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MRL  作者: 化琉壮一
第一章『オルタビア』

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オルタビア:物流センター:A1-2

「これモジュールがあるじゃないか?Alpha、これ何か分かるか?」

 表面の埃を払いながら言う。

「型番が分かればデータベースに検索をかけれます」

 俺は、周りを見渡しそこに印字されていた型番らしきものを読み上げた。

「IR-R1001……そう書かれてるみたいだな。Alphaも俺の視界から見えるか?」

 手のひらのモジュールを軽く持ち上げる。小さいメモリーカードのようなモジュールは、鈍い銀色に光っていた。そして表面の細かい刻印だけが、かろうじて用途を示している。わずかな沈黙のあと、Alphaが答えた。

「IR-R1001ですね。検索を行っています……これは赤外線から電力を生成する発電モジュールです」

「主に世界が崩壊する約二年前に使用されていた旧型モデルです。文明崩壊直前に、より高効率な新型が開発されたため、既に生産は終了しています」

 相変わらず、聞いていない情報まで丁寧に返ってくる。いつもAlphaに一つ質問すると、必要な答えの数倍が付いてくる。最初は鬱陶しく思っていたが、今ではそんな追加の説明を聞くのには慣れていた。

「分かった、分かった。解説はもう十分だ」

 苦笑しながら手を軽く振る。

「で、このモジュール。お前に使えるのか?」

 余計な理屈より、今はそれが最重要だった。Alphaは間を置かずに答える。

「モジュールの効率はあまり高くありませんが、発電ユニットとして使用可能です。互換性にも問題はありません」

 迷いのない断言だった。俺はもう一度、手の中のモジュールを見る。指先に伝わる重さは軽い。だが、その中に詰まっているシステムは重さ以上だった。

 これはただのモジュールではない。この世界で生きていくための命そのものだ。電力の有無はその場で生存と直結する。電力が不足すればコンタクトレンズも、役に立たなくなる。付近の熱源を感知することもできない。それが意味するのは、死だった。

「なら決まりだな」

 俺はバックパックから工具キットを取り出す。重厚な金属ケースを開くと、最低限の整備用ツールがきれいに並んでいた。

「Alpha、接続ポートを開けてくれ」

「了解しました」

 即座に応答が返る。次の瞬間、Alphaの後部が静かな機械音と共に展開した。そこから露出したのはAlphaのコアユニット。複数の外装パネルがスライドし、内部の接続ポートがむき出しになる。そこには、予想以上に複雑な配線が走っていた。今の、計算されつくされた都市の風景とは真反対の無秩序なコードの山だった。

「……なんでこんなことになってるんだ?前、俺が触った時に絡まったのか?」

 思わず口に出る。その絡まった配線の隙間からコアから放たれる淡い光が漏れ、辺りが青白く輝いていた。

「そのモジュールのコードを右側ポートに接続してください。規格上、物理的にはそのまま装着可能です」

「モジュールの付け替えはやっぱりやりやすいな」

 短く返し、IR-R1001をモジュールスロットに差し込む。SDカードを差し込んだような乾いた音が倉庫に響いた。一瞬の静寂。次の瞬間。

「……IR-R1001モジュールの接続を確認。モジュールのシステムを初期化中…初期化完了」

 Alphaの声。それと同時に、コアの光がわずかに変化する。

「電力変換プロセスを開始します」

 低い駆動音と共に内部で何かが切り替わるような、音が鳴った。数秒後――Alphaの球体表面の一部が、ゆっくりと色を黒へと変えていく。

「モジュールによる発電を確認。室内であるため出力は低いですが、発電量は安定しています。発電量強化のためUV-A1001との併用を推奨します」

「このモジュールで活動可能時間はどれくらい増えたんだ?」

「現在のエネルギー消費量であれば、給電無しで二日ほど活動が可能です。ただし出力が小さいため、給電ができない環境下では高負荷処理を出来なくなります。やはりこれ以外のモジュールが必要ですね」

「……それでもこの世界では十分な性能だな」

 小さく頷く。電力消費量を軽減してたった二日…だが、この二日があるかないかで、生死は簡単に分かれる。文明が崩壊してからというもの、電力は常にこの先生きていけるであろう時間そのものだった。

  そして今、その時間を少しだけ延ばすことができた。わずか二日。それでも、この世界では十分すぎる余裕だった。

 俺はゆっくりと顔を上げ、広大な倉庫の奥へと視線を向ける。棚は――まだ残っている。そして、ここでもまだ倉庫の一区画に過ぎないのだ。そして倉庫の奥へ行くほど形を保っている区画が増えていっている。ここは、ただの廃墟じゃない。崩壊してもなお人々に物資を供給し続けている場所だ。

「Alpha、この倉庫の在庫リストは残ってないのか?」

 視線を奥に向けたまま問いかける。

「検索します」

 短い応答。だが、その数秒がやけに長く感じられた。もしデータが残っていればここを無駄に探し回る必要はない。だがもし逆に、無ければこの広大な倉庫の中から、当たりを引くしかない。

「……」

「断片的ですが、倉庫管理データが残存しています」

 その言葉に、わずかに息が緩む。

「何があった?」

「A1部分だけでも電子部品、旧型ドローン部品、医療キット、保存食……」

 Alphaはリストを淡々と読み上げていく。だが、その一つ一つが――軽くない。電子部品は、機材の修理や拡張に使えるし医療キットは負傷時の生存率を大きく左右する。保存食に至ってはそれそのものが生きれる時間だった。

「……全部、当たりじゃないか」

 思わず小さく呟く。ここは、ただの倉庫じゃなかった。この物資たちはこの都市がまだ機能していた頃の蓄えそのものだ。

「ただし、データの完全性は保証できません。実際の配置とはズレがある可能性があります」

「それでも十分だ。ここにあることさえわかれば問題ない」

 今手に入る情報としては、多すぎるほどの価値がそこには在った。視界の奥に暗闇に沈む棚の列が、どこまでも続いている。その一つ一つに、まだ使える何かが眠っているかもしれない。

 そして同時に――何も見つからない可能性も含んでいる。

 だがそれでも、可能性を信じながら今は前者に賭けるしかない。

「……探索を開始するか」

 静かに言い、足を踏み出す。靴底が床のほこりをわずかに動かす。その先にある物資たちがこの倉庫が死に切っていないことを示していた…

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