高速道路-A12:オルテルトンネル:13400M
トンネルの暗闇の中へ、さらに一歩踏み込む。ナイトビジョン越しに映る世界は、外とはまるで別物だった。そばにある物の輪郭は見える。だが色が失われていた。それのせいか奥行きも奪われように感じてしまった。
足音が、やけに大きく響いた。足から鳴る乾いた音が前方へ飛び、わずかに遅れて跳ね返ってくる。その反響が、自分の位置を逆に曖昧にしていた。
数百歩進んでから後ろを見返した。さっきまであったはずの入り口は既に細い光となっていてその最後の筋でさえも失われようとしていた。そしてやがてそんな明かりさえも、闇に飲み込まれて消えていった。
「このトンネルの全長は16400Mです。地下トンネルを除くとトンネルの中では長い部類に入りますね。そして、サステルへ向かううちの半分がこのトンネルです」
「16キロか…このペースだと何時間くらいかかる?」
「そうですね…平均7時間ほどかかると思われます。障害物の量や視界の悪さに時間は左右されます」
Alphaはそう言った。この調子で進んでも、日没に間に合うかどうかギリギリなラインだ。だが、キャンプをするならトンネル外部へ行かなければならない。ただでさえ送風機が動いてない時点で酸素が限られている空間だった。そこで火なんて起こせばどうなるか簡単に想像できた。
しばらく方法を考えてみたが、どれも後退や間に合わないものしかなかった。いや、正確には方法は一つだけはあった。だがそれは、絶大な代償を伴う。
「Alpha。アシストシューズを使って、トンネル内を高速で抜ける。速度制御のサポートを頼んだ」
「了解しました。速度アシストを起動しました。いつでも始動できます」
視界の端に、アシストシューズの起動確認UIが浮かび上がる。
『現在のステータス』
――出力制限:制限済み
――安全制御補助:起動
俺は一瞬だけ、その表示を見つめた。バッテリーの消費と身体への負担…どちらも全部自己責任だ。だが迷う理由はない。指先を動かし、起動コマンドを確定する。
『アシストシューズ起動完了』
というログが流れ、足が軽くなる。明らかに、いつもと違う感じがした。重さが完全に消えたわけじゃない。だが、踏み込んだ力がそのまま返ってくる。その行動一つ一つにロスは見られなかった。
「現在、出力を段階的に上げています。現在30%。移動を開始してください」
視界の端に数値が浮かび上がる。
俺はもう一度、トンネルの奥へと視線を向けた。光の届かない完全な暗闇。だが今は、それがただの障害以外では無かった。
「……行くぞ」
力強く一歩、踏み出す。次の瞬間、世界が一気に加速した。靴底がアスファルトを捉えた瞬間、強い推進力が脚を押し出す。そして、強い一歩を踏み出す飛びにスパークのようなものが散る。速度の上昇は留まることを知らず早まっていく。視界の中で、壁も車も一気に後方へと流れていく。
辺りに風が生まれ始めた。空気の動かない閉じたはずの空間の中で、自分の速度が空気を裂きながら流れを作っていた。
「速度は安定しています。バランス制御補正中」
Alphaの声が遠くに聞こえる。すぐそこにいるAlphaの声でさえ速度のせいか遅れて聞こえた。だが足を止める理由はない。Alphaは今も、最高効率で制御を続けてくれている。むしろ、このまま止まれば、その反動のせいで余計に体勢を崩すだろう。
だから俺は止まらずに加速を続けながら――走る。トンネルの先、暗闇の奥へ。ずれることなく一直線に。このトンネルを、貫く弾丸のように…




