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MRL  作者: 化琉壮一
第四章:カステル都市群

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カステル都市群:カステル:中央駅

 数時間走ったころ、視界の遠くに光を捉えた。その光は、上にある太陽光を反射しているような明るさで、光っていた。

「Alpha、この先って何があるんだ?多分あれ人工物だと思うんだが…」

 Alphaは少し沈黙した後に答えた。

「付近の様子から、現在位置を算出しました。現在カステル都市群付近です。この先にも一定規模の都市がいまだに残っていると思われます」

「この、峡谷になっていなければな……」

 俺は眼下に広がる巨大な裂け目を再度見下ろした。変わることなくどこまでも続く赤茶けた断崖。地平線の先まで伸びる巨大な峡谷。

 ここには複数の都市がつながるようにあってそれぞれの間には太い道路網があり、送電網があり、人が行き来していた。

 そんな都市でさえこの峡谷が呑み込んでしまった。道路も都市も…そのほとんどを。

 そして5分と経たないうちに、その都市群にたどり着いた。そして、俺は息を呑んだ。眼前に広がる光景は確かに都市そのものだった。だが、視界の中央には、都市を二分するように峡谷があり都市を消していた。辛うじて残っている左右の建築物たちも、そのほとんどの窓ガラスは粉々に砕けていた。

「ここで何があったんだ?いや、この先で何かがあったのか…」

「峡谷の方向にある、建築物を検索中です…」

 Alphaはそう言い再度沈黙した。 俺は都市の中を歩きながら、Alphaの応答を待ち続けた。

 付近から聞こえるのは風の音だけだった。廃れたビル群の隙間を吹き抜ける風が、割れた窓枠や剥き出しになった鉄骨を震わせ、不気味な音を奏でていた。

 人の気配も車両の走る音も、発電機の駆動音すらも聞こえない。都市にいるはずなのに音は自然の音しか響かなかった。

 他の都市とは違った静寂がここにはあった。しばらく幹線道路沿いを歩いていると、不意に視界が開けた。そこにあったのは巨大な鉄道駅だった。

「……相当な規模の駅だな…」

 思わずそう呟いた。駅舎は半壊していた。ガラス張りだったはずの天井は崩れ落ち、ホームには砂塵と瓦礫が堆積している。その砂塵を照らすかのように太陽の明かりは直接差し込んでいた。整備が止まった線路は所々で歪み、錆び付き、草木に呑まれ始めていた。

 それでもなお、この駅がかつて持っていた規模と迫力は健在だった。

 元々、この地域の都市そのものはそれほど大きくなかった。一つ一つは地方都市程度の規模しかない。だが、それらは巨大な高速鉄道網と幹線道路網によって緊密に結び付けられていた。都市と都市の間では昼夜を問わず人が行き交い、物資が流れ、膨大な電力が送られていた。

 やがて人々は行政区画としての都市名こそ使うものの、それぞれを別の街として認識しなくなっていった。通勤のために三つ隣の都市へ向かい、休日には反対側の都市群で買い物をする。そんな生活が当たり前になっていた。

 そうして複数の都市は境界を曖昧にしながら融合し、一つの巨大な都市圏へと変貌していった。

 かつて「カステル都市群」と呼ばれたその地域には、数千万規模の人口が暮らしていたという。今では、その面影すら残っていなかったが…

 そしてこの駅は、それらの都市を結ぶ鉄道の中央駅だったのだろう。だが、今ではホームに列車は一両たりとも存在しない。

 発車案内を表示する電光掲示板も沈黙していた。

 改札は錆び付き、自動販売機はその場で立ち尽くし、掲示板は風雨にさらされ文字が読めなくなっていた。

 それでも、この場所を見れば瞼の裏ににその光景が浮かぶ。かつては数え切れないほどの人々がここを行き交っていたのだと。だが、その賑やかさはもう存在しない。

 駅の向こう側では、峡谷が都市を二分するようにあった。そして、駅から伸びている線路も、幹線道路も一部を除き、その闇に呑まれていた。

 俺はホームの端から線路に降り、途中で途切れた線路を見下ろした。錆び付いたレールはちょうど断崖の縁まで続き、その先は何もない。

 普通に動いていたその瞬間に起きたからなのだろう。下を覗き込むとその底に一両の列車が横たわっていた。

 その時だった。沈黙していたAlphaが口を開いた。

「検索結果を取得しました」

 俺は立ち止まる。

「お前が、こんなに熟考するなんて珍しいな。何かわかったのか?」

「はい。この峡谷の先端に存在していたであろう構造物をいくつかリストアップしました。この先この裂け目が数キロ続いていると仮定しての結果です」

 そう言い、視界に検索結果と付近の航空写真が映し出された。そこには複数の結果が記されていたがどれも発電所などの類だった。

 しかしその中に一つだけ他とは変わった場所の記述があった。

『カステル都市群総合原子研究所』

 俺はその、文を読みAlphaに

「研究所の実験でここまで被害出せるのか?研究所が一夜にして跡形もなくなった実験は確かに一度あったが、ここまではいかなかったはずだ」

 俺の知る限り、どれほど危険な実験や事故が起きたとしても、その被害は施設周辺に限定される。

 だが、この峡谷はそれとはわけが違う。都市一つが消えた、どころの話ではない。道路網も、送電網も、鉄道も、複数の都市そのものが大地ごと消し飛ばされている。研究所一つの事故で説明できる規模を、明らかに超えていた。

 Alphaは数秒の沈黙を置いてから答えた。

「現存する事故記録との照合結果においても、この被害規模は極めて異常です」

 視界に新たなデータが表示される。それは峡谷上空から撮影された崩壊前の航空写真だった。そこには今の荒廃した光景とはまるで違う世界が映っていた。

 高層ビル群、複雑に入り組んだ高架道路、そして都市間を結ぶ高速鉄道。これらの写真の上に現在の峡谷の写真が上乗せされる。その線は推定になりながらも一列に伸び続けていた。そして、その線は『カステル都市群総合原子研究所』へと一直線で結んでいた。それもあまりにもきれいなほどに…

「この峡谷は、ここからできたのか…Alpha、ルート案内を頼んだ。『カステル都市群総合原子研究所』までのルートを…」

 「ルートを再計算します」

 Alphaがそう言い、視界の端に青い案内線が表示される。

 そして俺は再び歩き始めた。


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