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MRL  作者: 化琉壮一
第一章『オルタビア』

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11/25

オルタビア:管理センター:サーバールーム

「……認証、通ったのか」

「はい。照合に成功しています」

 予想以上にあっさりとした結果だった。世界的なプロジェクトの研究員とはいっても、この国の管理団体ではないのだ。だからふつうはこんな簡単に認証が通るはずがない。

 さらにこのレベルの施設だ。ここに入るまでにも認証ゲートがあるほどだった。本来なら、更に複数段階の確認や遅延があってもおかしくない。

 それなのに――迷いなく、通された。

 そして、思考を巡らせる間もなく。重厚な扉が、低い駆動音と共に動き出す。ゆっくりと、左右へとスライドしていくその動きは滑らかで、劣化の気配を一切感じさせない。長い年月を経た機構とは思えないほど、正確で、静かだった。

 そして――完全に開いた。

 その先には、広大なデータサーバールームが広がっていた。自動ドアはその動きはあまりにも滑らかだった。使われなくなってから数年経過しているとは思えないほど、摩擦も引っかかりもない。ただ設計通りに、正確に動作している。

「……未だに現役か」

 小さく呟く。認証が通ったという事実が、じわじわと実感を伴ってくる。この施設はただ稼働しているだけじゃない。『個人識別』まで機能している。

「Alpha、そう言えば今の認証って……」

「生体認証および識別IDの照合が行われました。登録データベースが保持されている証拠です。きっとこの先のデータセンターに保存されているのでしょう」

「……俺の情報も残ってたってことか」

「はい。少なくとも、この施設の管理権限体系は完全には失われていません」

 扉が完全に開き切る。その向こうに広がっていたのは――先ほどよりさらに密度の高い空間だった。一歩、足を踏み入れると空気が変わった。

 外側のサーバーフロアよりもさらに温度が高く、乾いている。機械が発する熱と、それを制御する冷却のバランスが、明確に感じ取れる空間。壁面には電力などの表示パネルがありそこには、

『サーバー稼働率100%(維持中)』

『サーバー排気熱453℃』

『エネルギー変換効率:32%』

 そう表示されていた。

「サーバーで発電してんのか?」

「ここではサーバーの排熱から発電も行っているようですね。これによって電力の消費を抑えながら稼働させれているのだと思います…」

 サーバーには、炭化ケイ素やタングステン合金が使われていて、熱への体制は十分だった。頭上では大量のファンがサーバー内の熱を排熱し、タービンへと送っていた。その音は管理センターの入り口付近で聞いていた、微かな機械の駆動音とは比べものにならない。低く重なり合う駆動音。無数の情報演算や処理が同時に走ることで生まれる、連続した振動。

 それはもはや音というより、空間そのものが唸っているようだった

「……ここが中枢か」

「はい。ここが主要データサーバーセクションです」

 視界を巡らせる。ありとあらゆる隙間にサーバーが詰められていて一切の無駄な空間は無かった。すべてが機能のためだけに配置されている。

 そして中央には、他とは明らかに異なる装置があった。円柱状の構造体。きっとそこがデータにアクセスするための場所なのだろう。ほんのりと蒼い光をそれは放っていた。

「……あれがアクセスポイントか?」

「中央処理コアの可能性が高いです。全体のデータ統合および制御を担っていると推測されます。そこからはデータにアクセスすることが可能です」

 一歩、近づく。すると、蒼いホログラムが即座に展開された。そして、

『アクセス可能』

と表示された。

「Alpha、このデータベースにアクセスできるか?」

「試行可能です…ただし――」

 わずかな間が開き、言葉をつづけた。

「中枢への接続は、更に高度な権限要求が発生する可能性があります」

「でもさっきの認証は通ったんだろ」

「はい。しかし、あれはここに入れるかの権限であり、データの出し入れをするには権限が不足しています。先ほどの権限はあくまで最初の権限は入口レベルのものです」

「……なるほどな」

 視線を中央の機械へ向ける。ここが、この都市のすべてだ。いつ、何が起きたのか。どのように崩壊したのか。そして、この都市に住んでいた人はどこへ消えたのか。そのすべてが、集約されている。

「アクセスを試みてくれ…」

 静かに呟く。低く一定だったシステムの駆動音に、アクセスポイントの駆動音が重なった。

「……こちらを検知できるのか」

「はい。中枢システムがあなたのことを検知したため、インターフェースが展開されたと思われます」

 中央のアクセスポイントの前に立つ。表面を覆っていた蒼い光が、ゆっくりと形を変えていく。複数の内包されていた、インターフェースが姿を現した。

 ――展開されたのは、データへのアクセスを含む複数のインターフェース。

 そのインターフェースは、アクセスポイントから展開されることなく、コンタクトに直接映し出された。

「こんなことまで出来るのか…」

『ユーザー識別開始』

『現在の権限レベル:アクセス許可(制限付き)』

『メインデータにアクセスするには追加認証が必要です』

「……やっぱりダメか…」

「やはりメインデータへの干渉には追加の承認プロセスが必要みたいですね」

 一瞬、躊躇する。だがここで止まる理由は無かった。

「このまま続けてくれ」

「了解。接続を試行します」

 直後、視界の端に認証プロセスの進行度が表示された。その数値がゆっくりと上昇していく。それに比例するように、視界に流れ込む情報量が増えていった。


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