荒野地帯:元C-1:料金所:初夜
群青の空に満天の星々が広がる頃、峡谷の気温は日中の照り付けるような暑さが嘘のように急速に冷えていった。
砂漠型の気候によくみられる昼夜の急激な気温変化により日中のあの暑さが嘘のように急激に気温は下がっていく。溜め込んだ熱を完全に放出しきった岩盤からは冷気が立ち上り、乾燥した風が体温を容赦なく奪っていく。俺はバックパックから防寒用のシートを取り出し、首元まで深くくるまった。
背中に感じるねじ曲がった鉄骨は、夜の闇の中で冷たい巨大な墓標のように佇んでいる。
「周囲の気温が5度まで低下していることを確認しました。これ以上の低下に備え、シートの密閉率を維持し、断熱効率を高めることを推奨します」
視界の端で、Alphaの状態を表すステータス画面が小さく明滅していた。バッテリー残量は高残量を示す緑色のバーで満たされていた。電力があるというだけで、この極限の環境下でも不思議と安心感があった。
「Alpha。これだけ電気があるなら、電力使って火を起こしたりできないのか?」
そう呟いてみる。
「不可能です。この付近に燃焼させれる物質が見つかりませんでした」
俺は防寒シートを固く握りしめた。
「燃やせる物資すら見つからないのか」
苦笑気味に、
「これは…完全に死んだ土地だな」
サステルの、あの男の言葉が、再び脳裏をよぎる。
「サステル越えた先は、本当に何も無い…」
確かに、ここには何もなかった。水も、街も、かつての文明の面影すらも、すべてが存在していなかった。だが、電力という名の「目に見えない生存の命綱」だけは、満ち溢れていた。
「明日からは、本格的に水が問題になってくるな……」
喉の奥にある張り付くような渇きを意識しないようにしながら、俺は星空を見上げた。人工の光が一切ないこの場所の夜空は、恐ろしいほどに澄み切り、星々がきらびやかに光っていた。
「明朝の移動ルートを設定しています。明日は峡谷の傾斜が最も緩やかなポイントを進みます」
「分かった。……Alpha、明日朝になって日が昇ったら起こしてくれ」
「了解しました…」
風の唸り声が、峡谷の底で反響していた。それと同時に俺の頬を冷え切った風が優しく撫でた。明日からのことを考え無いようにしながら、俺は再度目を閉じた。




