩落していた。
鉄筋コンクリート製だったはずの階段は、何かによって完全に破壊され階段としての意味を成していなかった。
さらに、その周囲にはこれまで見てきた焼け跡よりもはるかに黒く濃いの痕跡が残されている。そして壁面には稲妻のような焼け跡が幾重にも刻まれていた。
「……事故の発生地点に近づいてるのか」
「可能性は高いと思われます。この先にあるのは原子加速器です。内容によっては事故が起こる可能性のある機器です」
俺は崩れた手すりを掴み、慎重に下層へ降りていった。一段降りるごとに空気が変わっていく。
やがて階段を下り切った先に、巨大な防火扉が姿を現した。扉の上部には、プレートがありそれはかろうじて文字を留めていた。
『中央情報管理センター・原子加速器制御室』
中に入ろうとしたが俺は思わず足を止めた。そしてセンターの外壁を注意深く見た。その外装には、これまで見てきた研究所の設備のような損傷がほとんど見当たらなかった。
「……外壁の素材は重コンクリートか。いやそれに他の物も混ぜているのか?あれだけの事故でも、傷一つ残さないのか……」
壁面は分厚い灰色の重コンクリートとの混合物で構成されていた。その表面には高熱によって生じた黒い煤と焼損痕が幾重にも刻まれている。
だが、それだけだった。高熱によるひび割れ一つも見当たらなかった。コンクリートはまるで何事もなかったかのように、その形を保ち続けている。
周囲の壁や設備が無残に破壊されていた。なのにこの場はその形を一切帰ることなく佇んでいる。
「まるで……ここだけが事故から守られていたみたいだな」
「重コンクリートの高耐久性と思われます。また、高エネルギー粒子実験に備え、通常施設の数倍の強度を持たせていた可能性があります」
俺は小さく頷き、扉へと視線を向けた。電子ロックはとうの昔に機能を失っている。だが、扉そのものは閉じられておらず、わずかに隙間が開いていた。そして慎重に扉へ手を掛ける。
重い金属音が静寂を貫く研究所に響いた。扉はゆっくりと開かれ、その先の光景を露わにした。俺はその光景に、思わず息を呑んだ。




