第1話―③JNL内部犯行説
第1話―③JNL内部犯行説
五十嵐は当初、「JNL内部犯行説」を疑っていた。
だが、ある事実を知ったことで、その前提を一度脇に置かざるを得なくなる。
青酸ガス発生装置は――空気循環ダクトの外側に、六本の金属パイプを束ねた構造体を固定。
特殊な噴出パイプと時限装置を組み合わせ、その噴出パイプはダクトに溶接されていた。
装置全体は粘着テープでダクトに固定されていた。
この詳細が五十嵐にもたらされたのは、事件から1年後。大岩を通じてのことだった。
五十嵐はJNL担当者を呼び出し、怒りを抑えきれず詰め寄った。
「なぜ、今までそれを黙っていた!?」
返ってきた答えは、あまりにも事務的だった。「公安から、 『空気循環ダクトにセットされていた』
とだけ説明するよう指示されていました。 詳細を公表すると、捜査に支障が出る、と……」
さらに、その後の調査で、ベテラン整備長の見解が明らかになる。
・ダクト本体への設置には高度な専門知識が必要。
・作業時間は最低でも1時間以上。
・通常の整備士や清掃業者には不可能。
・特別機のバンクーバー駐機中の警備は極めて厳重。
――つまり、バンクーバーでの設置は考えにくい。
装置は、別の場所で仕掛けられたと見るのが妥当だった。
一週間後、大岩は再び五十嵐を訪ねる。「公安で、新たに掴んだ情報があります」
そう前置きして告げたのは、決定的な一言だった。
「発生装置には、 時限装置が組み込まれていたそうです」
五十嵐は、思わず机を拳で叩いた。「公安の連中…… 自分たちの手柄にするつもりか!」
二人は二時間にわたり、捜査情報を突き合わせた。
しかし、浮かび上がった仮説は、どれも重すぎるものだった。
・装置はアンカレッジ空港で仕掛けられた可能性。
・犯人は機体構造に精通したプロの技術者。
・機内に共犯者がいた可能性。
・生存者、あるいは死亡者の中に協力者がいるのか。
・動機は何か。
もはや、五十嵐と大岩だけで抱えられる規模ではない。まずは、本部長の了承を得るしかない。
同時に五十嵐は、公安の不可解な動きに、強い違和感を覚えていた。公安の「政治的テロ」と 早々に結論づけようとする、その姿勢に。
だが、この事件の背後には、それだけでは説明できない“個人的な怨念”の気配が、
確かに漂っていた。
―――――――――――次回予告―――――――――――
公安が隠そうとする情報。警察内部に走る、見えない力。
そして浮かび上がる、「個人的な怨念」による犯行の可能性。 捜査は、ついに“国家の闇”と正面衝突する。
――――――――――――――――――――――――――――――




