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青い霧  作者: 田中元一


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第1話―④ 大学病院での「聞き取り」

ある日――

白衣姿の若い医師が、大学病院の廊下を早足で歩いてきた。

受付の女性と二、三言交わすと、そのまま桜井の前に立つ。

「研修医の亀井です」 線の細い顔立ちに似合う、どこか気弱そうな声だった。

「JNLの桜井と申します。お忙しいところ恐縮です。例の特別便の件で、少しお話を伺えればと……」

「はあ……村中教授から話は聞いていますが、正直、僕からお話しできることはあまりないと       思いますけれど……」

亀井は無意識に、ボサボサの髪をかき上げた。

「村中教授から、医局の研修医の中でも、亀井先生は特に優秀だと伺いました」

その一言に、亀井の表情がわずかに緩む。

「三十分ほどで結構です。お茶でも飲みながら……」

「でしたら、医局の喫茶室で」

喫茶室は地下一階。大食堂の一角を衝立で仕切っただけの、簡素なスペースだった。

幸い、客は誰もいない。

「コーヒーでよろしいですか?」

桜井が尋ねると、亀井は首を横に振った。「いえ、僕はトマトジュースを」

桜井はコーヒーとトマトジュースを注文した。

「さっそくですが……」飲み物を待ちながら、桜井は切り出す。

「あの特別便で、機体後部――老人ホームの方々が座っていたエリアの検視を担当されたのは、

亀井先生だと伺いました」

「担当は確かに僕ですが、一人でやったわけではありません。T大から来られた先生方と、

4人で分担しました」

桜井が手帳を取り出すと、亀井は一瞬、身構えた。

「……検視結果に、何か問題でも?報告書は警視庁にも提出されているはずですが」

言外に、「今さら何を?」という戸惑いが滲んでいた。

「五百二十円です」無愛想な声とともに、飲み物が置かれる。

桜井は代金を支払い、亀井が一口トマトジュースを飲んだのを見て、静かに口を開いた。

「正式な検死結果に異議を唱えるつもりはありません。それを承知のうえで、

あえて先生にお話を伺いに来たのは……まるで刑事みたいですが……」

「と言いますと?」

「宇野早苗は――私の“義母になるはずだった人”なんです」

亀井は、グラスをそっとテーブルに戻した。

「それは……お気の毒に。では、宇野清二さんは、いずれお父様になるわけですね」

「いえ、まだ予定の段階ですが」 桜井は、千鶴との関係を簡潔に説明した。

「……なるほど。千鶴さんも、お母様を亡くされて相当お辛かったでしょうね」

一拍置いて、亀井は続けた。

「でも……あの事件で生存者が三人だけだった。その一人がお父様で、本当に良かったと……

心から、そう思います」

桜井は、そこで核心に踏み込んだ。

「検視の際、何か“引っかかる点”はありませんでしたか?」

だが――亀井の答えは、検死報告書とほぼ同じ内容だった。新しい事実は、何ひとつ出てこない。

「……そうですか」…桜井の落胆を察したのか、亀井は申し訳なさそうに言った。

「すみません。お役に立てなくて」そう言って、また髪をかき上げる。

消毒薬の匂いが残る病院を出ると、冬の落日が、高層ビル群をくっきりと明暗に分けていた。

何も得られなかった――はずなのに。桜井の胸には、説明のつかない違和感だけが、

静かに残っていた。

――――――――――――――― 次回予告――――――――――――

検視報告書には記されていない、「もう一つの共通点」。                              捜査は、生存者3名へと、静かに焦点を移していく。

――――――――――――――――――――――――――――


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