サステル:西部市場2
並んでいる商品も統一感はない。軍用レーション。乾燥保存食。浄水剤。携帯燃料。手作りらしい燻製肉まである。
どれも高い。値札代わりに置かれている交換レートを見て、思わず眉をしかめた。
「……随分値張ってるな」
「サステル標準価格です」
Alphaが即答する。
「特に長距離移動向けの物資は価格が高騰しています。消費期限が長い食料品は依然と貴重です」
「だろうな……」
俺が棚を眺めていると、奥から店主らしき中年の男が出てきた。片腕が義手になっていた。
「何を探してる」
「長距離用の保存食と予備バッテリーだ。この先に行くには、ある程度まとまった量がいるんだ。後ついでにバッテリーの充電をしたい」
「そんな重装備でどこ行く気だ?」
「北の方だ」
その瞬間、店主の表情が少し変わった。
「……北、ね」
それ以上は聞いてこなかった。この街では、それぞれの人々について深入りしないのも一種の礼儀の作法なのかもしれない。店主は棚の奥からいくつかケースを取り出して並べる。
「高カロリー圧縮食…これなら水無しでも食える。こっちは探索者向け携帯食だ。あと中古だがバッテリーもある。充電は専用のスタンドがあるからそっちに行ってくれ」
机に並べられたバッテリーを見る。どれも傷だらけだった。メーカーもバラバラ。崩壊前の企業ロゴが擦れて読めなくなっているものもある。
「生きてるのか、これ」
「最低限はな。水準性能で動かせる保証はねえ。これでも質がいい方なんだ」
昨日聞いたのと同じ言葉だった。物資が全体的に不足している今、この世界では動くだけで価値になる。Alphaが小声で分析を入れる。
「右から二番目のバッテリーはこの中だと劣化率が比較的低い方です。推定残存性能68%。こちらの購入をお勧めします」
「このバッテリーで頼む」
店主は少し驚いた顔をして言った。
「見る目あるじゃねえか。この中だと最大の容量に加えて効率が一番いいんだよ。その代わり重いがな」
「旅の仲間が優秀なんだよ」
そう言いながら、バックパックから俺には必要ない遺物を取り出す。旧型センサー部品、劣化した記録媒体、未使用モジュールケース。
店主は一つずつ慎重に品定めでもするようにじっくりと確認していく。
「足りるか?」
「保存食七日分、浄水剤、バッテリー一個。それでどうだ」
「妥当だな」
取引は成立し、俺は物資を受け取ってバックパックへ詰め込む。背負う重量が一気に増した。だが、それが妙に安心感を与えてくる。生き延びるための重さだった。
店を出ようとしたその時――
「おい、お前」
後ろから声が飛ぶ。振り返ると、武装した探索者らしき男がこちらを見ていた。年齢は三十前後。肩には改造ライフルを提げている。
「その装備……山越えして来たのか?」
「だったら?」
男は少し眉をひそめた。
「もしA-12を使ってこっちに来てたとしたら、南側の橋どうなってたか分かるか?」
やはり気になっていたのだろう。
「半分崩れてた。あいにくは橋にやられるところだったよ」
「……やっぱりか」
男は小さく舌打ちする。
「今月だけで二つ目だぞ」
「他も落ちたのか?」
「この辺のインフラはもう寿命なんだよ。補修にも限界があるし、うちに技術者は一人だ。街の復興にも、人員が割かれていてこれ以上整備に人を割けない」
男は疲れたように笑った。
「それでも使わなきゃ街が死ぬから使うしかないんだがな」
その言葉に、この街の現実が詰まっていた。物流が止まれば終わる。だから人は、崩れかけた道路を今日も使い続ける。男は最後にこちらを見る。
「話を聞いちまって悪かったな。だが俺から一つ忠告だ。北へ行くなら気を付けろ。サステル越えた先は、本当に何も無い」
「……何も無い、か」
「この街みたいに補給も出来る都市がある保証もない。こっから先は本当の不明地帯なんだよ」
それだけ言うと、男は仲間の方へ戻っていった。俺は少しだけ空を見上げる。昨日いた山の尾根で風力発電機が、ゆっくり回っていた。
この街はまだ生きている…
だがその外側には、これまでと同じように死んだ都市群が広がっている。補給も、灯りも、人の営みも存在しない世界。
サステルは、その荒廃した世界の中に偶然残されていた小さな灯火に過ぎなかった。俺はバックパックを背負い直し、人混みの中を抜けながら祐の研究棟へ戻っていく。




