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MRL  作者: 化琉壮一
第二章:サステル

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23/25

サステル:西部市場

 朝、目を覚ますと物音がした。俺は一瞬身構えたがそれは杞憂だった。そして再度あたりを見た。祐は休んでいないのだろうか?座っている位置が変わっていないように思えた。

 俺は背を伸ばし、ベットから立ち上がった。祐は、

「よく眠れたか?アシストシューズはあと数時間くらいで補修が終わりそうだ」

祐はそう言い、机に向きなおした。そして、そのまま

「旅の物資は足りるのか?足りないなら今から調達してきたらどうだ?」

 俺は軽く身体を動かしてみる。昨日よりはましになっていたが、足の奥にはまだ鋭い痛みが残っていた。無理をすればすぐに再発する。そんな嫌な感覚だった。

「……保存食とバッテリーくらいは補充しておきたいな」

 そう呟きながら、壁際に置いていたバックパックを持ち上げる。中身の重量はかなり軽くなっていた。長距離移動を続けてきた以上、消耗は避けられない。そして、次にオルタビアのような都市がいつ見つかるかは分からなかった。

 祐は作業を続けたまま答える。

「この街なら必要な物資は最低限は揃う。旅人向けの市場もあるからな。だけどな…」

 そこで一度言葉を切る。

「足元見られるぞ。特に外から来た壮士のような旅人はな」

「それはどこの街でも同じだろ」

「ここは他とは違う。ここはまだ生きているんだ。だから物の価値には敏感なんだよ」

 祐は工具を回しながら苦笑した。

「水、電力、バッテリー、保存食。ここでは全部今日を生き抜くための資産だ。お前みたいな長距離移動の探索者は、金を持ってるか、珍しい遺物を持ってることが多いからな」

「……なるほどな」

 Alphaが補足する。

「現在の所持品を再確認します。交換価値の高い遺物は五点。予備バッテリー残量は42%。保存食は三日分です」

「少ないな……」

「セストレア方面を考慮すると、最低でも二週間分の行動物資が必要です」

「相変わらず無茶な距離を移動する前提で動いてるな」

「そうしないと辿り着けない」

 短く返し、俺は壁に立て掛けていた上着を羽織る。祐はふと思い出したように引き出しを開け、小型端末をこちらへ投げてきた。俺はそれをキャッチし機器を見た。

「持ってけ。サステル内限定のローカルマップだ。今でも動いてる店と危険区域が入ってる。これさえあればこの広大なサステル内でも迷うことは無いだろ」

 端末を受け取る。画面には簡易地図と複数のマークが表示されていた。

『交易区画』

『整備街区』

『中央市場』

『発電管理棟』

 思っていた以上に、街として機能しているのが分かった。

「……助かる」

「その代わり、変な揉め事は起こすなよ」

「善処する」

「お前の善処するは信用ならねえんだよ。というか何で善処なんだよ。確定すればいいじゃないか」

 祐は呆れたように笑った。俺は小さく肩を竦め、そのまま外へ出る。研究区画の外では、朝の冷たい風が吹いていた。サステルの朝は早い。

 既に道路では複数の運搬車両が動き始めている。補修途中の高架では作業員たちが溶接を行い、火花が散っていた。遠くでは、風力発電機群が低い駆動音を響かせ続けている。

 人々は皆忙しそうに動いていた。崩壊前のような余裕はない。人々は一日一日を終えるのに必死だった。だが、それでもこの街には確かに朝は存在していた。

 俺は市場区画へ向かって歩き始める。通りへ近づくにつれ、徐々に人の声が増えていく。

「発電モジュール向けのケーブル入荷したぞー」

「保存水残り六ケース。早い者勝ちだぞ」

 そんな怒鳴り声が飛び交う。市場区画は、廃ビル群の一階部分をそのまま利用して作られていた。崩れた外壁には鉄板が打ち付けられ、即席の看板や配線が無秩序に並んでいる。だが活気はあった。

 工具を並べる店。弾薬や銃器を扱う店。電子部品を売る露店。保存食を積み上げた屋台。そして何より、人がいた。

 探索者、技術者、運搬屋、武装した護衛。様々な人間が、この街を中継地点として生きている。

「……妙な感じだな」

 思わず呟く。廃墟の中で、人だけが昔の市場みたいに動いている。

「崩壊前文明の残骸を再利用した自治経済圏ですね」

 Alphaが淡々と言う。

「現在のサステル人口は街の規模を見た感じだと推定二万三千人。交易による流入人口を含めると、更に増加しているかと思われます」

「百万都市からそこまで減ったのか……」

「それでもこの地域では最大規模の生きている都市です」

 歩きながら周囲を見る。この街の人間たちは、皆どこか疲れた顔をしていた。だが同時に、生き延びている人間の目をしていた。完全に諦めた目ではない。明日を繋ぐために動き続ける人間の目だった。

 俺はそんな商店街のような場所の中を進みながら、まず保存食を扱っている店へと足を向けた。

 保存食を扱う店は、崩れた商業ビルの一階部分を鉄板で囲って作られていた。

 入口には簡易検問のように武装した男が一人立っている。肩には旧式ライフル。銃身には何度も整備された痕跡が残っていた。

 男は俺を一瞥して言う。

「探索者か?」

「まあ、そんなところだ」

「なら揉め事は起こすなよ。最近、外から来た連中が妙に荒れてる」

「覚えとく」

 短いやり取りを終え、中へ入る。店内は思った以上に広かった。崩壊前は大型スーパーだったのだろう。吹き抜け構造の名残が残っている。ただし天井の一部は崩落し、今では吹き抜けを支えるために補強材が何本も建てられていた。


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