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MRL  作者: 化琉壮一
第一章『オルタビア』

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10/25

オルタビア:管理センター:546F

 視線を下へ向ける。変わらない階段、だがこの先に見るべきものが待っている。そして、この先には確実な変化があると俺は分かった。それだけで、さっきまでとは違って見えた。

「行くぞ」

 短く呟き、再び降下を再開する。一段ごとに、終点へと近づいていく。その実感が俺の足をさらに加速させた。そのまま止まることなく進み続ける。やがて、わずかな変化が現れる。

 あたりの空気の気温が上がっていっているような気がした。そして――何かの駆動音。これまでほとんど感じられなかった機械の動く駆動音が、徐々に明確になってきている。低く、規則的な振動、それは段を降りるたびに確実になっていった。

「近づいてるな」

「はい。現在データーサーバーセンター付近の階層に到達しています」

 視線を下へ向ける。同じ構造のはずなのに、どこか違って見える。光が、わずかに強い。そして空気の流れも、僅かだが感じられた。上層とは違って、この付近ではまだ時間は刻まれ続けていた。

「……確実にまだ生きてるな、この施設」

「はい。一部の設備を除き停止している可能性はありますが、稼働していることには変わりありません」

 短く答え、さらに下る。そしてついに、案内の矢印は螺旋階段の外を示していた。扉を押し開けフロアを確認すると、そこには

『546F』

 そう記されていた。

「やっとフロアについたのか…これ、帰りもあるんだよな…」

 既に500フロア以上を降りてきたという事実が、今になって重くのしかかってくる。だが、その疲労を実感するよりも先に――

 ドアの向こうの景色に意識が行った。ドアの向こうは、管理センターや情報棟の内部とは違い、電気が完全についていた。足元にあるライン状の非常灯と、天井のLEDが点滅することなく灯っていた。ナイトビジョンで探索を行っていた俺はその場のあまりにもの明るさに目を瞑った。しかし、すぐに補正が入りナイトビジョンは切れ、明るさは普通の明るさに戻った。

「久しぶりの人口灯だな」

「…弱い光の明かりは既に何回も見てますよ」

 Alphaはそう冷静に答えた。そう言うことではないのだが、それを説明していると厄介になりそうだったので俺は、

「そうだったな」

 そう答え、廊下を歩き始めた。しかしすぐに、大きな扉が見えた。

「この先がデータサーバールームなのか?」

「そうです。付近の温度状況を確認してみるに、サーバーは今も稼働していることが分かりました」

 俺は、所持しているバッテリーの残量を確認した。この先にあるドアがすべて自動で開く保証はない。場所によっては外部電力を直接供給して強引に起動させる必要も出てくるはずだった。バッテリー側面から拡張された画面に表示された数値を目で追う。

 そこに表示されていたバッテリー残量は十分とは言えない量だった。だが、想定している最低限のラインはかろうじて超えている。このまま無駄な消費を避ければ、少なくとも管理センターを出るまでは持つだろう。

「……これだけあればギリギリ足りるか」

 小さく呟き、視線を前へ戻す。だが――そんな心配は、まったくといっていいほど必要なかった。

 サーバールームの大扉の前に立った瞬間、壁面の一部が静かにせり出す。滑らかな動作で現れたのは、認証用のインターフェースだった。

「……ドアまで動いていたのか」

 思わず低く呟く。外部では不安定だった電力が、ここではまるで問題になっていない。それどころか、この区画は『今でも使用されること』を前提として、今も待機しているようにさえ見えた。

「追加電力は必要ないみたいだな…」

 確認するように言いながら、ゆっくりと手をパネルへとかざす。次の瞬間――認証が開始された。

 パネルの表面から、微細な光の粒子が浮かび上がる。それらは空中に展開すると、まるで意思を持つかのように俺の手へと集まり、絡みつくように広がっていった。その見た目は、発電施設に使われている蒼い冷却物質の様だったが冷たさは一切無かった。その蒼い粒子は皮膚の表面を筆でなぞるように、手の全面へ広がっていく。

「……スキャンか」

「はい。多重生体認証です。皮膚、血流、そして神経反応まで解析している可能性があります」

 粒子は一瞬ごとに密度を変え、手の輪郭をなぞりながら細かく解析を進めていく。確かに触れているはずなのに、実体がないせいか不気味に感じる。

 やがて、それらは収束し――静かに消えていった。

 少し間が空き次の瞬間、パネル上に映像が浮かび上がる。

 俺のID。そして、その横に表示される緑色の簡潔な文字。

 ――認証完了。


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