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MRL  作者: 化琉壮一
第二章:サステル

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20/25

サステル:中心部

 サステル外周で一泊した後に俺は足を引きずりながら、ゆっくりと都市部へ入っていった。

 高速道路を降りた先には、補修された幹線道路がそのまま市街地へと続いていた。すべてが修復され切っているわけではない。路面にはアスファルトのひび割れが残り、ところどころ応急処置のように金属板が敷かれている。だが、それでも「通れる道路」として維持されていた。

 そして何より――人の流れがあった。

 小型の運搬車両が低い駆動音を鳴らしながら横を通り過ぎる。今では自動運転など使えなく旧時代のような手動の運転方式へと変わっていた。荷台には複数の資材や食料コンテナが積まれていた。車体は古いが、何度も修理を繰り返しては使われているのが分かる。

 歩道側には数人の人影。重装備を纏った旅人。工具を抱えた整備士。誰もが忙しなく動いていた。その光景に、思わず視線が止まる。

「……あの頃の日常だ」

「はい。サステルは現在も交易拠点として機能しています。山岳地帯を超えた先の中継地点として毎日一定数の人が流入、流出していっているようです」

 Alphaが淡々と説明する。視線を先へ向ける。崩壊したビル群の間には、新しく組み上げられた配線が何本も走っていた。各建物同士を繋ぐようにケーブルが張り巡らされ、所々で小型変圧器のような装置の稼働音が聞こえた。

 上を見れば、さっきも見た山岳地帯の尾根伝いに並ぶ巨大な風力発電機群。低い回転音を響かせながら、今もゆっくりと回り続けているのだろう。そしてその電力が、この都市を辛うじて動かしている。

 道路脇には店まで存在していた。廃ビルを利用して作られた簡易的な商業ビル。そこには保存食、工具、電子部品、浄水パック、弾薬ケース――この世界で価値を持つものが並べられている。

「使わない遺物ってどれくらいあった?」

 Alphaは既に把握していたのか、

「不必要な遺物が5つほどあります。ここで他の物に変えるのも手でしょう」

 奥では商人らしき男が、別の探索者と何かを交渉していた。

「このバッテリー、本当に生きてるのか?」

「昨日までは動いてた。確実に保証はしねえが、ここじゃマシな方だ」

 そんな会話が聞こえてくる。廃都市では存在しなかった音だった。人の声、取引の値切りの声、そして生活音。

 都市は確かに崩壊している。高層ビルの上層部は崩れ、ガラスは割れ、外壁は風化している。だが、その残骸の内部で、人々は当たり前のように暮らしていた。

 路地の奥には弱弱しい小さな明かりが灯り、それが人の営みを表している。どこかから漂ってくる食事の匂い。誰かがここで眠り、起き、今日を生きている。

「……廃都市の中に小規模な街を作り直したのか」

「正確には、崩壊した都市機能の一部を再利用している状態ですね。風力発電所以外にもここには小規模ながら核融合プラントがあります。今起動しているかは分かりませんがこれらが稼働していれば最低限の生活は保障できると思います」

 俺は小さく息を吐いた。ここは理想郷でも楽園でもない。だが少なくとも、完全に死んだ都市ではなかった。

 遠くでは、補修中らしい作業員たちが高架道路の一部を溶接している。別の場所では、探索帰りらしい集団が物資を積んだ車を走らせていた。

 人の出入りがあり物流が生きている。だから、この都市はまだ都市として成立している。俺はそんな光景を眺めながら、重くなった身体を引きずるようにして、サステルの中心部へと歩いていった。

 都市の中心部へ近づくにつれ、人の数はさらに増えていった。

 完全に復興しているわけではない。それでも、サステルには確かな秩序のようなものが存在していた。交差点では、簡易信号機の代わりに誘導灯を持った人間が交通整理を行っている。道路脇には再利用されたソーラーパネルが並び、屋上には雨水回収用のタンクが設置されていた。

 視界の端では、小さな広場のような場所で子どもが走っている姿まで見えた。その光景に、ほんの一瞬だけ現実感が薄れた。世界はとっくに廃れ切り何も残っていないと思っていた。だがここでは、その終わった世界の上でも、まだ生活が続いている。

「……不思議だな」

「何がでしょうか?」

「人が普通に暮らしてるのを見るのがだよ。もう崩壊してしまったと思い続けていた。だからこそこの日常がどこか浮いて見えるんだ」

 Alphaは数秒黙ったあと、静かに答えた。

「長期間、無人の廃都市ばかりを移動していましたから」

 その言葉に俺は小さく苦笑した。歩き続けるうち、視界に比較的大きな建物が見えてきた。崩壊前は栄えていた商業施設だったのだろう。しかし今では外壁は黒ずみ、上層階の一部はぽっかりと穴が開き崩落している。だが低層部分だけは最近補強され、現在も利用されているようだった。

 入口上部には、新しく塗り直された文字がある。

『サステル:中央交易区』

 その建物へは人の出入りが他の場所以上に多かった。今ではここがスーパーのようなものなのだろう。旅人も住民も同じようにこの建物へ入っていく。中へ入ると、さらに騒がしさが増した。各区画ごとに露店が並び、発電セル、医療用品、旧文明の端末、加工食品、衣類、工具類――ありとあらゆる物がその時の時価で取引されている。

 探索者同士の怒鳴り声。旅人らしき人と商人の値段交渉。その様子はまるで昔の市場だった。


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